「欠品してお客を逃した」翌月に「在庫が積み上がって資金が寝ている」――在庫のある商売に共通する悩みです。担当者の経験と勘だけの発注は、欠品と過剰在庫の間を行ったり来たりします。これを解決するのが安全在庫と発注点という2つの計算式で、Excelがあれば今日から実装できます。
この記事では、安全在庫・発注点の計算式の意味と実装、ABC分析と組み合わせた重点管理の方法を解説します。
基礎知識:安全在庫と発注点の考え方
安全在庫=需要のブレに備えるバッファ
安全在庫 = 安全係数 × 需要の標準偏差 × √リードタイム
安全係数は許容する欠品率で決まり、欠品率5%許容なら1.65、1%なら2.33が代表値です。需要のブレ(標準偏差)が大きい商品ほど、仕入までの日数(リードタイム)が長いほど、安全在庫は厚く必要になります。
発注点=「ここまで減ったら発注」の水位線
発注点 = 1日平均出荷量 × リードタイム日数 + 安全在庫
「発注してから届くまでに売れる量」に安全在庫を足した水準が発注点です。在庫がこの線を切ったら機械的に発注する――判断を計算式に置き換えることが、属人化からの脱却です。
なお、発注方式には在庫が発注点を切ったら都度発注する「定量発注方式」と、毎週・毎月など決まったタイミングでまとめて発注する「定期発注方式」があります。本記事の発注点は定量発注の考え方ですが、後述のABC分析と組み合わせて、重要品目は定量発注・その他は定期発注と使い分けるのが中小企業の現実的な着地点です。1回あたりの発注量に迷う場合は、発注コストと在庫維持コストのバランスから求める経済的発注量(EOQ)の考え方もありますが、まずは「現状のロット単位で発注点だけ機械化する」ことから始めれば十分に効果が出ます。
Excelでの実装手順
ステップ1:商品別の出荷データを整える
商品別に直近6〜12か月の日次(または週次)出荷量を並べ、平均と標準偏差を計算します。
1日平均出荷 =AVERAGE(出荷範囲)
標準偏差 =STDEV.S(出荷範囲)
ステップ2:商品マスタに計算式を組み込む
安全在庫 =安全係数*標準偏差*SQRT(リードタイム)
発注点 =1日平均出荷*リードタイム+安全在庫
発注要否 =IF(現在庫+発注残<=発注点,"発注!","")
判定には現在庫だけでなく発注済み未入荷(発注残)を足すのを忘れないでください。ここを忘れると二重発注が起きます。安全係数はマスタセルに分離し、商品カテゴリごとに欠品許容度を変えられるようにします。
ステップ3:ABC分析で管理の濃淡をつける
全商品を同じ精度で管理するのは非効率です。売上金額の大きい順に並べた累積構成比でA(上位70%)・B(〜90%)・C(残り)に区分し(関連記事:No.85 ABC分析のやり方)、Aランクは発注点方式で厳密に、Cランクは定期発注(月1回まとめ買い)で手間をかけない、と管理方式を分けます。
ステップ4:在庫指標のモニタリング
在庫回転日数 =平均在庫金額/(年間売上原価/365)
欠品率 =欠品発生日数/営業日数
回転日数と欠品率を月次で追い、「回転日数が伸びたらCランクの過剰」「欠品率が上がったら安全係数の見直し」とチューニングします。在庫金額は資金繰りに直結するため、資金繰り表(関連記事:No.16 資金繰り表の作り方)とあわせて見ると効果が実感できます。
実務の注意点・つまずきポイント
- 季節商品は期間を区切って計算:年間平均で計算すると繁忙期に欠品します。季節商品はシーズン中データだけで平均・標準偏差を取ります
- 新商品・廃番予定品は式の対象外:実績のない商品は類似品からの類推、廃番予定品は売り切り計画で個別管理します
- リードタイムのブレも本当は効く:仕入先の納期が不安定な場合は、リードタイムを長めに置くか、安全係数を上げて対応します
- ロット制約・最低発注量との調整:発注点を切っても発注単位が大きい場合は、経済的発注量とのバランスで発注量を決めます
- 実地棚卸との突合が前提:帳簿在庫が実在庫とズレていたら全計算が無意味です。定期的な棚卸(関連記事:No.84 実地棚卸の集計)とセットで運用します
在庫最適化テンプレートのご案内
本記事の設計(出荷統計→安全在庫・発注点の自動計算→発注アラート→ABC区分→回転日数モニタリング)を組み込んだ「発注点・適正在庫管理Excel」を用意しています。出荷データを貼り付けるだけで商品別の発注点が一覧になり、毎日の発注判断が「リストの赤い行を発注するだけ」になります。
まとめ
- 安全在庫=安全係数×標準偏差×√リードタイム。欠品許容率で係数を決める
- 発注点=平均出荷×リードタイム+安全在庫。判定には発注残を含める
- ABC分析で管理方式に濃淡をつけ、Aランクに手間を集中する
- 回転日数と欠品率を月次で追い、安全係数をチューニングする
- 季節商品の期間区切りと実地棚卸との突合が精度の前提

コメント