毎年6月1日〜7月10日の労働保険の年度更新。「確定保険料と概算保険料って何が違うのか」「賃金集計表のどこに何を入れるのか」と、年1回しかやらないせいで毎年思い出すところから始まる手続きの代表格です。しかも算定基礎届と時期が丸かぶりのため、集計作業はできる限り自動化しておきたいところです。
この記事では、年度更新の計算構造(確定精算+概算申告)を整理し、月別の賃金集計から保険料計算までをExcelで見える化する方法を解説します。
年度更新の基本構造
「精算」と「前払い」を同時にやる手続き
- 確定保険料:前年度(4月〜3月)に実際に支払った賃金総額 × 保険料率 → 前年に前払いした概算保険料と精算
- 概算保険料:今年度の賃金総額の見込み × 保険料率 → 前払い。見込額が前年度の2分の1以上2倍以下なら前年度の確定賃金総額をそのまま使うのが原則
- 一般拠出金:確定賃金総額 × 拠出金率(石綿救済)も併せて申告
- 公式資料の確認:申告期間、分割納付、年度ごとの料率は厚生労働省の案内で最新情報を確認します。参考:厚生労働省「労働保険の年度更新手続」
労災保険と雇用保険で対象者が違う
| 項目 | 労災保険分 | 雇用保険分 |
|---|---|---|
| 対象者 | 全労働者(パート・アルバイト含む) | 雇用保険被保険者のみ |
| 役員 | 原則対象外(労働者性があれば例外) | 原則対象外(兼務役員は労働者部分のみ) |
| 料率 | 事業の種類ごと | 事業の種類ごと(毎年改定あり得る) |
この対象者の違いのため、賃金集計表は労災用と雇用用の2列で作るのが年度更新のキモです。週20時間未満のアルバイトは「労災○・雇用×」になる、といった仕分けを人単位で行います。
Excel集計シートの作り方
ステップ1:従業員×月のマトリクスで賃金を集計
- 行:従業員(在籍者・年度途中の入退社者・アルバイト全員)
- 列:4月〜3月の月別賃金(賞与も支給月に含める)+雇用保険対象フラグ
- 賃金に含める:基本給・残業代・通勤手当・賞与など。含めない:退職金・結婚祝金・出張旅費等の実費弁償
労災用賃金総額:=SUM(全員の年間賃金)
雇用用賃金総額:=SUMIF(雇用フラグ列,"○",年間賃金列)
給与ソフトの賃金台帳CSVから月別にSUMIFSで引き当てれば、手入力は雇用保険フラグの確認だけになります。(関連記事:No.40 SUMIFSによる集計の自動化)
ステップ2:保険料の計算(端数処理に注意)
賃金総額(千円未満切捨て):=ROUNDDOWN(賃金総額,-3)
確定保険料:=切捨後賃金総額*(労災料率+雇用料率)
一般拠出金:=切捨後賃金総額*拠出金率
概算保険料:=IF(AND(見込額>=前年度*0.5,見込額<=前年度*2),前年度確定賃金総額,見込額)*料率
賃金総額は1,000円未満切捨てをしてから料率を掛けます。労災と雇用で賃金総額が異なる場合はそれぞれ切り捨ててから計算します。料率は毎年度確認し、マスタセルで差し替えられる設計にしてください。
ステップ3:精算と納付額の見える化
精算差額:=確定保険料-前年に申告した概算保険料
今回の納付額:=精算差額+今年度の概算保険料+一般拠出金
(概算保険料が40万円以上なら3期分割の分割額も自動表示)
数値例:賃金総額3,000万円の小売業
前年度の賃金総額が労災用3,000万円・雇用用2,800万円、前年に申告した概算保険料が45万円、今年度も同水準の見込みという例です(料率は仮定値)。
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 確定保険料 | 労災分3,000万円×0.3%+雇用分2,800万円×1.55% | 9万円+43.4万円=52.4万円 |
| 精算差額 | 52.4万円−45万円 | 7.4万円の不足→追納 |
| 概算保険料(今年度) | 前年度と同額基準 | 52.4万円 |
| 今回の納付額 | 7.4万円+52.4万円+一般拠出金 | 約60万円 |
雇用保険料率は改定が続いている項目のため、シートの料率セルは毎年必ず最新に差し替えてください。40万円以上なら3期に分割納付でき、資金繰りの平準化にも使えます。(関連記事:No.16 資金繰り表の作り方)
実務の注意点・つまずきポイント
- 「支払った」ベースで年度に割り付ける:4/1〜3/31に「支払確定した」賃金が対象です。3月分を4月に支払う会社の期ズレ処理を毎年同じルールで統一してください。
- 賞与を忘れない:算定基礎届(4〜6月報酬)と違い、年度更新は年間の賞与も全額含みます。混同による集計漏れが最頻出ミスです。(関連記事:No.69 算定基礎届の報酬集計)
- 64歳以上の雇用保険料免除は廃止済み:過去の知識のまま64歳以上を除外しないよう注意。高年齢労働者も現在は徴収対象です。
- 兼務役員は役員報酬部分を除く:労働者部分の賃金のみ雇用保険の対象です。区分できる給与体系にしておくことが前提になります。
- 建設業等は二元適用で手続きが別:労災と雇用を別々に申告する二元適用事業は、このシートの構造をそれぞれ分けて作る必要があります。自社の適用区分をまず確認してください。
よくある質問
Q. 年度途中で従業員が大幅に増えた場合はどうなりますか?
賃金総額の見込みが前年度の2倍を超える場合は、見込額で概算保険料を計算します。また年度の途中でも、見込みが大きく増えた場合(2倍超かつ差額13万円以上)は増加概算保険料の申告が必要になることがあります。
年度更新集計シートのご案内
賃金台帳CSVの貼り付けから、労災用・雇用用の2本立て集計、端数処理込みの保険料計算、精算差額と分割納付額の算出まで自動化した労働保険年度更新Excelシートをご用意しています。申告書の転記欄に対応した出力レイアウトで、6月の作業が半日で終わります。
まとめ
- 年度更新は「前年度の確定精算」と「今年度の概算前払い」を同時に行う手続き
- 労災は全労働者・雇用は被保険者のみ。賃金集計は2本立てで作る
- 賃金総額は千円未満切捨て後に料率を掛ける。賞与の含め忘れが最頻出ミス
- ExcelならCSV貼り付け→自動集計→申告書転記の流れで半日で完了する
- 雇用保険料率は改定が続くため、毎年必ず厚生労働省の最新料率に差し替えてから計算する

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