専従者給与はいくらが得か|世帯合計(国保込み)で最適額を出す【令和8年分】

Featured image for 青色事業専従者給与の適正額と届出をExcelで管理する【いくらまで】

「妻に手伝ってもらっているが、専従者給与はいくらにすればいいのか」――個人事業主から最も多く受ける質問のひとつです。ネットの解説の多くは事業主の所得税だけで損得を比べていますが、実際の分かれ目を決めているのは世帯の国民健康保険料であることがほとんどです。所得税だけで計算すると、年に十万円単位で判断を誤ります。

この記事では、令和8年分の数値をもとに、専従者給与の金額を世帯合計(事業主の所得税・住民税/専従者の所得税・住民税/世帯の国民健康保険料/個人事業税)で決める考え方を整理します。あわせて、見落とされがちな「他の人の扶養からも外れる」落とし穴、届出と要件の実務、そしてExcelで世帯合計を計算する手順まで解説します。

なお、この記事の金額はすべて年額です。税制・料率は改正されますので、実際の判断は最新の数値と顧問税理士のご確認のうえで行ってください。

目次

所得税だけで比べると判断を誤る理由

専従者給与を出すと、次の4つが同時に動きます。「配偶者控除38万円を捨てて、代わりに経費が増える」という単純な引き算ではありません。

動くもの専従者給与を出すと効き方
事業主の所得税・住民税減る(必要経費が増える)事業主の限界税率に比例
世帯の国民健康保険料減るここがいちばん大きいことが多い
個人事業税減る事業主控除290万円を超える部分だけ
配偶者控除・扶養控除失う(38万円・63万円など)1円でも支給した年は使えない
専従者の所得税・住民税発生する令和8年分は給与178万円までゼロ

このうち国民健康保険料だけが「世帯単位」で、しかも所得税・住民税より金額が大きくなりがちです。ここを外した比較には意味がありません。

国民健康保険がいちばん効く仕組み

国民健康保険の所得割は、世帯員それぞれの「総所得金額等 − 住民税の基礎控除43万円」(旧ただし書き所得)を合計した額に料率を掛けて計算します。扶養控除や社会保険料控除は差し引かれません。

ここで重要なのは、事業所得を給与に振り替えると、専従者側で給与所得控除が効くという点です。令和8年分の給与所得控除の最低保障額は74万円なので、たとえば給与74万円なら専従者の給与所得はゼロ。事業主側では74万円ぶん所得が減るのに、専従者側では所得が立ちません。世帯の賦課基準額がまるごと74万円減ることになります。

さらに、専従者側にも自分の43万円の基礎控除があります。これを使い切るところまで、世帯の賦課基準額は下がり続けます。給与所得控除74万円+基礎控除43万円=117万円。ここが国保の下げ幅の到達点です。

所得割率は医療分・後期高齢者支援金分・介護分を合わせて11〜14%程度の自治体が多いので、117万円 × 約13% = 年15万円前後。所得税・住民税の差より大きくなることは珍しくありません。

そして給与を117万円より増やしても、国保の負担はいったん横ばいになります(給与収入190万円を超えると給与所得控除がふたたび増えるため、そこからはゆるやかに下がります)。一方、所得税・住民税は所得が分散するぶん、その先も下がり続けます。この2本の曲線が合わさって、世帯負担の「谷の底」ができます。

試算例:どこが谷の底になるか

事業収入780万円・必要経費290万円(専従者給与を除く)・青色申告特別控除65万円・配偶者が専従者・国保加入者2人・事業主の国民年金42万円、という前提で世帯合計負担を並べるとこうなります(国保の料率は所得割合計11.08%・均等割59,500円・平等割36,300円の自治体を仮定。自治体で大きく変わります)。

専従者給与事業主の税専従者の税世帯の国保個人事業税世帯合計出さない場合との差
0円(配偶者控除を使う)320,2000649,100100,0001,069,300―
74万円(月6.1万円)276,1000548,60063,000887,700△181,600
120万円(月10万円)215,3006,500490,30040,000752,100△317,200
178万円(月14.8万円)127,70063,500490,30011,000692,500△376,800
240万円(月20万円)45,200148,000482,2000675,400△393,900

注目すべきは国保の列です。0円から74万円にするだけで10万円、120万円で16万円近く下がり、そこから先はほぼ動きません。一方、事業主の税は最後まで下がり続けます。「どこまで出すか」は、この2本の動き方の違いで決まります。

