融資の申込みで金融機関が本当に見たいのは、立派な経営理念ではなく「貸したお金が返ってくる根拠」です。それを数字で示すのが数値計画——具体的にはPL計画・返済計画・資金繰り計画の3点セットであり、3つの数字が互いに整合していることが「作り込まれた計画」の証明になります。
この記事では、金融機関が見るポイント(返済原資・債務償還年数など)を整理し、3点セットが自動連動するExcel数値計画の作り方を解説します。
金融機関が見るポイント
返済原資=税引後利益+減価償却費
返済は経費ではなく、税金を払った後のキャッシュから行います。つまり年間返済額 ≦ 税引後利益+減価償却費(簡易キャッシュフロー)が成立していない計画は、その時点で説得力を失います。この不等式を計画表の最下段に常時表示するのが、このExcelの設計思想です。
債務償還年数
債務償還年数 =(有利子負債 − 現預金)÷(税引後利益 + 減価償却費)
「今の借金を何年で返し切れる体力か」を示す指標で、10年以内が一般的な目安とされます(業種により幅あり)。このほか自己資本比率、経常収支の黒字、既往借入の返済実績などが定番の着眼点です。
3点セットのExcel設計
ステップ1:PL計画(3〜5年)
売上は「単価×数量」など根拠を分解した積上げで作ります。「前年比110%」のような根拠のない伸び率は、ヒアリングで最初に崩される部分です。
- 売上:得意先別・商品別・稼働率など、事業の実態に合う分解軸で積み上げる
- 原価・経費:変動費は売上連動(率)、固定費は実額で。新規借入に伴う支払利息もここに連動させる
- 税金:法人税等は概算実効税率で自動計算(関連記事:No.10 法人税の概算試算)
ステップ2:返済計画
毎月返済額(元金均等):=借入額/返済回数
支払利息(月次):=残高*年利率/12
年間返済額をPL計画・資金繰り計画へ自動連動
既存借入も含めた全借入の返済予定を1枚に統合し、年間の元金返済合計を算出します。据置期間を設ける場合はその期間の元金ゼロも表現します。(関連記事:No.21 借入金返済予定表の作り方)
ステップ3:資金繰り計画と整合チェック
月次の資金繰り計画に、PL計画の売上・経費(回収・支払サイトでずらす)と返済計画の元利金を流し込みます。ここで重要なのが自動整合チェックです。
返済原資チェック:=IF(税引後利益+減価償却費>=年間元金返済,"OK","返済原資不足")
債務償還年数:=ROUND((有利子負債-現預金)/(税引後利益+減価償却費),1)&"年"
資金残高チェック:=IF(MIN(月末残高範囲)<0,"資金ショート月あり","OK")
3つのチェックがすべてOKになるまで前提を調整する——このプロセス自体が、面談で質問されたときに答えられる「根拠の在庫」になります。資金繰り表の基本形は別記事で詳しく解説しています。(関連記事:No.16 資金繰り表の作り方)
数値例:1,000万円を5年返済で借りる場合
| 項目 | 計画値 | チェック |
|---|---|---|
| 年間元金返済(既存分含む) | 320万円 | — |
| 税引後利益 | 250万円 | 合計370万円 ≧ 320万円 → OK |
| 減価償却費 | 120万円 | |
| 債務償還年数 | (2,800万円−600万円)÷370万円 | 5.9年 → OK(10年以内) |
もし税引後利益が180万円なら合計300万円<320万円で原資不足です。その場合は「利益計画の見直し」「返済期間の長期化(7年)」「据置期間の設定」のどれで解消するかを検討します。不足をExcel上で見つけて先に手を打てるか、面談で指摘されるか——この差が審査の印象を分けます。
実務の注意点・つまずきポイント
- 初年度は月次、2年目以降は年次で作る:金融機関が精査するのは直近12か月です。初年度だけ月次の資金繰りまで作り込み、2年目以降は年次サマリーで十分です。
- 実績との接続を示す:計画初年度の数字が直近の試算表・決算と断絶していると信頼されません。直近2期の実績を計画表の左側に並べる構成にしてください。(関連記事:No.79 経営分析ダッシュボード)
- 楽観・標準・保守の3シナリオまでは不要:中小の融資実務では標準ケース1本+「売上が計画比90%でも返済可能」という感応度の一言があれば十分なことが多いです。感応度チェック欄を設けておくと簡単に示せます。
- 認定支援機関の関与や制度融資の要件も確認:制度によっては計画書の様式・要件が定められています。提出先の制度要綱を先に確認してから様式を合わせてください。
- 計画は出して終わりではない:融資後も計画対比の実績を月次で追い、大きな乖離が出たら早めに金融機関へ説明するのが次の融資への布石になります。ダッシュボードとの併用が有効です。
よくある質問
Q. 赤字決算でも融資は受けられますか?
赤字の原因が一過性(特別損失など)で、計画上の返済原資が示せれば可能性はあります。その場合こそ「なぜ赤字か」「どう黒字化するか」を数値計画で示す価値が大きくなります。減価償却費を除いたキャッシュベースでは黒字、という説明が通るケースも多くあります。
Q. 資金使途はどこまで細かく書くべきですか?
設備資金は見積書と1対1で対応させ、運転資金は「経常運転資金=売上債権+棚卸資産−仕入債務」の算式で必要額の根拠を示すのが基本です。使途が曖昧な申込みは金額を削られやすくなります。
融資用数値計画テンプレートのご案内
PL計画・返済計画・資金繰り計画が自動連動し、返済原資・債務償還年数・資金ショートの3チェックを常時表示する融資用数値計画Excelテンプレートをご用意しています。実績2期との接続欄、感応度チェック付き。事務所の融資支援業務の標準ツールとしてもお使いいただけます。
まとめ
- 数値計画はPL計画・返済計画・資金繰り計画の3点セット。相互の整合が信頼の核心
- 返済原資は「税引後利益+減価償却費」。年間返済額との不等式を常時チェックする
- 債務償還年数10年以内が一般的な目安。計画表に自動表示させる
- 売上は根拠を分解した積上げで。初年度は月次、実績2期との接続も示す
- 不足はExcel上で先に発見して対策を打つ。融資後も計画対比の実績管理を続ける

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