「相続の申告、おいくらでできますか?」――スポット業務の見積もりを聞かれるたびに、その場の感覚で答えていないでしょうか。根拠のない金額は、高ければ逃げられ、安ければ疲弊し、そして「あの人はいくらだったのに」という値引き圧力に一生さらされます。スポット業務こそ、工数×単価の見積根拠をテンプレート化する価値があります。
この記事では、相続・税務調査立会・融資支援などのスポット業務について、Excelで即座に見積を算出し、根拠を顧客に見せられる形にする方法を解説します。
基礎知識:スポット見積の基本構造
見積額 = 基本料金 + Σ(作業項目別の標準工数 × 時間単価) + 加算要素 − 減算要素
ポイントは3つです。①基本料金で最低受任ライン(受任管理・責任コスト)を確保する、②作業を項目分解して標準工数を持つ(実績データがあれば案件収支管理から取得。関連記事:No.186 案件別収支管理)、③案件の難易度で変わる部分を加算・減算要素として明示する。この構造なら「なぜこの金額か」を1枚で説明でき、値引き交渉が「どの作業を削るか」という健全な話に変わります。
Excelでの実装手順(相続税申告を例に)
ステップ1:料金体系マスタを作る
相続税申告の実務でよく見る体系は「基本料金+遺産総額連動+加算要素」です。例えば:
- 基本料金:遺産総額の規模区分別(〜5,000万円、〜1億円…)の表をマスタ化
- 加算要素:相続人加算(2人目以降1人あたり+10%等)/土地1利用区分ごと/非上場株式1社ごと/申告期限まで3か月未満の特急対応/準確定申告/書面添付
- 減算要素:資料が整理済み/評価対象が預金のみ 等
ステップ2:ヒアリング入力→自動見積の画面を作る
基本料金 =VLOOKUP(遺産総額,料金マスタ,2,TRUE)
相続人加算 =MAX(0,相続人数-1)*基本料金*10%
土地加算 =土地利用区分数*単価
見積合計 =基本料金+各加算-各減算
初回面談でヒアリングしながら入力すれば、その場で概算をレンジ提示(例:○○万円〜○○万円)できます。「正式見積は資料確認後」と留保をつけつつ即答できることが、他事務所との比較検討で効きます。
ステップ3:顧客提示用の見積書に変換する
内部計算シートとは別に、顧客向けの見積書シートを作り、「業務範囲に含まれるもの/含まれないもの(別途見積)」を必ず記載します。トラブルの大半は金額でなく範囲の認識ズレです。「含まれない例:遺産分割協議の調整、不動産の測量、登記(提携司法書士を紹介)」のように書き切ります(見積書の様式は関連記事:No.76 見積書テンプレート)。
ステップ4:他のスポット業務へ横展開する
- 税務調査立会:事前準備○時間+立会日当(1日○万円)+修正申告(1税目・1期あたり)の構造(関連記事:No.124 税務調査の準備チェックリスト)
- 融資支援:計画書作成の固定額+着金時成功報酬(%)の併用型(関連記事:No.80 融資用数値計画)
- 法人設立支援・記帳スポット:作業項目のチェックボックス選択で自動加算
実務の注意点・つまずきポイント
- 成功報酬型の設計は慎重に:融資成功報酬などは、割合・上限・不成立時の実費精算を契約書に明記します
- 「安く受けて後から追加」は信頼を壊す:追加が見込まれる要素は最初から加算表に載せて説明しておくのが結局早い
- 見積の有効期限と着手金:見積書に有効期限(1か月等)を記載し、大型案件は着手金(3〜5割)で共倒れを防ぎます
- 実績工数で毎年アップデート:見積工数と実績工数の差異を案件収支(関連記事:No.186 案件別収支管理)で検証し、標準工数マスタを年1回改定します
- 報酬水準は自由化されている:旧報酬規程は廃止済みで、料金は各事務所の設計次第です。自事務所の時間単価(関連記事:No.141 料金表の作り方)から逆算した水準に自信を持ちましょう
スポット見積テンプレートのご案内
本記事の設計(料金マスタ→ヒアリング入力→自動見積→顧客提示用見積書)を、相続・調査立会・融資支援・設立支援の4業務分セットにした「スポット業務見積Excel」を用意しています。初回面談でその場のレンジ提示ができ、根拠の見える化で値引き圧力から事務所を守ります。
まとめ
- 見積は「基本料金+標準工数×単価+加算−減算」の構造で根拠を持たせる
- ヒアリング入力でその場のレンジ提示ができると受任率が上がる
- 顧客提示では「含まれない業務」の明記が最大のトラブル予防
- 見積工数と実績工数の差異検証で標準工数を毎年改定する
- 値引き交渉は「金額を下げる」でなく「範囲を調整する」話に変える

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