アパート・マンション・駐車場などの賃貸経営では、物件が2つ3つと増えた途端に経理の難易度が跳ね上がります。「どの物件がいくら稼いでいるのか分からない」「建物と設備の減価償却がごちゃごちゃ」「借入金利子のうち経費にできる範囲が不安」――確定申告のたびに通帳と領収書の山と格闘している大家さんは少なくありません。
この記事では、不動産所得の収支を物件別に一元管理するExcelシートの作り方を解説します。月別の収入・経費管理、建物・設備を分けた減価償却、借入金利子の区分(土地分の損益通算制限への対応)まで、1つのファイルで完結する構成です。
不動産所得の計算と物件別管理が必要な理由
不動産所得は「総収入金額−必要経費」で計算します。収入には家賃のほか、礼金・更新料・共益費、返還を要しない敷金なども含まれます。必要経費の代表は、減価償却費・借入金利子・固定資産税・修繕費・管理費・損害保険料です。
申告自体は全物件の合算で行いますが、実務では物件別の管理が欠かせません。理由は3つあります。
- 採算判断:赤字物件を黒字物件が覆い隠すため、合算では売却・修繕・家賃改定の判断ができない
- 青色申告決算書(不動産所得用)の要請:様式に物件ごとの貸付不動産の内訳を記載する欄がある
- 土地分の借入金利子の区分:不動産所得が赤字のとき、土地取得に係る借入金利子に相当する部分は他の所得と損益通算できないという制限があり、物件・借入別の利子把握が前提になる
Excelで物件別収支管理シートを作る手順
ステップ1:物件マスタを作る
1枚目のシートに物件の基本情報を一覧化します。物件コード/名称/所在地/構造・用途/取得年月/取得価額(土地・建物・設備に区分)/借入額(土地分・建物分)が基本項目です。取得価額を土地・建物・附属設備に分けておくことが、後の減価償却と利子区分の土台になります。売買契約書に区分がない場合は、消費税額からの逆算や固定資産税評価額の比率などの合理的な方法で按分します。
ステップ2:月別の収入・経費入力表を物件別に作る
2枚目のシートに、日付/物件コード(プルダウン)/区分(家賃・礼金・修繕費など)/金額の明細表を作り、すべての入出金をここに集約します。物件×月のクロス集計はSUMIFSで自動化します。
=SUMIFS(明細!$E:$E, 明細!$B:$B, $A3, 明細!$C:$C, "家賃", 明細!$A:$A, ">="&DATE(2026,B$1,1), 明細!$A:$A, "<="&EOMONTH(DATE(2026,B$1,1),0))
空室が出た月は家賃行がゼロになるため、この表がそのまま空室ロスの見える化にもなります。満室想定家賃の行を1行追加し、実績との差額を出すと物件ごとの稼働率が把握できます。
ステップ3:減価償却は建物・設備を分けて計算する
3枚目のシートに資産台帳を作ります。建物本体(RC47年・重量鉄骨34年・木造22年など)と建物附属設備(給排水・電気設備15年など)は耐用年数が大きく異なるため、必ず行を分けて登録します。定額法の年間償却費は次のとおりです。
年間償却費 = ROUND(取得価額 × 償却率 × 使用月数/12, 0)
期末未償却残高 = 期首未償却残高 − 本年分償却費
中古物件は「法定耐用年数−経過年数+経過年数×20%」の簡便法で耐用年数を見積もるのが一般的です。物件コード列を付けておけば、SUMIFで物件別の償却費を収支表へ自動反映できます。
ステップ4:借入金利子を土地分・建物分に区分する
4枚目のシートで、借入ごとに年間支払利子を集計し、土地・建物の取得価額比率などで按分します。
土地分利子 = 年間支払利子 × 土地取得に充てた借入額 ÷ 借入総額
不動産所得が赤字になった年は、赤字のうち土地分利子に相当する金額は損益通算の対象外となります。黒字の年には影響しませんが、区分の集計自体は毎年続けておくことで、赤字転落時にも慌てず対応できます。
ステップ5:物件別サマリーで全体を俯瞰する
最後に、物件を行に並べ、収入合計/経費合計(科目別)/減価償却費/支払利子/差引損益/キャッシュフロー(差引損益+減価償却費−借入元本返済)を1行で見られるサマリーを作ります。会計上の損益とキャッシュフローを並べて見るのが大家業の管理の要諦です。減価償却が終わった古い物件は黒字でも、元本返済が重い新しい物件は手残りが薄い、といった実態がここで初めて見えます。
実務の注意点・つまずきポイント
- 敷金・保証金を収入に混ぜない:返還予定の敷金は預り金であって収入ではありません。返還不要が確定した部分だけがその時点の収入になります。
- 修繕費と資本的支出の区分:外壁塗装や設備交換は、原状回復なら修繕費、価値を高める工事なら資本的支出(減価償却)です。判断に迷う支出は金額基準(60万円未満など)の形式基準も参考になります。
- 自宅兼賃貸や共有物件の按分:床面積比・持分比での按分計算欄を設け、根拠を残しておきます。
- 事業的規模(いわゆる5棟10室)かどうかで、青色申告特別控除の額や専従者給与などの取扱いが変わります。規模の判定と適用要件は申告時に最新情報をご確認ください。
- 元本返済は経費にならない:経費になるのは利子部分のみです。返済予定表から利子と元本を分けて入力する列を必ず設けてください。
不動産収支管理テンプレートをご用意しています
この記事の5シート構成(物件マスタ→明細→月別集計→減価償却台帳→物件別サマリー)を組み込んだExcelテンプレートを販売しています。明細を入力するだけで物件別の損益とキャッシュフローが自動集計され、確定申告時は青色申告決算書(不動産所得用)への転記元として使えます。土地分利子の区分計算にも対応しています。
減価償却の計算方法の詳細はこちらの記事を(関連記事:No.1 減価償却費の計算をExcelで自動化)、借入金の返済管理は返済予定表の記事をご覧ください(関連記事:No.21 借入金返済予定表)。
まとめ
- 不動産所得の管理は「物件別」が鉄則。合算では採算判断も利子区分もできない
- 物件マスタで取得価額を土地・建物・設備に区分しておくことがすべての土台
- 減価償却は建物本体と附属設備で耐用年数が違うため必ず分けて計算する
- 赤字年は土地分の借入金利子が損益通算の対象外になるため、利子の区分集計を毎年続ける
- 損益とキャッシュフロー(償却費・元本返済を調整)を並べて見ると物件の実力がわかる

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