ただし、この表の一番下の行がそのまま「出すべき金額」ではありません。専従者給与には後述する「労務の対価として相当な金額」という上限があるからです。数字の上で有利な金額と、税務上認められる金額は別のものです。

令和8年分の3つの境目

令和8年度税制改正で基礎控除と給与所得控除が引き上げられ、専従者側の「税がかからないゾーン」がかなり広くなりました。金額を決めるときの目印になります。

給与(年額)何が起きるか内訳
74万円まで専従者に所得税も住民税もかからない給与所得控除の最低保障額74万円
117万円まで専従者の住民税の所得割がかからない/国保の下げ幅がここで到達点給与所得控除74万円+住民税の基礎控除43万円
178万円まで専従者に所得税がかからない給与所得控除74万円+基礎控除104万円

基礎控除104万円は、令和8年分・令和9年分について合計所得金額489万円以下の人に適用される金額です(本則62万円+特例加算42万円)。令和10年分以後は水準が変わる予定なので、毎年見直しが必要な論点です。

なお住民税の均等割(年5,000円程度)は、これとは別に自治体ごとの非課税限度額で決まります。合計所得45万円以下(1級地・単身の場合)が目安ですが、級地や扶養人数で変わるので、お住まいの自治体でご確認ください。住民税は前年の所得に対して翌年度に課税される点にもご注意ください。令和8年分の所得に対応する住民税は令和9年度の課税になります。

出さないほうがいいケースもある

ここまでと逆のことも書いておきます。事業所得が小さいときは、専従者給与を出すと損になります。

事業主の課税所得がもともと小さい(あるいは赤字の)場合、経費を増やしても減る税金がありません。それなのに配偶者控除38万円は確実に失います。国保も、事業主側の所得が43万円の基礎控除に届いていなければ下げようがありません。この状態で専従者給与を出すと、控除を捨てただけになります。

目安として、事業所得(青色申告特別控除後)が各種所得控除の合計を下回っている年は、まず出さない前提で考えるべきです。開業初年度や赤字の年がこれに当たります。

見落とされがちな落とし穴:他の人の扶養からも外れる

ここはほとんど語られませんが、金額の計算を大きく変えます。青色事業専従者として給与の支払を受けた人は、事業主以外の人の扶養親族・同一生計配偶者にもなれません。

国税庁の質疑応答事例「青色事業専従者である妻」では、会社員Aの妻Bが、生計を一にする父Cの青色事業専従者として月7万円の給与を受けている事例について、「AはBを控除対象配偶者とすることができません」と明示されています。理由は「いったん生計を一にする他の者の事業専従者となった者については、その年において控除対象配偶者とすることはできない」ためです。

実務でよく起きるのは、お子さんを専従者にするケースです。たとえば大学生の子を専従者にすると、事業主側で特定扶養親族の控除63万円を失うだけでなく、配偶者の側の扶養からも外れます。配偶者が会社員で税率が高ければ、そこでの増税だけで年10万円を超えることもあります。世帯合計で比べるときは、この分を必ず加えてください。

届出だけ出しておき、支給するかは後で決められる

もうひとつ実務で使える論点です。扶養親族の要件は「青色申告者の事業専従者としてその年を通じて一度も給与の支払を受けていないこと」と定められています(国税庁 No.1180)。裏を返すと、届出書を出していても、その年に1円も支払っていなければ配偶者控除・扶養控除は使えます。

届出書の提出期限は「必要経費に算入しようとする年の3月15日」です。つまり、年の初めの時点で業績が読めなくても、とりあえず届出だけ出しておき、実際に支給するかどうかは事業の状況を見て決めるという組み立てができます。出さなければ控除が使えるので、選択肢を残しておく形になります。

逆に、年内に1円でも支給すると、金額の多寡にかかわらずその年は控除が使えません。オール・オア・ナッシングであることを押さえておいてください。

要件と届出の実務

青色事業専従者の要件

  • 生計を一にする配偶者その他の親族であること
  • その年の12月31日現在で年齢15歳以上であること
  • その年を通じて6か月を超える期間、その事業に専ら従事していること

3つめには例外があります。就職・退職・長期の病気など相当の理由で従事できなかった期間がある場合は、従事可能期間の2分の1を超える期間専ら従事していれば要件を満たします(所得税法施行令165条1項2号)。国税庁の質疑応答事例では、8月に会社を退職して父の事業に従事したケースで、退職から年末までを従事可能期間として2分の1超を判定し、必要経費算入を認めています。年の途中で勤めを辞めて家業に入った方は、この例外が使えないか確認してください。

