顧問契約の解約は、ある日突然やってくるように見えます。しかし実際には、解約の1〜2年前から「巡回時の会話が減る」「質問が来なくなる」「請求への反応が遅くなる」といった予兆が出ています。それを拾う最も簡単な仕組みが、年1回の顧問先満足度アンケートです。新規獲得の何分の一のコストで、解約という最大の売上流出を防げます。
この記事では、税理士事務所向けに、満足度アンケートの設問設計・実施のコツ・Excel集計とスコア推移管理・低評価先へのフォロー動線までを解説します。
設問設計:10問以内・5分で答えられる形に
回収率を決めるのは設問数です。5段階評価8問+自由記述2問、所要5分以内を上限に設計します。設問例:
- ①担当者の対応スピードに満足していますか
- ②説明の分かりやすさに満足していますか
- ③試算表・報告資料は経営判断に役立っていますか
- ④税務以外の相談(資金繰り・補助金等)に乗ってもらえていますか
- ⑤報酬と提供内容のバランスをどう感じますか
- ⑥事務所とのやり取りの手段(訪問・オンライン・チャット)は希望に合っていますか
- ⑦当事務所を知人の経営者に薦めたいと思いますか(0〜10点)
- ⑧今後強化してほしいサービスは?(選択式)
- 自由記述:改善してほしい点/担当者へのメッセージ
⑦は推奨度(NPSと呼ばれる指標)で、総合満足度より解約予兆との相関が強いとされる設問です。0〜6点を付けた顧問先は要注意リストに直行させます。
実施のコツ:タイミングと匿名性
- 実施時期は決算報告の直後か、繁忙期明け(5〜6月):接点の記憶が新しいほど回答の質が上がります。年1回・毎年同時期に固定して推移を見ます
- 担当者を経由しない回収ルートに:Googleフォーム等のWebフォームで事務所の管理者に直接届く形にします。担当者に手渡しでは本音は書けません
- 記名は任意に:記名任意にすると、記名で厳しい意見をくれる顧問先(=改善を期待してくれている優良顧客)が見つかります
- 回答のお礼と「変えたこと」の報告:翌年の依頼文に「昨年のご意見でこう改善しました」を添えると回収率が上がり続けます
Excelで集計・推移管理する手順
ステップ1:回答データの取り込みと集計
設問別平均 =AVERAGEIFS(スコア列,設問,対象設問,年度,当年)
担当者別平均 =AVERAGEIFS(スコア列,担当者,対象者,年度,当年)
推奨度の要注意先 =COUNTIFS(推奨度,"<=6")
Webフォームの回答CSVを貼り付ければ自動集計される形にします。「設問別×年度推移」と「担当者別」の2軸クロスが見えると、事務所全体の弱点(例:③資料の有用性が毎年低い)と、特定担当者の課題が分離できます。
ステップ2:顧問先別のスコアカルテを作る
記名回答は顧問先マスタに紐づけ、「年度別スコア推移/前年比/自由記述の要旨」を1顧問先1行で管理します。
予兆フラグ =IF(OR(推奨度<=6,当年平均-前年平均<=-1),"要フォロー","")
「スコアの絶対値が低い先」だけでなく「前年から1点以上下がった先」を拾うのがポイントです。下落は解約予兆の最有力シグナルです。
ステップ3:フォロー動線を仕組みにする
要フォロー先には「所長または担当以外の幹部が30日以内に面談」をルール化し、面談結果と改善アクションを記録します(関連記事:No.194 面談記録の管理)。低評価の理由の多くは「報酬」ではなく「コミュニケーション頻度と説明」です。つまり解約防止のコストは、多くの場合、追加訪問1〜2回分で済みます。
実務の注意点・つまずきポイント
- 結果を担当者攻撃に使わない:スコアが人事評価に直結すると、担当者がアンケート配布に非協力的になります。目的は事務所のサービス改善と共有します
- 回収率3割でも始める価値あり:全数回収を待つ必要はありません。回答してくれた顧問先との関係強化だけでも十分な効果があります
- 自由記述は必ず全件、所長が読む:数値より自由記述に本音が出ます。要旨のカルテ転記と合わせて原文保存を
- 改善の約束は小さく確実に:「全部やります」ではなく、毎年1〜2個の改善を確実に実行して翌年報告するサイクルが信頼を積みます
- 解約率・顧問先数の推移とセットで見る:アンケートスコアと解約実績を事務所KPI(関連記事:No.142 事務所KPI管理)で並べると、施策の効果検証ができます
満足度アンケートテンプレートのご案内
本記事の設計(設問セット→CSV取込集計→顧問先別カルテ→予兆フラグ→フォロー記録)を組み込んだ「顧問先満足度アンケートExcel」を用意しています。依頼文のひな形・Webフォームの設問コピー用テキスト付きで、今月から実施できます。
まとめ
- 解約には1〜2年前から予兆がある。年1回のアンケートで拾う仕組みを作る
- 設問は5段階8問+自由記述2問・5分以内。推奨度設問を必ず入れる
- 担当者を経由しない回収ルートと記名任意が本音を引き出す
- 絶対値の低さより「前年から1点下落」が最有力の予兆シグナル
- 要フォロー先は30日以内に幹部面談。改善は小さく確実に実行して翌年報告する

コメント