返済条件の変更(リスケジュール)を金融機関に申し入れるとき、必ず求められるのが経営改善計画書です。文章部分のひな形は世の中に多くありますが、金融機関が実際に精査するのは数値計画の実現可能性と整合性。ここが弱いと「絵に描いた餅」と評価され、支援の継続が危うくなります。
この記事では、いわゆる実抜計画の要件を整理し、5〜10年の損益計画・返済計画をExcelで整合させる作り方と、バンクミーティング資料の構成例を解説します。認定支援機関として経営改善支援に取り組む事務所向けの内容です。
実抜計画・合実計画の要件
| 計画の種類 | 主な要件(目安) |
|---|---|
| 実抜計画(実現可能性の高い抜本的な経営再建計画) | おおむね3年以内の黒字化、計画終了時の債務超過解消、計画の実現に必要な関係者の同意 |
| 合実計画(合理的かつ実現可能性の高い経営改善計画) | おおむね5年以内(最長10年程度)での経営改善、計画期間終了後の債務償還年数がおおむね10年以内 など |
要するに数値計画で示すべきは、①いつ黒字化するか、②債務超過をいつ解消するか、③債務償還年数がいつ10年以内に収まるか——の3つの「着地」です。Excel側もこの3つを常時表示する設計にします。
Excelでの数値計画の作り方
ステップ1:現状分析(計画の出発点)を固める
直近2〜3期の実績PL・BSと、窮境要因(なぜ苦しくなったか)を数字で特定します。粗利率の低下なのか、固定費の肥大なのか、過大な設備投資なのか。ここが曖昧だと改善施策と数値が結びつきません。(関連記事:No.79 経営分析ダッシュボード)
ステップ2:改善施策を数値に翻訳する「アクション連動表」
施策一覧シート:施策名/担当/実施時期/損益インパクト(年額)/反映先の科目
損益計画への反映:=基準値+SUMIFS(施策!インパクト,施策!反映科目,当該科目,施策!実施年,"<="&計画年)
「役員報酬△300万円」「不採算店舗閉鎖で固定費△500万円」のように、施策1つ=数値1行で管理し、損益計画にSUMIFSで自動反映させます。こうすると「この売上増の根拠は?」という質問に、施策一覧の該当行で即答できます。
ステップ3:損益計画・返済計画・3つの着地を連動させる
黒字化判定:=IF(経常利益>0,"黒字","赤字")を計画年ごとに表示
債務超過解消:=IF(純資産>=0,"解消","債務超過"&TEXT(純資産,"#,##0")&"千円")
債務償還年数:=(有利子負債-現預金)/(税引後利益+減価償却費)
BS計画は簡易でよいので、利益の蓄積→純資産、返済→借入残高の推移だけは必ず作ります。返済計画はリスケ後の条件(元金据置・減額)で全借入を1枚に統合し、金融機関別の残高・保全状況も一覧化します(バンクミーティングでは機関間の公平性が必ず論点になります)。(関連記事:No.21 借入金返済予定表の作り方)
ステップ4:モニタリング様式まで含めて設計する
計画は作って終わりではなく、原則として定期的な進捗報告(モニタリング)がセットです。計画値の隣に実績列・達成率列を最初から用意しておけば、四半期ごとの報告資料が「実績を貼るだけ」で完成します。
数値例:3つの着地の見せ方
| 項目 | 1年目 | 2年目 | 3年目 | 5年目 |
|---|---|---|---|---|
| 経常利益 | △800万円 | 200万円 | 900万円(黒字化) | 1,500万円 |
| 純資産 | △2,000万円 | △1,800万円 | △1,000万円 | 200万円(解消) |
| 債務償還年数 | — | 25年 | 13年 | 9.2年(10年以内) |
バンクミーティング資料は、①このサマリー→②窮境要因の分析→③施策一覧と数値への反映→④損益・返済・資金繰りの明細→⑤モニタリング方法、の順に並べると金融機関の関心の流れに合います。
実務の注意点・つまずきポイント
- 売上増よりコスト削減を先に効かせる:計画初年度から売上増頼みの計画は評価されません。自助努力(役員報酬・固定費削減)を先行させ、売上施策は保守的に織り込むのが定石です。
- 資金繰り計画で「リスケ後も回る」ことを示す:損益が黒字化しても資金が持たなければ意味がありません。月次資金繰りは初年度必須です。(関連記事:No.16 資金繰り表の作り方)
- 税金の支払いを忘れない:黒字化後は納税が発生します。繰越欠損金の充当スケジュールまで織り込むと計画の精度が上がります。(関連記事:No.62 欠損金繰越管理)
- 支援制度の活用を検討する:経営改善計画策定支援事業(いわゆる405事業)など、専門家費用の補助制度があります。制度の要件・補助率は変わるため、着手前に最新の中小企業庁情報を確認してください。
- 「計画要件」の運用は変わり得る:実抜・合実の考え方や金融支援の実務運用は、金融行政の方針で変化します。この記事の目安も、案件着手時に最新の実務を確認したうえで使ってください。
よくある質問
Q. リスケ中に新規融資は受けられますか?
一般に困難ですが、計画を誠実に履行し実績を積むことが正常化への唯一の道です。だからこそモニタリングで「計画比100%前後」を示し続けることに価値があります。計画を保守的に作るべき実務上の理由もここにあります。
Q. 計画期間は何年にすべきですか?
債務超過の解消と債務償還年数10年以内の着地が見える年数が基準になります。3年で描けるなら5年計画で余裕を持たせ、10年でも描けない場合は、より抜本的な対応(事業再生手続等)の検討が必要というシグナルです。
経営改善計画テンプレートのご案内
施策一覧と損益計画のSUMIFS連動、簡易BS・返済計画・月次資金繰りの自動整合、3つの着地サマリー、モニタリング様式まで一体化した経営改善計画Excelテンプレートをご用意しています。認定支援機関業務の標準ツールとしてお使いいただけます。
まとめ
- 数値計画で示すべき着地は「黒字化」「債務超過解消」「債務償還年数10年以内」の3つ
- 改善施策は1施策=1行で数値化し、SUMIFSで損益計画へ自動反映させる
- 返済計画は全金融機関を1枚に統合し、公平性の議論に備える
- 実績列を最初から用意し、モニタリング報告を「貼るだけ」にする
- 計画要件・支援制度の運用は変わるため、案件着手時に最新の実務を確認する

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