届出と金額の上限

「青色事業専従者給与に関する届出書」を、必要経費に算入しようとする年の3月15日まで(その年1月16日以後に開業した場合は開業の日から2か月以内)に提出します。そのうえで、必要経費になるのは次の2つを両方満たす金額です。

  • 届出書に記載した方法に従い、記載した金額の範囲内で実際に支払われていること
  • 労務に従事した期間・労務の性質および提供の程度・事業の種類および規模・同種同規模の事業が支給する給与の状況などに照らして、労務の対価として相当と認められる金額であること

これは所得税法57条1項がそのまま定めている内容で、過大とされる部分は必要経費になりません。届出額を超えて支給したい場合は「変更届出書」の提出が必要です。賞与も、届出書に記載がなければ支給できません。

「相当な金額」の根拠をどう作るか

否認事例の多くは、金額が高すぎる以前に「働いている実態と記録がない」ことが原因です。次の3つを揃えておくと、金額の説明が数字ベースになります。

  • 求人相場との比較:同じ業務(記帳・請求書発行・受付・現場補助)を求人に出したら時給いくらか。「時給×従事時間」が最も説明力のある基準です
  • 事業の収益との均衡:事業主本人の所得より専従者給与が高い状態は、合理的な説明がない限り不自然に見えます
  • 業務記録:日付/従事時間/業務内容の3列だけの簡易日誌で十分です。毎日でなく週単位のまとめでも、あるのと無いのとでは説明力がまったく違います

支給は口座振込にして、支給の事実を通帳に残してください。現金手渡しで記録もない、というのがいちばん弱い形です。

源泉徴収はいくらから必要か

専従者給与も通常の給与と同じく源泉徴収と年末調整の対象です。「給与所得者の扶養控除等申告書」の提出があれば月額表の甲欄で計算します。

令和8年分の月額表では、扶養親族等の数が0人の場合、その月の社会保険料等控除後の給与等の金額が105,000円未満なら源泉徴収税額は0円です(令和7年分の88,000円未満から引き上げられました)。月10万円程度までの支給なら、毎月の源泉徴収事務は実質的に発生しません。

月105,000円を超えると毎月の源泉徴収が必要になりますが、前述のとおり年間では給与178万円まで所得税がかかりません。差額は年末調整で精算されます。源泉徴収税額の納付は「源泉所得税の納期の特例」を申請すれば年2回にまとめられるので、専従者1人だけなら事務負担は大きくありません。

Excelで世帯合計を計算する手順

ここまでの内容をシートに落とすと、次の4ステップになります。

ステップ1:自治体の国保の料率を入力欄にする

国保は自治体ごとに料率も賦課方式も賦課限度額も違います。平等割がある3方式の自治体と、無い2方式の自治体があります。令和8年度の国の賦課限度額は医療分67万円・後期高齢者支援金分26万円・介護分17万円・子ども子育て支援金分3万円の合計113万円ですが、これより低く設定している自治体もあります。固定値で持たず、必ず入力欄にしてください。

ステップ2:支給額を刻んで並べる

非表示のシートに、支給額を月5,000円刻み(年6万円刻み)で0円から600万円まで横に並べ、列ごとに世帯合計負担を計算します。表示用のシートは計算を持たず、最小値の列を MATCH(MIN(範囲),範囲,0) で特定して INDEX で引くだけにすると、式が軽くなり壊れにくくなります。

最適列 = MATCH(MIN(有効負担範囲), 有効負担範囲, 0)
最適額 = INDEX(支給額の行, 最適列)

ステップ3:届出額の上限でマスクする

届出書に記載した上限額を入力欄に置き、それを超える候補を最小値の探索から外します。空文字を返しておくと MIN が無視してくれるので、上限を超えた金額が「最適額」として選ばれることがありません。税務上の制約を、そのまま数式に落とせます。

有効負担 = IF(候補額<=届出上限, 世帯合計負担, "")

ステップ4:結論を1文で出す

数字の羅列より、文章で出したほうが顧問先への提案資料として通ります。

="専従者給与を年"&TEXT(最適額,"#,##0")&"円(月"&TEXT(最適額/12,"#,##0")&"円)にすると、"
 &"世帯の負担は年"&TEXT(案Aとの差,"#,##0")&"円 軽くなります。"

専従者給与 有利判定シートをご用意しています

この記事の考え方をそのまま組み込んだExcelシートを販売しています。事業収入・必要経費・専従者の情報・お住まいの自治体の国保の料率を入れると、支給額を月5,000円刻みで0〜600万円まで自動で試し、世帯の負担がいちばん軽くなる金額と、現在の支給額から変えた場合の改善額を1文で出します。届出書の上限額を入れれば、その範囲内で最適額を探します。

