経理の引継ぎ書テンプレート 無料・登録不要|一人経理の抜け漏れを防ぐWord版【記入例つき】

経理担当者の引継ぎは、ほかの職種と決定的に違う点があります。年に1回しか発生しない仕事が、引継ぎ期間中に一度も回ってこないことです。

日々の入力や請求書発行は1か月一緒に働けば覚えられます。しかし年末調整、決算、労働保険の年度更新、償却資産申告は、9月に引き継いだ人が初めて経験するのは半年後です。そのとき前任者はもう社内にいません。

この記事では、中小企業の経理の引継ぎで「何を、どの粒度で書き残せばいいのか」を、抜け漏れが起きにくい3つの切り口で整理します。記事の最後に、そのまま使えるWord形式の引継ぎ書テンプレート(記入例つき版+空欄版・全35ページ)を無料で配布しています。

この記事を書いた人:中小企業の経理実務と、税理士事務所向けの実務ツール制作をしています。会計ソフトでは埋まらない「現場の手作業」を減らすテンプレートを作っています。


目次

経理の引継ぎで抜け漏れが起きる3つの理由

引継ぎがうまくいかない原因は、担当者の能力ではなく構造的なものです。

理由1:年1回の業務は引継ぎ期間中に発生しない

決算、年末調整、法定調書、償却資産申告、労働保険の年度更新、算定基礎届。どれも年1回で、しかも失敗すると期限に間に合わない業務ばかりです。

引継ぎ期間が1か月でも2か月でも、この手の業務は「口頭で説明を聞いただけ」で終わります。だからこそ、手順そのものより「いつ・誰に聞けばいいか」を書き残すことが重要になります。

理由2:判断基準が前任者の頭の中にある

経理の仕事は、手を動かす部分より判断する部分に時間がかかります。

  • この飲食代は会議費か、接待交際費か
  • この修理は修繕費か、資本的支出か
  • この支払は何円から社長決裁が必要か
  • この取引先は振込手数料をどちらが負担するのか

これらはマニュアルに載っていません。会社ごとに違い、しかも前任者は「当たり前すぎて」書き忘れます。引継ぎ書の価値の8割はここにあります。

理由3:経理業務は3つの層が絡み合っている

経理の仕事は、次の3層が同時に動いています。

  1. 時期の層:いつやるか(毎日/毎月10日/毎年1月31日)
  2. 作業の層:どうやるか(どの画面で、誰の承認を得て)
  3. 仕訳の層:どう記録するか(何費で、消費税は課税か)

作業手順だけを書いた引継ぎ書は「いつやるか」が抜け、年間カレンダーだけの引継ぎ書は「どう仕訳するか」が抜けます。3層を別々に書き出すのが、抜け漏れを防ぐいちばん確実な方法です。


抜け漏れを防ぐ引継ぎ書の作り方=3つの切り口で書く

おすすめの構成はシンプルです。同じ業務を、あえて3回登場させます。

切り口答えられること書き方
① 年間スケジュール別「今日・今月・今期は何をする日か」日次/週次/月次/年間カレンダーの表
② 作業別「その作業をどの順番で、誰の承認を得てやるか」業務ごとのカード形式
③ 勘定科目別「この支払は何費か、消費税はどうなるか」科目一覧+自社ルール欄

重複を嫌って一本化すると、必ずどこかが薄くなります。重複は意図的に残してください。


【切り口①】年間スケジュール別に引き継ぐ項目

日次・週次でやること

まず「毎日やること」を全部書き出します。ここが曖昧だと、後任者は初日から手が止まります。

日次の代表例

  • 現金実査(金庫・レジの現金を数え、出納帳と照合)
  • 全口座の入出金確認、不明入出金の照会
  • 入金消込
  • 売上・仕入・経費の入力
  • 証憑の受領と保管(紙/電子で扱いが違う)
  • 郵便物・メールの仕分けと期限のあるものの登録

