会社を作って最初に悩むのが役員報酬の金額です。検索すると「正解の金額」を探したくなりますが、結論から言うと全員に共通する正解はありません。利益水準・必要な生活費・社会保険・税金のバランスで、自社の最適点は変わります。
ただし、決め方の手順は共通です。この記事では一人会社を想定して、5つのステップで整理します。
※[令和7年4月1日現在法令等]に基づく国税庁タックスアンサー等を参照しています。具体的な税率・料率は毎年変わり得るため、最終判断の際は最新の数値で試算してください。
前提:役員報酬は「あとから自由に変えられない」
先に最重要ルールを押さえます。役員報酬を法人の経費(損金)にするには、原則として毎月同額を支給する「定期同額給与」である必要があり、金額の変更は事業年度開始から3か月以内が原則です(国税庁タックスアンサー No.5211)。
つまり「儲かったから今月は多めに」はできません。年に1回、期首に1年分を決め切るのが役員報酬です。詳細は役員報酬の変更時期とルールへ。
ステップ1:年間利益を予測する
まず、自分の報酬を払う前の利益(売上−報酬以外の経費)を見積もります。
- 初年度なら売上計画ベースで、保守的・標準・強気の3パターン作ると判断しやすい
- 2期目以降なら前期実績に今期の増減要因を加味する
ここが役員報酬の「原資」です。原資を超えた報酬を設定すると、会社は赤字でも報酬への税・社会保険はかかるという最も苦しい形になります。
ステップ2:生活に必要な手取りを確認する(下限を決める)
次に、個人として毎月必要な生活費を洗い出します。住居費・生活費・個人の保険や貯蓄など、「最低限この手取りがないと生活が回らない」ラインが報酬の下限です。
役員社宅を導入すると住居費の個人負担を大きく下げられるため、必要な手取り自体を圧縮できます(役員社宅で節税できる仕組み)。社宅とセットで考えるのが一人会社の定石です。
ステップ3:法人に残すか、個人に移すかのバランスを取る
役員報酬は「会社の利益を個人に移す行為」です。移した分には個人側の負担、残した分には法人側の負担がかかります。
| 個人に移す(報酬を増やす) | 法人に残す(報酬を抑える) | |
|---|---|---|
| かかる負担 | 所得税(累進)+住民税+社会保険料 | 法人税等 |
| 特徴 | 報酬が増えるほど税率が段階的に上がる。社会保険料も報酬に連動して増える | 税率はおおむね一定の範囲。ただし個人がお金を使うには結局報酬等で移す必要がある |
| 使い道 | 生活費・個人の資産形成 | 設備投資・運転資金・将来の退職金原資 |
報酬が低いうちは個人側の負担率が低く、増えるほど累進的に重くなります。一方、法人側の税率は所得水準によりおおむね一定の範囲に収まるため、ある水準を超えると「法人に残すほうが負担が軽い」逆転が起きます。逆転点は利益水準・扶養状況・各種控除で変わるため、自社の数字での試算が必須です(税率の一次情報:法人税の税率(No.5759)/所得税の税率(No.2260))。
ステップ4:社会保険料の影響を織り込む
一人会社でも、役員報酬を支給すれば原則として健康保険・厚生年金への加入が必要です。
- 保険料は標準報酬月額に連動し、会社負担と本人負担を合わせると報酬のおおむね3割弱に達する(料率は都道府県・年度で変動)
- 報酬を上げると、税金より先に社会保険料の増加が手取りを圧迫することが多い(役員報酬と社会保険料の関係)
- 将来の年金額や傷病手当金等の給付に反映される面もあるため、「安ければ安いほど得」と単純には言い切れない
極端な低額・ゼロ設定には別の論点があります(役員報酬ゼロ・低額のメリットと落とし穴)。
ステップ5:手続きを整えて決定する
金額が決まったら、形式を整えます。ここを省くと損金算入が否認されるリスクが残ります。
- 株主総会(一人会社なら株主総会議事録)で決議:設立後または期首3か月以内に
- 議事録を保管:金額・支給開始時期を記載
- 毎月同額を支給:定期同額給与の要件。期中の増減は原則不可(役員報酬の変更はいつできる?定期同額給与のルール)
- 社会保険の手続き:資格取得・標準報酬の届出
- 翌期に向けた見直しサイクル:決算の2〜3か月前から来期の利益を予測し、期首の改定に備える
まとめ:5ステップの流れ
- 年間利益を予測する(原資の把握)
- 必要な手取りから下限を決める(社宅併用で下限を下げられる)
- 法人と個人の負担バランスで上限の目安をつける
- 社会保険料の影響を織り込む
- 議事録・定期同額・社保手続きを整えて確定する
報酬額ごとの手取り・税負担・社会保険料の比較は、計算式を組むより試算ツールを使うのが速く確実です。最終決定の前には、自社の状況を踏まえて顧問税理士等に確認してください。