出るのは「出さない場合」「現在の支給額」「最適額」「自分で決めた検討額」の4案比較と、税目別の内訳明細(A4 1枚)、支給額と世帯負担の関係を示す折れ線グラフです。内訳明細はそのまま顧問先への提案資料として印刷できます。お子さんを専従者にする場合の「配偶者側の扶養からも外れる分」も入力欄があり、世帯合計に加えて比較します。

なお、このシートが出すのは税と社会保険の負担がいちばん軽くなる金額であって、税務上いくらまで払ってよいかを示すものではありません。労務の対価として相当と認められる範囲の中で、どこが有利かを見るための道具としてお使いください。業務日誌や届出額の履歴管理の機能は含んでいません。

シートの画面や収録内容は商品ページでご覧いただけます(専従者給与 有利判定シートの詳細を見る)。

よくある質問

専従者給与を月8万円にしておけば間違いないと聞きました

月8万円(年96万円)は、かつて「所得税がかからず源泉徴収も不要な金額」としてよく使われた水準です。令和8年分は給与所得控除74万円+基礎控除104万円で年178万円まで専従者に所得税がかからず、源泉徴収が不要な月額も105,000円未満に上がりました。前提が変わっているので、96万円という数字を惰性で使うのはもったいないケースが増えています。ただし金額は労務の対価として説明できる範囲であることが前提です。

白色申告でも家族に給与を払えますか

白色申告は給与ではなく「事業専従者控除」という定額の控除です。配偶者は最高86万円、15歳以上のその他の親族は最高50万円で、さらに「事業所得等 ÷(専従者の数+1)」が上限になります。金額を自分で決められないため、最適額を考える余地がありません。実額の給与を経費にしたい場合は、青色申告の承認申請を検討してください。

専従者が他にパートをしている場合はどうなりますか

「専ら従事」の要件が問われます。他に職がある場合は原則として専従者に該当しないと考えてください。従事状況の記録があれば説明の材料になりますが、掛け持ちの度合いによっては要件を満たさない判断になります。パート先の社会保険の被扶養者になっている場合は、そちらの収入基準(いわゆる130万円の壁)も別途かかってきます。

専従者給与を出すと国民健康保険の扶養から外れますか

国民健康保険には「扶養」という考え方がなく、世帯員全員がそれぞれ被保険者です。そのため、専従者給与を出しても加入関係は変わりません。変わるのは保険料の計算に使う所得で、この記事で説明したとおり世帯合計では下がる方向に働きます。会社の健康保険の被扶養者になっている場合とは仕組みが違うので、混同しないようご注意ください。

年の途中で支給額を変えてもいいですか

届出書に記載した金額の範囲内であれば問題ありません。範囲を超える場合は変更届出書の提出が必要です。ただし、業績に連動して毎月の金額が大きく動くと「労務の対価」としての説明が苦しくなります。金額を変える場合は、担当業務や従事時間の変化とセットで説明できるようにしてください。

関連記事

専従者給与の上限に窮屈さを感じたら、法人化すれば家族への給与は専従者の制約なく支給できます(役員報酬の規律は別途あります)。検討のタイミングはこちらをご覧ください(関連記事:No.101 法人成りシミュレーション)。家族の働き方全体の設計は扶養の壁の記事も参考になります(関連記事:No.133 扶養の壁シミュレーション)。決めた金額を決算書に落とし込む実務はこちらです(関連記事:No.88 青色申告決算書をExcelで作る方法【複式簿記・貸借対照表】)。

まとめ

  • 専従者給与の損得は、事業主の所得税だけでなく世帯の国民健康保険料・個人事業税・専従者側の税を合わせた世帯合計で決まる
  • 国保がいちばん効く。給与所得控除74万円+専従者側の基礎控除43万円=117万円までが下げ幅の到達点
  • 令和8年分の境目は74万円(専従者は無税)・117万円(住民税の所得割ゼロ)・178万円(所得税ゼロ)
  • 事業所得が小さい年・赤字の年は、出すと控除を捨てるだけになる
  • 専従者は事業主以外の人の扶養からも外れる。子を専従者にするときは配偶者側の増税分も足して比べる
  • 届出を出していてもその年に1円も支払わなければ控除は使える。届出だけ先に出して選択肢を残す手がある
  • 最適額は「届出額の範囲内」かつ「労務の対価として相当な額」の中で選ぶ。金額の根拠と業務記録が防御になる
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