週次の代表例

  • 未入力の証憑をゼロにする日を決める
  • 売掛金の年齢表を確認し、期日超過を抽出
  • 翌週の支払予定と口座残高の突合
  • 資金繰り表の更新

月次のタイムライン

月次は「日付ごとに何が起きるか」で書くと、後任者がカレンダーに落とし込めます。

時期やること
月初1〜3営業日前月分の締め、現金・預金残高の確定
5日前後請求書の発行・送付
10日源泉所得税・住民税の納付、税理士へ月次資料の提出
15日前後仕入・外注の請求書の回収期限、経費精算の締切
20日前後支払一覧の作成と承認取得
25日前後振込の実行、給与の支給
月末口座振替の実行確認、締め処理
翌月初月次決算、試算表の作成、月次報告

期限が法律で決まっているもの(源泉所得税・住民税の納付など)は、自社の運用日と法定期限を分けて書くと事故が減ります。

年間カレンダー

ここが経理の引継ぎで最も重要なパートです。暦月ごとに、期限・作業・提出先をセットで書きます。

月主な業務(例)提出先
1月法定調書合計表、給与支払報告書、償却資産申告(いずれも1月31日期限)税務署・市区町村
3月決算準備、実地棚卸の日程調整、健康保険料率の改定確認社内
5月3月決算法人の法人税・消費税等の申告と納付、自動車税税務署ほか
6月住民税の新年度切替、労働保険の年度更新開始、夏季賞与社内・労働局
7月労働保険料の申告納付、算定基礎届(いずれも7月10日前後)労働局・年金事務所
10月標準報酬月額の改定反映、最低賃金の改定確認、年末調整の準備社内
11月中間申告・納付、年末調整書類の回収税務署
12月年末調整、冬季賞与、年末年始の支払日前倒し社内

期限は暦や自治体、会社の状況によって変わります(土日祝なら翌営業日、固定資産税の納期は自治体で異なる、中間申告の要否は前期の納税額で決まる、など)。実際の期限は毎年、顧問税理士や自治体の通知で確認してください。

決算・申告のスケジュール

決算は「決算日から逆算して2か月前から始まっている」と考えると引継ぎしやすくなります。

  • 決算2か月前:棚卸日程、税理士との打合せ日、株主総会日を先に押さえる
  • 決算1か月前:不良債権・不良在庫・除却する固定資産の洗い出し
  • 決算日:実地棚卸、現金実査、銀行へ残高証明の依頼
  • 決算日+2〜3週:決算整理仕訳
  • 決算日+3〜4週:税理士へ資料一式を提出
  • 決算日+2か月:株主総会、申告・納付

【切り口②】作業別に引き継ぐ項目

作業ごとに、次の8項目をセットで書きます。この形を守ると、書く側も迷いません。

  1. 目的・ゴール
  2. 頻度・期限
  3. 担当者/承認者
  4. 使用システム・帳票
  5. 作業手順
  6. 受け取る資料/作る資料
  7. 関係先・連絡先
  8. 注意点・つまずきやすい所/自社の独自ルール

いちばん価値があるのは8番です。手順は画面を見ればなんとかなりますが、注意点は事故が起きてからしか分かりません。

引き継ぐべき経理業務の一覧(25項目)

チェックリストとして使ってください。「該当なし」も立派な引継ぎ情報です。

お金の出入り

  1. 現金・小口現金の管理
  2. 預金管理・入出金の確認
  3. 売上の計上・請求書の発行
  4. 入金消込・売掛金(債権)管理
  5. 仕入・外注費の計上と買掛金管理
  6. 支払処理(振込・口座振替・手形)
  7. 経費精算・立替払い
  8. 法人カード・ETC・交通系ICの管理

人に関するもの 9. 給与計算 10. 社会保険・労働保険の手続き 11. 年末調整 12. 源泉所得税の納付 13. 住民税(特別徴収)

