従業員が自分の財布やクレジットカードで支払った経費を、あとから会社が払い戻す——立替経費の精算は、どの会社にもある定番業務です。ところが使われている様式の多くは「日付・内容・金額・合計」しかなく、経理は受け取ってから消費税区分を判定し、インボイス(適格請求書)の有無を1枚ずつ確認し、科目を割り振り直しています。申請者が持っている情報を、経理が後から探し直している状態です。
この記事では、経理側の作業をそのまま減らす立替経費精算書の設計を、税率別集計・インボイス区分・入力規則の観点から解説します。あわせて、この設計を組み込んだ立替経費精算書テンプレート(Excel)を無料でダウンロードいただけます。会員登録は不要です。
また、免税事業者からの仕入れに関する経過措置の控除割合が2026年10月1日から変わります。立替経費はこの影響が最も出やすい領域なので、後半で整理します。
立替経費精算書テンプレートの無料ダウンロード
- ファイル形式:Excel(.xlsx)/A4縦1ページ・20明細行
- シート構成:入力用/記入例/使い方の3枚
- 自動計算:合計金額と、税率別(10%・8%・対象外)の内訳
- 入力補助:勘定科目16種・インボイス区分・税率のドロップダウン
- そのまま印刷:A4縦1ページに収まる印刷設定を適用済み
マクロ(VBA)は使用していません。社内利用・顧問先への配布ともに自由にお使いいただけます(再配布・再販売のみご遠慮ください)。
「合計だけ」の様式が経理の時間を奪う理由
立替経費精算書の目的は、従業員にお金を返すことだけではありません。その支出を正しい科目・正しい税率で帳簿に載せることまでがゴールです。ところが多くの様式は前者しか設計されていないため、後者の作業がまるごと経理に残ります。
ここで効くのが、情報を持っている人に、その場で入力してもらうという発想です。「その茶菓子は軽減税率か」「そのレシートに登録番号はあるか」を一番よく知っているのは、レシートを手にしている申請者本人です。経理が後から1枚ずつめくって判定するより、申請の時点でチェックさせたほうが早く、正確になります。
そのために必要な列は、たった2つです。「税率」と「インボイス区分」。この2列を足して自動集計させるだけで、精算書がそのまま仕訳の元データになります。
立替経費精算書の列設計
| 列 | 入力方法 | 設計のポイント |
|---|---|---|
| 日付 | 手入力(日付形式のみ) | レシートの日付。精算日ではない |
| 支払内容 | 手入力 | 「何を買ったか」。品目を書かせる |
| 勘定科目 | ドロップダウン | 10〜16科目に絞る。自由入力は表記ゆれの元 |
| 支払先 | 手入力 | 店名。インボイスの照合に使う |
| 利用目的 | 手入力 | 「何のために」。業務関連性の証拠 |
| インボイス | ドロップダウン | 適格/区分記載/なし/対象外 |
| 税率 | ドロップダウン | 10%/8%/対象外 |
| 金額(税込) | 手入力(数値のみ) | 単位はセルに書かず列見出しへ |
「支払内容」と「利用目的」を1列にまとめている様式をよく見かけますが、分けてください。税務調査で問われるのは「何を買ったか」ではなく「何のために買ったか」です。1列だと申請者はたいてい品目だけを書き、目的が残りません。会議費・交際費まわりでは特に効いてきます(No.53 交際費の1万円基準の管理)。
組み込む数式と入力規則
税率別の内訳を自動集計する
合計 =IF(COUNT(金額列)=0,"",SUM(金額列))
10%対象 =SUMIF(税率列,"10%",金額列)
8%対象 =SUMIF(税率列,"8%",金額列)
対象外 =SUMIF(税率列,"対象外",金額列)
科目別集計 =SUMIF(科目列,科目名,金額列)
税率別の内訳が出ていれば、経理は精算書を見ながらそのまま仕訳を切れます。1枚ずつレシートをめくって「これは8%」と判定し直す作業が丸ごと消えるので、削減効果がいちばん大きい部分です(No.40 SUMIFSによる集計の自動化)。
集計の基準セルを固定値にしない
上の数式で"10%"と直接書き込むのはおすすめしません。税率区分を入力可能なセルに置き、そのセルをSUMIFの条件に参照させる設計にしてください。税率が改正されても、数式を触らずに区分名を書き替えるだけで対応できます。テンプレートを長く使ってもらうための基本設計です(No.150 テンプレート設計の原則)。
不備を書式で検知する
- 金額があるのに科目・税率が空欄の行を、条件付き書式で赤くする
- 勘定科目・インボイス区分・税率はすべてドロップダウン。自由入力させない
- 数式セルはロックのままシート保護をかけ、入力セルだけ解除する(パスワードなし)
インボイス制度と立替経費
従業員名義のレシートで控除できるか
立替経費で最初につまずくのがここです。整理すると次のようになります。
- 宛名が空欄のレシート(適格簡易請求書)……小売・飲食・タクシー等が発行する適格簡易請求書はもともと宛名の記載が不要です。空欄のままならそのまま保存すれば足ります。立替経費の大半はこちらです
