「従業員5人だけのために給与ソフトを契約するのはもったいない」——そんな小規模企業では、Excelでの給与計算はいまも現実的な選択肢です。ただし、Excel給与計算には明確に向いている規模と、やめるべきラインがあります。
この記事では、Excelで給与計算を行う手順と計算の仕組み、そして「ここから先はソフトに移行すべき」という限界ラインを正直に解説します。
目次
給与計算の全体フロー
- 総支給額の計算:基本給+諸手当+残業代−欠勤控除
- 社会保険料の控除:健康保険・介護保険・厚生年金(標準報酬月額×料率の本人負担分)
- 雇用保険料の控除:総支給額×本人負担率
- 源泉所得税の控除:課税対象額(総支給−非課税通勤手当−社保)を源泉徴収税額表に当てはめ
- 住民税の控除:市区町村からの通知額(特別徴収)
- 差引支給額の確定 → 賃金台帳・給与明細の作成
Excelでの組み方:3つのマスタが心臓部
マスタ1:従業員マスタ
- 氏名/基本給/諸手当/通勤手当(非課税限度額の管理。関連記事:No.7 4)
- 標準報酬月額(算定基礎届・月額変更で更新。関連記事:No.69 算定基礎届の集計)
- 扶養親族等の数(源泉税額の判定用)/住民税月額
マスタ2:保険料率マスタ
健康保険(都道府県別)・介護保険・厚生年金・雇用保険の料率を1枚のシートに集約し、計算式はすべてここを参照させます。料率は毎年改定されます(健保・介護は3月分から、雇用保険は4月から変わるのが通例)。改定時はこのシートだけ直せば全員分が更新される——これがマスタ方式の生命線です。
健康保険料(本人) =標準報酬月額*健保料率/2
厚生年金(本人) =標準報酬月額*18.3%/2
雇用保険(本人) =ROUND(総支給額*雇用保険本人料率,0) ←端数処理は50銭以下切捨て・50銭超切上げが原則
マスタ3:源泉徴収税額表
国税庁の「給与所得の源泉徴収税額表(月額表)」をシートに取り込み、VLOOKUPの近似一致で「社会保険料控除後の給与額」と「扶養親族等の数」から税額を自動参照させます。
=INDEX(税額表!$C$5:$J$400,
MATCH(社保控除後給与, 税額表!$A$5:$A$400, 1),
扶養人数+1)
税額表は毎年更新されます。年初に必ず最新版に差し替えてください。
ミスを防ぐチェックの仕組み
- 前月比チェック:差引支給額の前月差が±1万円を超えた人を条件付き書式で色付け→変動理由を確認してから振込
- 控除合計の検算:「総支給−控除計−差引支給=0」の検算列を全員分に置く
- 賃金台帳の自動生成:月次データを蓄積するシートを分け、人別の年間推移(賃金台帳)はSUMIFSで自動集計——年末調整の基礎データにそのままなる(関連記事:No.7 年末調整の検算)
Excel給与計算の限界ライン(ここは正直に)
次のいずれかに当てはまったら、給与ソフトへの移行を検討すべきです。
- 従業員10人超:入力ミスの確率と検算コストが、ソフト費用を上回り始める
- 時給者・変形労働時間制が多い:勤怠集計の複雑さはExcelの弱点
- 入退社が頻繁:社保の資格取得・喪失、月変の管理が追いつかなくなる
- 年末調整まで自力でやりたくない:改正対応の負担が毎年発生する
- 明細の電子交付・打刻連携など、従業員側の利便性を求められたとき
逆に言えば、月給制中心・10人以下・変動が少ない会社なら、Excel給与計算は十分に実用的で、コストはほぼゼロです。自社がどちら側かを見極めてから道具を選んでください。
給与計算テンプレートのご案内
3つのマスタ構造・源泉税額の自動参照・前月比チェック・賃金台帳の自動生成を組み込んだ給与計算テンプレート(Excel・10人まで対応)を用意しています。料率改定時の更新手順書付きです。
まとめ
- 給与計算は「従業員・料率・税額表」の3マスタを分離して組むのが鉄則
- 料率と税額表は毎年変わる——マスタだけ差し替えれば済む設計にしておく
- 前月比チェックと検算列で、振込前にミスを機械的に検知する
- 10人超・時給者中心・入退社頻繁ならソフトへ移行。Excelは「小さく・変動が少ない」会社の道具

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