時間外労働の上限規制は罰則付きの法律上の義務ですが、「月45時間・年360時間」だけ見ていれば安心、ではありません。特別条項を結んでいる会社には複数月平均80時間という、毎月ローリングで計算し続けなければならない基準があり、これを手作業で追うのはほぼ不可能です。
この記事では、36協定の上限規制を整理し、勤怠データから残業時間を月次集計し、すべての上限基準を自動チェックするExcel管理表の作り方を解説します。
36協定の上限規制の基本
| 基準 | 内容 | 対象時間 |
|---|---|---|
| 原則 | 月45時間・年360時間以内 | 時間外労働のみ |
| 特別条項① | 年720時間以内 | 時間外労働のみ |
| 特別条項② | 月100時間未満 | 時間外+休日労働 |
| 特別条項③ | 2〜6か月のすべての平均が80時間以内 | 時間外+休日労働 |
| 特別条項④ | 月45時間超は年6回まで | 時間外労働のみ |
ポイントは基準ごとに「休日労働を含むか否か」が違うこと、そして③は「直近2か月平均・3か月平均・4か月平均・5か月平均・6か月平均のすべて」が80時間以内でなければならないことです。この複雑さこそExcel化すべき理由です。
Excel管理表の作り方
ステップ1:月次データの構造
1行1人×月の縦持ちで、勤怠システムから「時間外労働時間」と「法定休日労働時間」を分けて取り込みます。この2つを分けて記録できていることが大前提です(混ざっている場合は勤怠側の設定見直しから)。
- A:氏名 B:対象月 C:時間外労働時間 D:法定休日労働時間 E:C+D(合算)
ステップ2:判定シートで5つの基準を自動チェック
月45時間チェック:=IF(C2>45,"45h超","")
月100時間チェック:=IF(E2>=100,"違反リスク(100h以上)","")
年360/720時間:=SUMIFS(C:C,A:A,氏名,B:B,">="&年度開始月)
45h超の回数:=COUNTIFS(A:A,氏名,C:C,">45",B:B,年度内)&"回/6回"
複数月平均(例:直近2か月):=AVERAGEIFS(E:E,A:A,氏名,B:B,">="&EDATE(当月,-1))
複数月平均は2〜6か月の5パターンをそれぞれ列にし、1つでも80時間を超えたら赤表示にします。AVERAGEIFSとEDATEの組合せで「直近nか月」を機械的にずらせます。(関連記事:No.40 SUMIFSによる集計の自動化)
ステップ3:予防のための先読みアラート
違反してから気づいても手遅れです。「今月あと何時間まで働けるか」を逆算する列を設けます。
今月の残り許容時間(100h基準):=100-E当月-1
平均80h基準の残り:=80*2-E前月-E当月 (2か月平均が最も厳しくなるケース)
月中アラート:=MIN(上記2つ)が20時間を切ったら黄色表示
前月に80時間を超える残業があった人は、当月は「160−前月実績」までしか働けません。この逆算値を月初に現場のマネージャーへ共有する運用が、実効性のある予防策になります。
数値例:前月95時間だった従業員の当月上限
| 基準 | 計算 | 当月の上限 |
|---|---|---|
| 月100時間未満 | 単月判定 | 99時間台まで |
| 2か月平均80時間 | 160−95 | 65時間まで |
| 3か月平均80時間(前々月70hの場合) | 240−70−95 | 75時間まで |
「100時間未満だから95時間でもあと数時間は大丈夫」という誤解が最も危険です。複数月平均の逆算により、実際の上限は65時間。基準ごとの逆算値のMINをとることで、この判断ミスを構造的に防げます。
実務の注意点・つまずきポイント
- 法定内残業と法定外残業を区別する:所定労働時間が7時間の会社の「残業1時間目」は法定内(週40時間以内)の可能性があり、上限規制の対象時間とは異なります。勤怠側の集計定義を必ず確認してください。
- 協定の起算日で年間カウントする:年360時間・720時間・年6回は36協定の対象期間(起算日から1年)で数えます。年度・暦年と混同しないよう、起算日をマスタに持たせましょう。
- 複数月平均は協定期間をまたいでも計算する:2〜6か月平均のチェックは新旧の協定期間をまたいで連続して行います。年度替わりでリセットされない点は誤解が多いポイントです。
- 管理監督者・裁量労働制でも把握義務はある:上限規制の適用が異なる働き方でも、労働時間の状況把握(健康確保措置)は必要です。全員を管理表に載せる設計にしてください。
- 割増賃金の計算と連動させる:月60時間超の時間外は割増率50%です。上限チェックと同じデータで割増計算のチェックもできます。(関連記事:No.25 給与計算のExcel実務)
よくある質問
Q. 上限を超えたらどうなりますか?
上限規制違反には6か月以下の懲役または30万円以下の罰金が定められており、是正勧告・企業名公表のリスクもあります。労基署の調査では36協定と勤怠記録の突合が基本動作のため、管理表による日常管理が最大の防御になります。
Q. 特別条項がなければ複数月平均の管理は不要ですか?
特別条項がない会社は月45時間・年360時間の原則が上限になるため、80時間平均の管理は実務上問題になりにくいです。ただし45時間超過が1回でもあれば協定違反ですから、月45時間アラートの重要性はむしろ高くなります。
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まとめ
- 上限規制は月45h/年360hの原則に加え、特別条項でも年720h・月100h未満・複数月平均80h・45h超年6回の制限がある
- 基準ごとに休日労働を含むかが異なり、複数月平均は2〜6か月の全パターン確認が必要
- ExcelならAVERAGEIFS+EDATEでローリング平均を自動化し、逆算で「あと何時間」まで示せる
- 実際の上限は最も厳しい基準で決まる。単月100時間だけ見る運用は危険
- 協定の起算日管理と法定内外の区別を正しく設定し、勤怠データの定義も確認する

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