採用1人あたりの人件費総額をExcelでシミュレーションする【社保・賞与込みの本当のコスト】

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【2026年7月20日更新】子ども・子育て支援金(2026年4月開始)を社会保険料の構成に追記しました。

「月給25万円で1人採用したい」と考えたとき、会社が実際に負担する年間コストはいくらでしょうか。300万円? 実際には、社会保険料の会社負担・賞与・各種手当・採用や教育のコストまで含めると、額面年収の1.3〜1.5倍になるのが普通です。ここを見誤ったまま採用すると、売上は増えたのに利益が消える「増員貧乏」に陥ります。

この記事では、採用1人あたりの人件費総額をExcelで自動計算するシミュレーターの作り方を解説します。採用の意思決定資料として、また税理士事務所が顧問先の採用相談に答えるツールとして使える設計です。社会保険の料率は毎年改定されるため、実際の計算では最新料率への差し替えを前提にしてください。

目次

人件費総額の構成要素を知る

月給の他に会社が負担する主な項目は次のとおりです。

  • 社会保険料の会社負担:健康保険(約5%。協会けんぽは都道府県で異なる)+厚生年金(9.15%)+介護保険の会社負担分+子ども・子育て拠出金(0.36%)で、給与のおおむね15〜16%。さらに2026年4月からは子ども・子育て支援金(医療保険とあわせて徴収・労使折半。料率は加入する医療保険者が公表する値を確認)が加わったため、料率マスタに支援金の行も追加します
  • 労働保険:雇用保険の会社負担(業種別。一般の事業で1%弱)+労災保険(業種で大きく異なる。事務系0.3%〜建設業数%)
  • 賞与:支給月数分の給与に加え、賞与にも社会保険料の会社負担がかかる
  • 諸手当・福利厚生:通勤手当、退職金積立(中退共等)、健康診断、備品・PC・ソフトライセンス
  • 初期コスト:求人広告・紹介手数料(年収の30〜35%が相場)、教育期間中の先輩社員の時間コスト

Excelシミュレーターを作る手順

ステップ1:入力欄と料率マスタを作る

入力は「月給/賞与月数/通勤手当月額/退職金積立月額/業種(労災料率の選択用)」の5つ。健康保険・厚生年金・雇用保険・労災の料率は別シートのマスタに置き、毎年の料率改定時にマスタだけ差し替える設計にします(関連記事:No.72 標準報酬月額の等級判定)。

ステップ2:年間総コストの計算式を組む

年間給与 =月給*12+月給*賞与月数
社保会社負担 =(年間給与)*社保料率合計
労働保険 =年間給与*(雇用保険料率+労災料率)
年間総コスト =年間給与+社保会社負担+労働保険+通勤手当*12+退職金積立*12+その他福利厚生
倍率 =年間総コスト/(月給*12+月給*賞与月数)

「額面の何倍か」を表示する倍率セルが、経営者への説明で最も効く1行です。多くのケースで1.3倍前後になり、「月給25万円の人の実コストは年間約470万円」という具体的な数字が意思決定の解像度を変えます。

ステップ3:回収ラインを計算する

採用判断は「コストが払えるか」ではなく「回収できるか」です。粗利率を入力すると、その人件費を賄うのに必要な追加売上が自動計算されるようにします。

必要追加売上 =年間総コスト/粗利率

粗利率30%の会社なら、年間総コスト470万円の回収には約1,570万円の追加売上が必要――この逆算が「1人採ったら売上をいくら増やす計画か」という問いに変わります。労働分配率(関連記事:No.87 労働分配率の計算)とあわせて見ると、適正人件費の水準判断までつながります。

ステップ4:初年度と2年目以降を分けて表示する

初年度は採用費・教育コスト・立ち上がり期間(戦力化まで3〜6か月)を上乗せし、2年目以降の定常コストと分けた2段表示にします。「初年度は回収できなくて当然、何か月で黒字化するか」を見える化すると、採用時期の判断(繁忙期前か、余裕のある時期か)も合理的にできます。

実務の注意点・つまずきポイント

  • 料率は毎年変わる:協会けんぽの健康保険料率は都道府県別に毎年3月分から改定、雇用保険料率も年度で変わります。2026年4月開始の子ども・子育て支援金は段階的に料率が引き上げられる予定のため、特に年度更新を忘れずに。マスタの更新日を記録する欄を設けてください
  • パート採用は社保加入要件で分岐:週の労働時間・企業規模によって社会保険の加入義務が変わり、コスト構造が大きく異なります(関連記事:No.133 扶養の壁シミュレーション
  • 残業前提の設計は危険:残業代を織り込むなら割増率込みで別行に。「残業で回す」前提はコスト面でも定着面でも高くつきます
  • 助成金は「入るかもしれない収入」として別枠に:キャリアアップ助成金等は要件・時期が不確実なため、基本計算には含めず参考表示にとどめるのが安全です
  • 退職リスクも織り込む:早期退職時は採用費・教育費が回収不能になります。定着施策とセットで考えるのが実務です

採用人件費シミュレーターのご案内

本記事のモデル(料率マスタ→年間総コスト→倍率表示→必要追加売上の逆算→初年度/定常の2段表示)を完成品にした「採用人件費シミュレーターExcel」を用意しています。月給と賞与月数を入れるだけで「本当のコスト」と回収ラインが1画面に表示され、経営会議・顧問先面談の資料としてそのまま印刷できます。シフト制の人件費管理はシフト人件費表(関連記事:No.137 シフト人件費の計算)をどうぞ。

まとめ

  • 採用1人の実コストは額面年収の1.3〜1.5倍。社保会社負担だけで給与の15〜16%
  • 料率はマスタ化して毎年差し替え。賞与にも社保がかかる点を忘れない
  • 判断基準は「必要追加売上=年間総コスト÷粗利率」の回収ライン
  • 初年度(採用費・教育・立ち上がり)と定常年を分けて表示する
  • パートの社保加入分岐・残業前提・助成金の扱いに注意する
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