税務・資産 14. 消費税の管理(区分経理・インボイス) 15. 固定資産の管理と減価償却 16. 償却資産申告 17. 棚卸・在庫管理 18. 借入金・リースの管理

まとめる仕事 19. 月次決算・試算表の作成 20. 年次決算・税務申告の対応 21. 資金繰り・予算管理

守りの仕事 22. 証憑管理・電子帳簿保存法への対応 23. 契約書・印紙・押印の管理 24. 各種届出・変更手続き 25. 税務調査・監査への対応


【切り口③】勘定科目別に引き継ぐ項目

ここを書いている引継ぎ書はほとんどありません。しかし後任者が最初につまずくのは、間違いなくここです。

書くべきは「一般論」ではなく「自社の使い分け」

会計の教科書に載っている定義は、調べれば出てきます。引継ぎ書に書くべきなのは、この会社ではどう使い分けているかです。

よくある悩み引継ぎ書に書くべきこと(例)
会議費と接待交際費1人あたり◯円以下の飲食は会議費、それ以外は交際費
消耗品費と事務用品費文具・コピー用紙は事務用品費、それ以外は消耗品費
広告宣伝費と販売促進費不特定多数向けは広告宣伝費、既存客向けは販売促進費
修繕費と資本的支出◯円未満かつ原状回復なら修繕費。迷ったら税理士に確認
外注費と給与契約書・指揮命令関係・請求形態で判断。判断した経緯も残す

あわせて「なぜそう決めたか」も書き残してください。理由が分かれば、後任者が勝手に変えて前年比較が壊れる事故を防げます。

消費税の区分は間違えやすい科目だけ書けば十分

全科目を網羅しようとすると終わりません。事故が多いのはこのあたりです。

科目区分ひとこと
給与・賞与不課税外注費(課税)との区分に注意
社会保険料・保険料非課税法定福利費も非課税
印紙・切手非課税期末の未使用分は貯蔵品へ
支払利息非課税元金返済と分けて処理
土地の売買・賃貸非課税建物は課税。一括購入時は按分
駐車場代課税土地の賃貸と混同しやすい
通勤手当課税所得税では非課税枠がある(扱いが逆になる代表例)
諸会費対価性で判定通常会費は不課税が一般的
飲食料品・定期購読新聞軽減8%会議用の弁当なども対象

意外と忘れられる「最重要の5項目」

引継ぎ書のフォーマットには載っていないのに、抜けると確実に困るものです。

1. 承認・決裁の金額基準 「いくらから誰の承認が必要か」を数字で書きます。前任者にとっては当たり前すぎて、最も書き忘れられる項目です。

2. IDとパスワードの扱い 引継ぎ書に書いてよいのは「IDの種類」「パスワードの保管場所」「管理者は誰か」まで。パスワードそのものは書きません。 引継ぎのタイミングで全アカウントのパスワードを変更し、退職者のIDを停止・削除するところまでを引継ぎ作業に含めてください。

3. 関係先ごとの「連絡のコツ」 「この会社は請求書を指定Webにアップしないと支払が翌月回しになる」「税理士事務所は決算期は事前予約が必要」といった情報は、電話1本の手間を何度も省きます。

4. 過去のトラブル事例と再発防止策 二重振込、期ズレ、計上漏れ。恥ずかしい失敗ほど価値があります。「何が起きて、原因は何で、いま何をして防いでいるか」を3点セットで残します。

5. 書類の保管場所と保存年限 紙はどのキャビネットか、電子はどのフォルダか。電子で受け取った請求書は電子のまま保存する必要があるなど、保存方法にもルールがあります。


引継ぎの進め方:7週間モデルと習熟度3段階

期間があるなら、次の流れが失敗しにくいです。

時期やること状態
1〜2週目全体像の説明、関係先の顔合わせ後任者は見学
3〜4週目業務カードに沿って一緒に作業前任者が主
5〜6週目後任者が主担当、前任者はチェックのみ後任者が主
7週目〜後任者が単独実施合格ライン