- 宛名欄に従業員名が印字されている場合……適格簡易請求書であっても、そのまま保存しただけでは仕入税額控除はできません。その従業員が自社に所属していることが分かる従業員名簿等を併せて保存するか、名簿等がなく立替払いをした従業員を特定できないときは、従業員から立替金精算書の交付を受けて保存する必要があります(国税庁インボイスQ&A 問94-2)
- 取引先に立て替えてもらった場合……取引先名が宛名の適格請求書だけでは控除できません。立替金精算書とセットで保存します(同 問94)
立替金精算書には、自社の負担額が明らかにされていること、課税仕入れの相手方の氏名・名称と登録番号を確認できること、税率ごとに区分した対価の額と消費税額等、といった情報が必要です(相手方の登録番号は、別途の通知書面や継続的取引の契約書等で明らかなときは精算書への記載を省略できます)。精算書のフォーマット自体にこれらの項目を持たせておけば、別途書類を作る必要がありません。テンプレートの「支払先」「インボイス」「税率」列は、この要請に対応した設計です(No.67 登録番号の一括チェック)。
2026年10月1日から経過措置の控除割合が変わる
免税事業者など、適格請求書を発行できない相手からの仕入れについては、仕入税額の一定割合を控除できる経過措置が設けられています。この割合が2026年(令和8年)9月30日までは80%、10月1日からは70%になります。
もともとは10月から50%へ一気に下がる予定でしたが、令和8年度税制改正(令和8年3月31日成立)で段階が細かくなり、終了時期も2年後ろ倒しになりました。改正後のスケジュールは次のとおりです。
| 期間 | 控除割合 |
|---|---|
| 〜2026年9月30日 | 80% |
| 2026年10月1日〜2028年9月30日 | 70% |
| 2028年10月1日〜2030年9月30日 | 50% |
| 2030年10月1日〜2031年9月30日 | 30% |
| 2031年10月1日〜 | 適用終了 |
あわせて控除限度額も見直されました。適格請求書発行事業者以外の者からの課税仕入れの合計額が、その年またはその事業年度で1億円(改正前は10億円)を超える場合、その超えた部分については経過措置を適用できません。この見直しは2026年10月1日以後に開始する課税期間から適用されるため、たとえば12月決算の法人であれば2027年1月開始の事業年度からとなります。
いずれにせよ、10月1日をまたぐと控除できる金額は減ります。立替経費は個人商店や小規模事業者からの購入が混ざりやすいため、影響が出やすい領域です。
実務上やるべきことは1つ、精算書の「インボイス」列を必ず埋めさせることです。適格/なしの区別が申請の時点で付いていれば、経過措置の対象額を集計でき、割合が変わっても計算をやり直すだけで済みます(No.5 インボイス対応の消費税区分集計)。
もう一つ押さえておきたいのが少額特例です。基準期間の課税売上高が1億円以下、または特定期間の課税売上高が5,000万円以下の事業者は、税込1万円未満の課税仕入れについて帳簿の保存のみで控除が認められます(令和5年10月1日から令和11年9月30日までの課税仕入れが対象。令和8年度税制改正でもこの期限は変更されていません)。特定期間の判定では、納税義務の判定と違って給与支払額の合計額に置き換えることはできない点に注意してください。1万円未満かどうかは1回の取引ごとに判定します。
そもそも立替を減らせないか
精算書を整えるのは対症療法でもあります。法人カードや請求書払いに寄せれば、立替そのものが発生しません。毎月の立替件数が多い会社は、様式の改善と並行して立替を減らす方向も検討してください(No.128 小口現金を廃止する手順)。
テンプレートをもう一度ダウンロード
単品ファイルと、経理帳票5点セットをこちらからダウンロードできます。会員登録は不要です。
関連テンプレートのご案内
承認フローの3段化、科目別集計、経過措置対象額の自動抽出まで組み込んだ経費精算のテンプレートもご用意しています。顧問先へ配る様式としてそのままお使いいただけます(No.24 経費精算書のExcelテンプレート設計)。
まとめ
- 立替経費精算書のゴールは「お金を返すこと」ではなく「正しい科目と税率で帳簿に載せること」
- 「税率」と「インボイス」の2列を足し、税率別内訳を自動集計させれば、経理の判定作業が消える
- 「支払内容」と「利用目的」は分ける。調査で問われるのは目的のほう
- 従業員名義の適格請求書は立替金精算書とセットで保存する。必要項目は精算書の様式に持たせておく
- 経過措置の控除割合は2026年10月1日から80%→70%。あわせて1億円の控除限度額も新設された。インボイス区分の記録が対応の前提になる
※ 本記事の税務に関する記述は2026年8月19日時点の法令等に基づいています。インボイス制度の特例・経過措置は改正が続いているため、実際の処理にあたっては国税庁「消費税の軽減税率制度・インボイス制度」で最新の取扱いをご確認ください。本記事は一般的な情報提供を目的としたもので、個別の判断は顧問税理士等の専門家にご相談ください。
