「この製品、本当に儲かってるのか?」――町工場・食品加工・部品製造など、ものづくりの現場でこの問いに即答できる会社は多くありません。決算書の売上総利益は分かっても、製品別の原価が分からなければ、値決めも、注文の選別も、改善の優先順位も、すべて勘頼みになります。
この記事では、原価計算システムを導入する前の第一歩として、材料費・労務費・経費の集計から製品別配賦までの基本フローをExcelで実装する「最小構成の原価計算」を解説します。
基礎知識:原価の3要素と計算の流れ
製造原価は材料費・労務費・経費の3要素に分かれ、さらに製品に直接紐づく「直接費」と、工場全体で発生して紐づけられない「間接費」に分かれます。原価計算の流れは、①費目別に集計→②直接費は製品へ直課→③間接費は配賦基準で製品へ配賦→④製品別原価の完成、というシンプルな構造です。難しく見えるのは③の配賦だけで、ここさえ割り切れば中小製造業の実用レベルには十分到達します。
Excelでの実装手順
ステップ1:費目別集計シートを作る
月次の製造費用を「材料費(期首材料+仕入−期末材料)/労務費(工場人員の給与・賞与引当・法定福利費)/経費(外注費・電力・減価償却・修繕等)」に整理します。販管費(営業・本社の費用)を混ぜないことが最初のポイントです。
ステップ2:直接費を製品に直課する
製品別に「使用材料の数量×単価」と「直接作業時間×賃率」を記録します。
直接材料費 =Σ(部材数量×部材単価) ※部品表(BOM)をマスタ化
直接労務費 =直接作業時間×賃率
賃率 =月間労務費/月間総作業時間
作業時間の記録が最大のハードルですが、最初は日報で「製品A:3時間、製品B:4時間」レベルの粗い記録で十分です。精度より継続を優先します。
ステップ3:間接費を配賦する
間接費(間接労務費・電力・減価償却等)は、配賦基準を決めて製品に割り振ります。中小製造業なら直接作業時間基準が最も汎用的です。
配賦率 =月間間接費合計/月間直接作業時間合計
製品別間接費 =その製品の直接作業時間×配賦率
機械が主役の工程なら機械運転時間基準、材料が支配的なら材料費基準など、「間接費の発生と最も相関する量」を基準に選ぶのが原則です。凝った複数基準は軌道に乗ってからで構いません。
ステップ4:製品別原価表と採算一覧を作る
製品別製造原価 =直接材料費+直接労務費+間接費配賦額
単位原価 =製品別製造原価/生産数量
製品別粗利率 =(販売単価-単位原価)/販売単価
製品別の粗利率を降順に並べた採算一覧こそが、この仕組みの成果物です。「売れているのに赤字の製品」「地味だが高採算の製品」が必ず見つかり、値上げ交渉(関連記事:No.86 値上げシミュレーション)や生産品目の見直しに直結します。
さらに一歩進めるなら、見積時の予定原価(標準原価)と実際原価を比較する列を追加します。「見積では粗利30%のはずが実際は18%」という差異が見えると、原因(材料値上がり・段取り時間の想定超過・手直し)の特定と、次回見積への反映という改善サイクルが回り始めます。原価計算は決算のためでなく、値決めと改善のための道具――この位置づけが定着の鍵です。
実務の注意点・つまずきポイント
- 最初から完璧を目指さない:主力10製品だけ、月次だけ、から始めます。全品目・日次への拡張は運用が回ってから
- 期末の仕掛品・製品在庫の評価:決算では仕掛品・製品の棚卸評価に原価計算の結果を使います。税務上の評価方法との整合は税理士に確認を(関連記事:No.84 実地棚卸の集計)
- 賃率に含める範囲を決めて固定する:賞与・法定福利費を含むか等、賃率の定義がブレると期間比較ができません。定義をメモ化します
- 外注費の扱い:外注加工費は製品に直課できることが多い費目です。間接費に混ぜず直課を優先します
- ロス・不良の見える化:材料の歩留まり・不良率を記録列に追加すると、原価低減の打ち手が具体化します
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まとめ
- 原価計算の流れは費目別集計→直接費の直課→間接費の配賦→製品別原価
- 間接費の配賦は直接作業時間基準が中小製造業の汎用解
- 作業時間の記録は粗くてよい。精度より継続を優先する
- 成果物は製品別粗利率ランキング。赤字製品の発見が値決め・選別の起点になる
- 主力製品×月次から始め、仕掛品評価・賃率定義は税理士と整合を取る

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