「売上は分かる。利益も分かる。でも、うちの会社は良いのか悪いのか」——社長のこの問いに答えるのが経営分析指標です。ただ、指標を毎月電卓で計算して口頭で説明していては続きません。試算表の数字を貼り付けるだけで主要指標が自動計算され、色と矢印で良し悪しが見えるダッシュボードにしてしまうのが、月次面談を変える近道です。
この記事では、押さえるべき経営分析指標を厳選し、試算表データから自動計算するExcelダッシュボードの設計と業種平均との比較の見せ方を解説します。
押さえるべき指標の厳選
指標は多く並べるほど伝わらなくなります。中小企業の月次なら次の10個前後で十分です。
| 分類 | 指標 | 計算式 | 目安の方向 |
|---|---|---|---|
| 収益性 | 売上高総利益率 | 売上総利益÷売上高 | 高いほど良い(業種差大) |
| 売上高営業利益率 | 営業利益÷売上高 | 高いほど良い | |
| 労働分配率 | 人件費÷売上総利益 | 50%前後が一つの目安 | |
| 安全性 | 流動比率 | 流動資産÷流動負債 | 150%以上が望ましい |
| 自己資本比率 | 純資産÷総資産 | 30%以上が一つの目安 | |
| 現預金月商倍率 | 現預金÷月商 | 1.5〜2か月分以上 | |
| 効率性 | 売上債権回転期間 | 売上債権÷月商 | 短いほど良い |
| 棚卸資産回転期間 | 棚卸資産÷月商 | 短いほど良い(業種差大) | |
| 総資本回転率 | 売上高÷総資産 | 高いほど良い |
Excelダッシュボードの作り方
ステップ1:データ層と表示層を分ける
「データ貼付シート(会計ソフトの試算表CSVを月別に貼る)」「科目マッピングシート」「ダッシュボード(表示専用)」の3層構造にします。会計ソフトの科目体系は会社ごとに違うため、科目名→分析用区分(流動資産・売上債権・人件費…)の対応表を1枚挟むのが汎用化のポイントです。
分析用区分の集計:
=SUMIFS(データ!金額,データ!科目,マッピングの科目一覧,データ!月,対象月)
※実装はSUMPRODUCT(SUMIFS(...))で複数科目を一括合算
ステップ2:指標計算と「色と矢印」の見せ方
流動比率:=IFERROR(流動資産/流動負債,"-")
前月比の矢印:=IFS(当月>前月*1.02,"↑",当月<前月*0.98,"↓",TRUE,"→")
判定色:条件付き書式で「目安レンジ内=緑/注意=黄/要対応=赤」の3段階
数値そのものより「前月からどちらへ動いたか」「安全圏か危険圏か」が伝わることが重要です。12か月分のスパークライン(挿入→スパークライン)を各指標の横に置くと、トレンドが一目で伝わります。グラフを多用するより、数値+矢印+ミニ推移のコンパクトな1枚に収めるほうが月次面談では機能します。
ステップ3:業種平均との比較
「自社の30%が良いのか悪いのか」は比較対象があって初めて意味を持ちます。中小企業実態基本調査や中小企業庁の経営指標、TKC経営指標(会員の場合)などから業種平均をマスタシートに転記し、ダッシュボードに「自社/業種平均/差」の3列で並べます。出典と年度をシートに明記し、毎年更新する運用にしてください。
数値例:ダッシュボードが会話を変える
たとえば「流動比率180%(緑)だが、売上債権回転期間が2.1か月→2.6か月に悪化(赤・↑)」と出れば、面談の話題は自動的に「どの得意先の回収が遅れているか」に向かいます。指標は答えを出すものではなく、どこを深掘りするかを決める道しるべです。深掘り側のツール(売掛金年齢表・資金繰り表)とセットで運用すると効果が倍増します。(関連記事:No.23 売掛金滞留チェック表の作り方/No.16 資金繰り表の作り方)
実務の注意点・つまずきポイント
- 月次データの季節性に注意:単月の指標は賞与月・決算月で大きく振れます。12か月移動平均や前年同月比較の列を併設すると誤読を防げます。
- 役員借入金の扱いを決めておく:中小企業では役員借入金を実質資本とみなすかで自己資本比率が大きく変わります。ダッシュボードに「調整後自己資本比率」を併記すると金融機関目線に近づきます。
- 棚卸を月次でやっていない会社の在庫指標:月次棚卸がなければ在庫関連指標は概算です。その旨の注記を自動表示する仕様にしておくと誤解を招きません。
- 指標の定義を統一する:回転期間を「月商基準」か「日商基準」か、営業利益に役員報酬調整を入れるか等、定義をシートに明記して毎月同じ基準で見せてください。
- 月次報告書との連携:ダッシュボードを月次報告資料の1ページ目に組み込むと、報告の「顔」になります。(関連記事:No.34 月次報告資料の作り方)
よくある質問
Q. 損益分岐点分析もダッシュボードに入れるべきですか?
固変分解ができている会社なら、損益分岐点売上高と安全余裕率は経営者への訴求力が特に高い指標です。固変分解の方法から始める場合は別記事を参照してください。(関連記事:No.18 損益分岐点の計算)
Q. 金融機関に見せる資料としても使えますか?
使えます。特に自己資本比率・債務償還年数・経常収支は融資審査で必ず見られる指標です。融資向けには数値計画とセットで示すのが効果的です。(関連記事:No.80 銀行融資に通る数値計画の作り方)
経営分析ダッシュボードのご案内
試算表CSVの貼り付けと科目マッピングだけで、10指標の自動計算・3段階の色分け・12か月スパークライン・業種平均比較まで表示する経営分析ダッシュボードExcelをご用意しています。顧問先ごとに複製すれば、全関与先の月次面談が同じ品質になります。
まとめ
- 指標は収益性・安全性・効率性から10個前後に厳選し、1枚に収める
- データ層・マッピング層・表示層の3層構造にすれば、どの会計ソフトでも使い回せる
- 数値より「矢印と色」。前月比・目安レンジ・スパークラインで直感的に伝える
- 業種平均との比較列で「良いのか悪いのか」に答えられるようにする
- 指標は深掘りの道しるべ。売掛金年齢表・資金繰り表などの実行ツールとセットで運用する

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