クリニック・医院の収入管理には、他業種にない特有の難しさがあります。診療報酬は窓口負担金(現金・カード・QR)と保険請求(レセプト。入金は約2か月後)に分かれ、さらに自由診療・物販・文書料が混ざります。「レジの現金は合っているのに、月の収入合計が合わない」――その原因の多くは、この構造を1枚で照合する仕組みがないことです。
この記事では、窓口収入・レセプト請求・入金の三点照合表をExcelで設計する方法と、自由診療の区分管理・税務上の注意点を解説します。
基礎知識:クリニック収入の構造
保険診療の収入は「総診療報酬=窓口負担金(1〜3割)+保険請求分(7〜9割)」に分かれます。窓口分は当日回収、保険請求分は翌月10日までにレセプト請求し、約2か月後に社保(支払基金)・国保(国保連合)から入金されます。しかも請求額どおり入金されるとは限らず、査定減点・返戻(差し戻し)で目減りします。つまり照合すべきは次の3点です。
- ①日々の窓口収入:レセコンの日計表=レジ現金+カード・QR売上
- ②月次の請求額:レセコンの請求集計=窓口分+保険請求分の総額
- ③2か月後の入金額:請求額−査定・返戻=実際の振込額
Excelで三点照合表を作る手順
ステップ1:日次の窓口照合シート
窓口差異 =レセコン日計の窓口負担金合計-(レジ現金実査+カード売上+QR売上)
判定 =IF(ABS(窓口差異)<=100,"OK","要調査")
「日付/レセコン窓口計/現金/カード/QR/差異/差異理由(未収・釣銭誤り等)」の列で毎日記録します。患者未収金(保険証忘れ・持ち合わせ不足)は必ず個別台帳に転記し、回収まで追跡します。現金実査の基本は現金出納帳(関連記事:No.26 現金出納帳の作り方)と同じです。
ステップ2:月次の請求・入金照合シート
月別に「レセプト請求額(社保・国保別)/2か月後の入金額/査定減点額/返戻額/再請求の状況」を並べます。
入金差異 =請求額-入金額-査定減点-返戻額
査定率 =査定減点額/請求額
返戻レセプトは再請求しないとそのまま収入が消えます。「返戻→再請求→入金確認」のステータス列を設け、放置ゼロを仕組みで担保するのがこの表の最重要機能です。査定率が高い月は算定内容をレセコン業者・医師会等に相談する目安になります。
ステップ3:自由診療・物販の区分管理
予防接種・健診・美容系・診断書などの自由診療と物販は、「日付/内容(プルダウン)/金額/消費税区分」で保険診療と分けて記録します。保険診療は消費税非課税、自由診療・物販には課税のものが多いため、この区分が消費税申告の基礎データになります。また、医療法人でない個人クリニックでは、社会保険診療報酬の所得計算の特例(概算経費率。5,000万円以下等の要件)の適用判定にも保険・自費の区分集計が必須です。
ステップ4:資金繰りへの接続
保険請求分の入金は約2か月後のため、開業直後や患者数が急増した月は「利益は出ているのに現金が足りない」状態になりがちです。照合表の請求データから「今月入金される2か月前の請求分」を資金繰り表(関連記事:No.16 資金繰り表の作り方)へ自動転記する列を作っておくと、診療報酬の入金予定が月初に確定し、支払・納税のやりくりが立てやすくなります。
実務の注意点・つまずきポイント
- 収入計上のタイミング:保険請求分は入金時ではなく診療月の収入(未収計上)が原則です。期末の2か月分の未収金計上を忘れると所得がズレます
- 窓口未収の貸倒れ処理:少額でも督促記録を残してから処理します。未収台帳の整備が前提です
- 労災・自賠責・公費は別サイクル:入金時期・請求先が異なるため、照合表に別列を設けます
- カード・QR手数料の処理:入金は手数料控除後でも、収入は総額で計上し手数料を経費処理します。相殺したままだと収入が過少になります
- 院内の現金管理体制:受付スタッフ任せの現金管理は事故の元です。日次照合表への記録と第三者チェック(関連記事:No.129 経理不正防止チェックリスト)をセットにします
クリニック収入管理テンプレートのご案内
本記事の設計(日次窓口照合→月次請求・入金照合→返戻追跡→自費区分集計)を組み込んだ「クリニック収入管理Excel」を用意しています。レセコンの日計表を転記するだけで三点照合が完成し、未収・返戻の放置をゼロにできます。税理士事務所では医科顧問先の月次監査ツールとしてもお使いいただけます(関連記事:No.32 月次監査チェックリスト)。
まとめ
- クリニック収入は窓口分と保険請求分(2か月後入金)の二重構造。三点照合が管理の骨格
- 日次は窓口差異、月次は請求−入金−査定−返戻の照合をルーチン化する
- 返戻レセプトの再請求追跡が「消える収入」を防ぐ最重要機能
- 保険(非課税)と自費・物販(課税多い)の区分が消費税・概算経費特例の基礎になる
- 保険請求分は診療月に未収計上。期末2か月分の計上漏れに注意

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