VTuberの経費は、他の職種より判断が割れます。ゲームも、ガチャも、衣装も、配信のために使ったといえば使ったし、楽しんでいるといえば楽しんでいる。この曖昧さが、そのまま不安になります。
この記事では、グレーなものを白と言い切ることはしません。代わりに、判断の物差しと、後から説明できる記録の残し方を具体的に示します。結論を断定してくれる記事より、こちらのほうが実際には役に立つはずです。
判断の物差しは2つだけ
- その支出は、配信の収入を得るために必要だったか
- 私用でも使うものなら、業務部分を記録に基づいて区分できるか
2つめは法律にそう書かれています。生活と共用するものは家事関連費と呼ばれ、業務に必要な部分を記録に基づいて明らかに区分できる場合に限り、その部分だけが経費になります(所得税法45条1項1号、所得税法施行令96条)。
逆にいえば、記録さえあれば通ります。VTuberの場合、配信アーカイブという強力な証拠が残るのが有利な点です。
科目別の一覧
| 科目 | 具体例 | 判断のポイント |
|---|---|---|
| 外注工賃 | Live2Dモデル、3Dモデル、立ち絵、衣装差分、ロゴ、サムネイル、動画編集 | 金額が大きいものは資産計上の検討が必要(後述) |
| 減価償却費 | 配信用PC、マイク、オーディオインターフェース、カメラ、トラッキング機器(10万円以上) | 金額で扱いが変わる(後述) |
| 消耗品費 | マイクアーム、ケーブル、照明、防音材(10万円未満) | |
| 通信費 | インターネット、スマホ、クラウド、配信用の回線 | 私用部分を按分 |
| 地代家賃 | 自宅の配信スペース、防音室、スタジオ利用料 | 自宅は按分、専用スペースは全額 |
| 水道光熱費 | 電気代(配信・編集の時間分) | 按分。水道・ガスは通常入れない |
| 新聞図書費・資料費 | 配信で扱う書籍、資料 | 配信で使った回を紐づける |
| 支払手数料 | 事務所のマネジメント手数料、振込手数料、決済手数料 | 契約書で取り分の建て付けを確認 |
| 広告宣伝費 | SNS広告、名刺、イベント出展、ノベルティ | |
| ソフトウェア | 配信ソフト、編集ソフト、VTubeStudio等、BGM・効果音の素材サイト | サブスクは支払時の経費でよい |
| 雑費 | ゲームソフト、ゲーム内課金 | 配信で使ったことを示せるか(後述) |
モデル制作費(Live2D・3D)
VTuberの経費でいちばん金額が大きく、いちばん扱いに迷うのがここです。数十万円から百万円を超えることもあります。
考え方の出発点は、それが1年を超えて使う価値のあるものかどうかです。買った年に全額を経費にできるのは、短期で使い切るものです。長期にわたって活動の基盤になるモデルは、資産として計上し、使用する期間にわたって費用にしていくのが原則的な考え方になります。
ただし、モデル制作費の税務上の扱いは一律に決まっているわけではありません。著作権の譲渡を受けるのか利用許諾なのか、契約内容によっても変わります。金額が大きい場合は、次の点を整理したうえで税務署か税理士に確認してください。
- 契約上、著作権の譲渡を受けているか、利用許諾か
- どのくらいの期間使う想定か
- 支払いが一括か、分割か、売上に応じた変動か
- 差分・追加衣装の制作費は本体と分けて発注しているか
いずれの扱いになるにしても、発注書・契約書・請求書を必ず残してください。ここが残っていないと、どちらの説明もできなくなります。
なお、モデルの制作を個人のイラストレーターやモデラーに依頼した場合、あなたが源泉徴収をする側になることがあります。従業員に給与を支払っている個人事業主は源泉徴収義務者にあたります(関連記事も順次追加します)。
ゲーム・ガチャ・課金
「ゲーム実況をしているからゲーム代は全部経費」とはいきません。判断の分かれ目は配信で使ったことを示せるかです。
| 状況 | 考え方 |
|---|---|
| 配信のために購入し、実際に配信した | 経費にできる。配信日とアーカイブを紐づける |
| 買ったが配信しなかった | 経費にしない |
| ガチャを配信企画として回し、その様子を配信した | 企画として配信した分は経費にできる余地がある |
