「支給日が届出より1日ズレただけで、役員賞与200万円が全額損金不算入になった」——事前確定届出給与は、税務の世界でも指折りの「ミスが許されない」制度です。届出期限の計算、届出どおりの支給日・支給額の厳守と、管理すべきポイントが多いうえ、顧問先が増えるほど支給日の管理は事務所側の重い負担になります。
この記事では、事前確定届出給与の制度とリスクを整理し、顧問先ごとの届出期限・支給予定日をExcelで一覧管理し、支給日接近を自動アラートする管理表の作り方を解説します。
事前確定届出給与の基本
制度の概要
役員賞与は原則損金不算入ですが、「いつ・誰に・いくら支給するか」を事前に税務署へ届け出て、そのとおりに支給した場合に限り損金算入が認められます。役員への賞与支給や、非常勤役員への年俸一括払いなどで活用されます。
届出期限
- 原則:株主総会等の決議日から1か月以内と事業年度開始日から4か月以内のいずれか早い日
- 新設法人:設立日以後2か月以内
- 臨時改定事由・業績悪化改定事由がある場合は別途の期限あり
「決議から1か月」と「期首から4か月」の早いほうという二重構造が期限管理を複雑にしています。期限の詳細は改正されることもあるため、届出時に国税庁サイトで最新を確認してください。
否認のインパクト:一部のズレで全額アウト
届出と実際の支給が支給日・支給額のどちらか一方でも異なると、その支給は損金不算入です。しかも複数回の支給を届け出ていた場合、1回でも不一致があると職務執行期間の支給全体が否認され得るという厳しい取扱いです。「資金繰りが苦しいので今回は半額だけ」という対応は、支給した半額まで丸ごと損金不算入になります。
Excel管理表の作り方
ステップ1:顧問先ごとの管理列を設計する
- A:顧問先名 B:決算月 C:定時総会(決議)日 D:届出期限(自動計算)
- E:届出提出日 F:対象役員名 G:届出支給日 H:届出支給額
- I:実際支給日 J:実際支給額 K:一致チェック(自動) L:残日数アラート(自動)
ステップ2:届出期限を自動計算する
D2(届出期限):
=MIN(EDATE(C2,1),EDATE(DATE(YEAR(期首日),MONTH(期首日),DAY(期首日)),4))
※実務では「期首日」列を設け =MIN(EDATE(決議日,1),EDATE(期首日,4)) とする
EDATEで「1か月後」「4か月後」を計算しMINで早いほうを採る、制度をそのまま数式化した形です。日付計算の基本は別記事で詳しく解説しています。(関連記事:No.45 EOMONTHによる期限計算)
ステップ3:支給日接近アラートと一致チェック
L2(残日数):=G2-TODAY()
条件付き書式:=AND($L2>=0,$L2<=14) の行を黄色、=$L2<0 かつ未支給を赤
K2(一致チェック):
=IF(OR(I2="",J2=""),"未支給",IF(AND(I2=G2,J2=H2),"OK","不一致(否認リスク)"))
支給予定日の2週間前から黄色、経過したら赤で警告し、支給後は日付と金額の完全一致を機械的に確認します。「一致チェックがOKになるまで管理表を閉じない」という運用ルールにすれば、確認漏れが構造的になくなります。月次の巡回チェックに組み込むのも有効です。(関連記事:No.32 月次監査チェックリスト)
数値例:期限計算の具体パターン
| ケース | 期首 | 決議日 | 決議+1か月 | 期首+4か月 | 届出期限 |
|---|---|---|---|---|---|
| 3月決算・5月総会 | 4/1 | 5/25 | 6/25 | 7/31 | 6/25 |
| 3月決算・6月総会 | 4/1 | 6/28 | 7/28 | 7/31 | 7/28 |
| 9月決算・11月総会 | 10/1 | 11/20 | 12/20 | 1/31 | 12/20 |
多くの会社では「決議日から1か月」が先に到来します。総会直後の繁忙期に届出を忘れるパターンが典型的な事故なので、総会日程が決まった時点で管理表に入力し、期限を自動表示させる運用が安全です。
実務の注意点・つまずきポイント
- 支給日を「〇月末日」など曖昧に届け出ない:届出は具体的な年月日で行い、管理表・給与担当への引継ぎまで同じ日付で統一します。振込日が土日にかかる場合の取扱いも事前に確認しておきましょう。
- 支給しない決断も届出どおりでなければリスク:全額を支給しなかった場合、支給自体がなければ損金の問題は生じませんが、受給辞退のタイミング等によっては源泉徴収の問題が残ります。辞退する場合は支給日前の手続きが重要です。
- 社会保険料への影響も試算する:賞与形式の支給は社会保険の賞与保険料(上限あり)の対象です。年収を月給と賞与にどう配分するかで社保負担が変わるため、設計段階での試算が提案価値になります。(関連記事:No.9 役員報酬シミュレーション)
- 期限管理は申告期限と一元化する:事務所全体では、申告期限・届出期限を1枚の管理表に集約したほうが漏れが起きにくくなります。(関連記事:No.30 申告期限管理表)
- 届出済みの内容は毎期リセットして確認:前期の届出は当期に引き継がれません。毎期の総会後に新しい届出が必要である点を、管理表の年度更新処理に組み込んでください。
よくある質問
Q. 届出より多く支給した場合はどうなりますか?
増額分だけでなく、支給額全体が損金不算入になります。届出額と1円でも異なれば「事前確定」の要件を満たさないためです。減額の場合も同様に支給額全体が否認されます。
Q. 業績が悪化したので支給をやめたい場合は?
支給日前に株主総会等で不支給を決議し、役員本人が受給を辞退すれば、損金不算入の問題も源泉徴収の問題も原則生じません。支給日を過ぎてからの辞退は「いったん支給があった」と扱われるリスクがあるため、必ず支給日前に手続きすることが重要です。著しい業績悪化なら期中の改定届出(業績悪化改定事由)という選択肢もあります。
届出給与管理表テンプレートのご案内
顧問先ごとの届出期限の自動計算、支給日接近の2段階アラート、支給後の一致チェック、年度更新処理までを組み込んだ事前確定届出給与管理表のExcelテンプレートをご用意しています。事務所全体で「誰の支給日がいつか」を1枚で把握できます。
まとめ
- 事前確定届出給与は届出期限・支給日・支給額のすべてが一致して初めて損金算入できる
- 届出期限は「決議日+1か月」と「期首+4か月」の早いほう。多くの会社は決議+1か月が先に来る
- ExcelならEDATE+MINで期限を自動計算し、TODAYとの差分で支給日接近アラートを出せる
- 支給後は日付・金額の完全一致チェックを機械化し、確認漏れを構造的に防ぐ
- 1日・1円のズレが全額否認に直結する制度のため、最新の取扱いは届出時に必ず確認する
