士業事務所の案件別収支をExcelで管理する【タイムチャージと固定報酬の採算】

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「この顧問先、報酬のわりに手間がかかりすぎでは?」――所長も担当者も薄々感じているのに、数字で確かめられない事務所は多いはずです。士業の商品は時間です。案件別に「かけた工数×時間単価」と「もらった報酬」を突き合わせない限り、忙しいのに儲からない構造は永遠に見えません

この記事では、税理士事務所を例に、案件別収支(タイムチャージ換算)をExcelで管理する方法と、固定報酬案件の実質時間単価を見える化して受任判断・料金改定につなげる使い方を解説します。

目次

基礎知識:固定報酬を「実質タイムチャージ」に換算する

顧問報酬は月額固定が主流ですが、収支管理の視点ではすべての案件を「実質時間単価」に換算して比較します。

実質時間単価 = 案件の年間報酬合計 ÷ 案件に投下した年間総工数

月額5万円(年60万円+決算料20万円=80万円)の顧問先に年160時間かけていれば実質5,000円/時、年40時間なら2万円/時。同じ「月5万円の顧問先」でも収益性は4倍違う――これが可視化の威力です。目標時間単価(事務所の人件費・経費・利益から逆算。関連記事:No.141 税理士報酬の値上げと料金表)を基準線にすれば、案件ごとの評価が客観化されます。

Excelでの実装手順

ステップ1:工数記録のルールを軽く設計する

「日付/担当者/顧問先・案件(プルダウン)/業務分類(記帳・巡回・決算・相談・調査対応等)/時間(0.5h刻み)」の5列だけの記録表にします。分単位の記録は続きません。0.5時間刻み・1日の合計が勤務時間と概ね合えばOKという割り切りが定着の条件です(関連記事:No.142 事務所KPI管理)。

ステップ2:案件マスタと報酬情報を登録する

「顧問先名/契約形態(顧問・スポット)/月額顧問料/決算料・その他報酬/担当者/決算月」をマスタ化します。スポット案件(相続・調査立会等)は案件単位で行を分けます。

ステップ3:案件別収支表を自動集計する

年間工数 =SUMIFS(時間,案件,対象案件,日付,">="&年度開始,日付,"<="&年度末)
実質時間単価 =年間報酬/年間工数
評価 =IF(実質時間単価>=目標単価,"◎",IF(実質時間単価>=目標単価*0.7,"○","要見直し"))

担当者別の人件費単価(給与+法定福利費÷年間実働時間)を掛ければ、時間単価ベースだけでなく粗利ベースの案件収支も出せます。業務分類別の内訳を見ると「記帳代行に時間が溶けている」「相談対応が無償で膨らんでいる」といった構造も特定できます。

ステップ4:受任判断・料金改定への活用

  • 「要見直し」案件の対応順序:①業務範囲の整理(記帳の顧問先移管・資料回収ルールの改善)→②料金改定の打診(関連記事:No.141 料金値上げの進め方)→③それでも改善しなければ契約解消の検討
  • 新規受任の見積り根拠:類似案件の実績工数から見積工数を引けるため、勘でない料金提示ができます(関連記事:No.192 スポット業務の見積り
  • 受入判断チェックと接続:新規顧問先の受任判断スコア(関連記事:No.144 顧問先受入チェックリスト)に「想定実質単価」を組み込むと入口で不採算を防げます

実務の注意点・つまずきポイント

  • 記録の目的を「監視」にしない:工数記録が人事評価に直結すると過少申告が起きます。「案件の値付けを直すため」と目的を共有し、担当者を責めない運用が数字の正直さを保ちます
  • 間接時間の扱いを決める:所内会議・研修・営業は「所内」案件に記録し、案件別収支には配賦しない(または率で配賦する)方針を固定します
  • 初年度の案件は割り引いて評価:新規受任の1年目は立ち上げ工数が膨らむのが普通です。2年目以降の定常状態で判断します
  • スポットの着手金・成功報酬の期間帰属:長期案件(相続等)は完了年度に報酬が集中します。工数と報酬の期間対応に注意して評価します
  • 他士業でも同じ構造:社労士・司法書士・弁護士でも「固定報酬の実質単価換算」の考え方はそのまま使えます

案件収支管理テンプレートのご案内

本記事の設計(工数記録→案件マスタ→実質時間単価の自動計算→評価と改善アクション管理)を組み込んだ「士業事務所 案件別収支管理Excel」を用意しています。0.5時間刻みの入力で月10分の手間から始められ、事務所KPI管理(関連記事:No.142 事務所KPI管理表)と連動して「どの案件から手を打つか」が毎月自動で見えるようになります。

まとめ

  • 固定報酬もすべて「実質時間単価=年間報酬÷年間工数」に換算して比較する
  • 工数記録は0.5時間刻みの5列だけ。精度より継続を優先する
  • 目標単価との比較で案件を◎○要見直しに区分し、業務範囲整理→料金改定の順で対処
  • 実績工数のデータベース化が新規見積り・受任判断の根拠になる
  • 記録を人事評価に直結させないことが、数字の正直さを保つ条件
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