| 配信外でも同じゲームを遊び込んでいる | 私用部分がある。全額は難しい |
| 強くなるために配信外で課金した | 経費にしない |
おすすめは、購入日・タイトル・配信した日・アーカイブのURLを1行で記録しておくことです。年末にまとめてやろうとすると必ず思い出せなくなります。この1行があるかないかで、説明できる範囲がまったく変わります。
課金額が大きくなる企画では、企画として事前に告知したことが分かる投稿も残しておくと、業務性の説明が強くなります(関連記事も順次追加します)。
衣装
衣装は、アバターの衣装と現実の服で扱いが分かれます。
- アバターの衣装差分・3Dの衣装データ:配信以外に使いようがないので、経費にできます。金額が大きければモデル本体と同じく資産計上の検討をします
- 現実の服・メイク・美容:日常生活でも着られるものは、原則として経費になりません。顔出し配信やイベント出演で使うものであっても、私生活で使えるものは通りにくいと考えてください
- 明らかに業務専用の衣装(コスプレ衣装、イベント用の着ぐるみなど)は、業務用途を説明できれば経費にできます
家賃・電気代・通信費の按分
自宅で配信している場合、家賃の一部を経費にできます。按分の方法は2つです。
- 面積で按分:配信スペースの面積 ÷ 部屋全体の面積。間取り図に機材の配置を書いて保存
- 時間で按分:配信と編集の時間 ÷ 168時間(1週間)。配信アーカイブが時間の証拠になります
VTuberは配信時間の記録が自動で残るので、時間按分と相性が良い職種です。編集や企画準備の時間も含めてよいので、作業ログをつけておくと按分率を上げられます。
防音室の設置費用や、配信専用に借りた部屋は、私用部分がないので全額経費にできます(関連記事も順次追加します)。
機材は金額で扱いが変わる
| 1台あたりの金額 | 扱い |
|---|---|
| 10万円未満 | 買った年に全額経費 |
| 10万円以上20万円未満 | 通常の減価償却のほか、一括償却資産として3年均等償却も選べる |
| 20万円以上 | 耐用年数にわたって減価償却(PCは4年) |
青色申告なら少額減価償却資産の特例が使えます。基準額は令和8年4月1日以後に取得したものは40万円未満(それ以前は30万円未満)です。白色申告では使えません。
判定は按分前の購入価格で行います。25万円のPCを事業割合70%で使うなら、判定は25万円で行い、計算した償却費に70%を掛けます(関連記事も順次追加します)。
経費にならないもの
- 自分への給料。個人事業では自分に払う給与という概念がありません
- 所得税・住民税。個人事業税や消費税は経費になります
- 健康保険料・国民年金。経費ではなく社会保険料控除として所得から引きます
- 日常生活でも使う服・美容・食費
- 配信していないゲーム・課金
- 他のVTuberへの投げ銭。交流のためであっても、業務との関連の説明が難しい支出です
記録は3つだけ習慣にする
- 買ったものは用途を一言メモする(「〇月〇日の配信用」)
- ゲーム・課金は配信日とアーカイブURLを紐づける
- ネットで買ったものは領収書PDFを電子のまま保存する(電子取引は電子保存が原則)
まとめ
- 判断の物差しは収入との関連性と私用部分を記録で区分できるか
- モデル制作費は金額が大きい。契約書を残し、資産計上の要否は確認する
- ゲーム・ガチャは配信で使ったことを示せるか。アーカイブが最強の証拠
- 現実の服・美容は原則として経費にならない
- 配信時間の記録があるので時間按分と相性が良い
- 機材は10万円・20万円が分かれ目。青色なら少額特例(令和8年4月1日以後は40万円未満)
按分の根拠と、収入の集計は、年末にまとめてやろうとすると必ず崩れます。按分割合の記録から、プラットフォームごとの売上・手数料・源泉徴収額の突合までを1枚にまとめたExcelを用意しています。
経費の記録を習慣化する
機材・外注・家事按分など、判断根拠を残しながら管理するためのExcelをまとめています。
この記事は一般的な情報の提供を目的としています。特にモデル制作費の扱いは契約内容によって結論が変わります。個別の判断は税務署または税理士にご確認ください。
