扶養の壁(103・106・130・150万円)をExcelでシミュレーションする

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【2026年7月19日更新】令和7年度税制改正(基礎控除・給与所得控除の見直し、特定親族特別控除の創設。令和7年分以後適用)に対応した内容へ更新しました。

「103万円を超えると損」「130万円の壁が一番怖い」――パート・アルバイトの働き方の相談で必ず出てくる「扶養の壁」。ところが令和7年度税制改正で、長年の「103万円の壁」は大きく引き上げられました。それでも税金の壁と社会保険の壁が混在しており、本当に手取りが減る壁とほとんど影響のない壁がある構図は変わっていません。古い基準のまま働く時間を抑えてしまうと、世帯にとっても職場にとっても損失です。

この記事では、各壁の意味を整理したうえで、年収を横軸に世帯手取りの変化をグラフ化するExcelシミュレーションの作り方を解説します。働き損ゾーンがどこにあるか(そして意外に狭いこと)を可視化できれば、従業員への説明資料としてもそのまま使えます。なお、税・社会保険の金額基準は改正が続いている論点のため、本記事の数値は代表的な水準の例であり、作成・利用時は必ず最新の制度をご確認ください

目次

基礎知識:壁は「税の壁」と「社保の壁」に分けて理解する

税の壁:実は「崖」ではない

令和7年度税制改正(令和7年分以後適用)で、基礎控除は58万円へ引き上げ(合計所得金額に応じた上乗せがあり、合計所得132万円以下は95万円)、給与所得控除の最低保障額は65万円になりました。これにより税の壁の金額は次のように変わっています。

  • 本人に所得税がかかり始めるライン:おおむね給与収入160万円(基礎控除95万円+給与所得控除65万円。旧「103万円の壁」に相当)。超えた分に課税されるだけなので、手取りが逆転することはない
  • 扶養に入れるライン(旧103万円):給与収入123万円(扶養親族・同一生計配偶者の合計所得要件が48万円→58万円に引上げ)
  • 大学生年代(19〜23歳未満)の子:特定親族特別控除の創設により、給与収入123万円を超えても188万円までは親側で段階的に控除(150万円までは満額63万円)が受けられ、いきなり控除が消える崖ではなくなった
  • 配偶者特別控除の満額ライン:おおむね給与収入160万円まで(旧150万円)。その後も段階的に減る設計のため、ここも働き損にはならない
  • 配偶者手当の基準:勤務先の家族手当が「103万円以下」等の旧基準のままの場合、その支給停止は手取りに直撃します。制度上の壁より会社の手当基準の方が影響が大きいケースは多く、改正後は手当基準の見直し状況の確認が必須です

社保の壁:本当の「崖」はこちら

  • 106万円の壁:一定規模以上の企業で週20時間以上等の要件を満たすと、勤務先の社会保険に加入。保険料負担で手取りが下がる一方、厚生年金・傷病手当金など給付が手厚くなる「投資」の側面もある(適用要件は段階的に拡大中・要最新確認)
  • 130万円の壁:配偶者の扶養(第3号被保険者・健保の被扶養者)から外れ、自分で国保・国民年金に加入するライン。保険料負担だけ増えて給付の上乗せが乏しい、最も影響の大きい崖

つまりシミュレーションの主戦場は106万円と130万円の社保の壁です。壁を越えるなら、負担を吸収して手取りが回復する年収まで一気に越えるのが定石になります。

Excelでシミュレーションモデルを作る手順

ステップ1:前提条件の入力欄を作る

本人の時給・勤務先の企業規模(社保適用の対象か)、配偶者の年収・所得税率、配偶者手当の有無と基準・月額、居住地の国保料率(概算)を入力欄にします。結果を左右する変数を入力欄に分離しておくことで、従業員ごと・制度改正ごとの再計算が数秒になります。

ステップ2:年収別の手取り計算表を作る

本人年収を60万円〜200万円まで5万円刻みで縦に並べ、各行で次を計算します。

本人の税・社保 = 所得税+住民税+社会保険料(106万/130万の壁の該当判定をIFで分岐)
配偶者側の影響 = 配偶者(特別)控除の減少による税負担増 + 配偶者手当の減少
世帯手取り = 本人年収 − 本人の税・社保 + 配偶者手取りへの影響額

社会保険料は標準報酬月額表から料率で概算し、130万円超で国保・国民年金へ切り替わる分岐を組みます。厳密な計算より、壁の前後で世帯手取りがどう動くかの形を正しく出すことがこのモデルの目的です。

ステップ3:世帯手取りのグラフで「働き損ゾーン」を見せる

横軸=本人年収、縦軸=世帯手取りの折れ線グラフを作ると、社保の壁のところで線がガクッと落ちてから回復していく谷が現れます。谷を抜けて元の手取りを超える年収(例:130万円の壁なら150〜160万円前後が目安になることが多い)をグラフ上に明示すれば、「壁の手前で止める」「谷を一気に越える」の2択が視覚的に判断できます。

ステップ4:本人向けの説明シートを添える

企業の実務では、年末に扶養内パートの勤務調整が集中して人手不足になる「12月問題」が起きがちです。年初に本人の希望年収を聞き、月別の勤務時間配分表(年収見込みの進捗管理)を渡しておくと、年末の急ブレーキを防げます。シミュレーションは「抑えるため」でなく「計画的に働くため」の道具として使うのが、職場と本人の双方にとって建設的です。

実務の注意点・つまずきポイント

  • 制度改正の頻度が高い論点:令和7年度改正による基礎控除の上乗せ(88万円等)は令和8年分までの時限で、令和9年分以後は58万円(合計所得132万円以下の95万円は継続)となるなど、経過的な仕組みが含まれます。106万円の壁の適用拡大・見直しも進行中です。数値はすべてマスタセルに分離し、使用時に最新へ更新してください(参考:国税庁「令和7年度税制改正による所得税の基礎控除の見直し等について」)。
  • 社保加入はマイナスだけではない:厚生年金の上乗せ、傷病手当金・出産手当金など、加入で得られる保障を説明に含めると、本人の意思決定が「損得」から「設計」に変わります。
  • 通勤手当・賞与の扱い:130万円の被扶養者判定では通勤手当込みの収入で見るなど、税と社保で収入の範囲が異なります。判定に迷うケースは年金事務所・健保組合に確認を。
  • 学生・60歳以上は条件が異なる:勤労学生控除や、60歳以上の被扶養者基準(180万円)など、属性別の例外があります。汎用モデルに例外の注記を添えてください。
  • 会社の手当規程の見直しも選択肢:配偶者手当の年収基準が従業員の就業調整を招いている場合、手当自体の再設計(基準撤廃・本人給与への振替)が根本解決になることもあります。

扶養の壁シミュレーターをご用意しています

この記事のモデル(前提入力→年収別の手取り計算→働き損ゾーンのグラフ→月別の勤務配分表)を組み込んだExcelシミュレーターを販売しています。時給と希望年収を入れるだけで世帯手取りのグラフが表示され、従業員説明用のシートも印刷できます。パート従業員を多く抱える企業の労務説明ツールとして、事務所の顧問先支援ツールとしてお使いください。

給与計算の実務はこちらの記事を(関連記事:No.25 給与計算Excel)、社会保険の等級判定はこちらをご覧ください(関連記事:No.72 標準報酬月額の等級判定)。

まとめ

  • 壁は税の壁(崖ではない)と社保の壁(本当の崖)に分けて理解する
  • 令和7年度改正で旧103万円の壁は「123万円(扶養)/160万円(本人課税・配偶者特別控除満額)」へ変わり、大学生年代には特定親族特別控除が創設された
  • 手取りに大きく影響するのは106万円・130万円の社保の壁と、会社の配偶者手当の基準
  • Excelでは年収5万円刻みの世帯手取り表とグラフで「働き損ゾーン」を可視化する
  • 壁を越えるなら手取りが回復する年収まで一気に越えるのが定石
  • 金額基準は改正が頻繁。数値はマスタ化し、使用時に必ず最新を確認する
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