進捗は「①説明を受けた ②一緒にやった ③一人でやった」の3段階で管理します。全項目が③になった状態が引継ぎ完了です。年1回の業務は③まで到達できないので、代わりに**「資料の場所と相談先が分かる」ことを確認**してください。

時間がないとき(急な退職)の優先順位

引継ぎ期間が数日しかない場合は、割り切って次の順番で書きます。

1日目:止まると会社が困ることだけ 支払と給与のスケジュール、口座とネットバンキングの操作、承認ルート、期限が近い提出物。

2日目:お金の入り口と出口 請求書の発行方法、入金消込のやり方、取引先ごとの締日・支払日の一覧。

3日目:相談先と保管場所 顧問税理士・社労士・銀行の連絡先と担当者、書類とデータの保管場所、システムのIDと権限の一覧。

手順書が間に合わなくても、「誰に聞けば分かるか」と「どこを見れば分かるか」さえ残っていれば、会社は止まりません。


無料テンプレート:経理業務 引継ぎ書(Word・全35ページ)

この記事の内容をそのまま書き込める形にしたWordテンプレートを配布しています。

  • 記入例つき版:サンプル記入済み。何を書けばいいか迷いません
  • 空欄版:そのまま印刷・配布できる白紙版

収録内容

  • 基本情報(会社の前提条件・担当分担・関係先・システム・保管場所・承認基準)
  • 第1部 年間スケジュール別(日次/週次/月次タイムライン/暦月別カレンダー/決算/スポット業務)
  • 第2部 作業別(業務カード25項目)
  • 第3部 勘定科目別(資産〜特別損益、自社ルールの記入欄つき)
  • 第4部 引継ぎチェックリスト(習熟度3段階)
  • 第5部 申し送り事項・トラブル事例・引継ぎ完了確認書

よくある質問

Q. 引継ぎ書とマニュアルは何が違いますか?

マニュアルは「作業のやり方」を書いたもの、引継ぎ書は「担当を引き渡すために必要な情報すべて」です。引継ぎ書には、作業手順に加えて、担当範囲・関係先・判断基準・申し送り事項が入ります。マニュアルがあるなら、引継ぎ書からは参照先を書くだけで構いません。

Q. 引継ぎ期間はどれくらい必要ですか?

日次・月次業務だけなら1〜2か月で単独実施まで届きます。ただし年次業務は体験できないため、可能であれば決算や年末調整の時期まで前任者に相談できる体制を残すのが理想です。

Q. 一人経理で、引継ぎ相手がまだ決まっていません。

それでも書く価値があります。むしろ担当者が一人しかいない会社ほど、引継ぎ書は「担当者が休んだとき・辞めたときの保険」として機能します。まずは年間カレンダーと、支払・給与のスケジュールだけでも書き出してください。

Q. パスワードも引継ぎ書に書いていいですか?

書かないでください。IDの種類・パスワードの保管場所・管理者名までにとどめ、引継ぎ時にパスワードを変更する運用にします。書類が流出したときの被害が桁違いになります。

Q. Excelではなく、なぜWordなのですか?

引継ぎ書は「文章で判断基準を書き残す」比重が大きいためです。集計や計算が必要な部分(年間カレンダー、資金繰り、固定資産台帳など)はExcelのほうが向いています。


まとめ

  • 経理の引継ぎは、年1回の業務が引継ぎ期間中に発生しないため、構造的に抜けやすい
  • 「年間スケジュール別」「作業別」「勘定科目別」の3つの切り口で書けば、抜け漏れを防げる
  • 引継ぎ書の価値の大半は、手順ではなく判断基準と申し送り事項にある
  • 完璧を目指さず、まず全項目を一巡させ、後任者と一緒に2周目で埋めるのが最短

引継ぎは、辞める人のための作業ではなく、残る会社を止めないための投資です。テンプレートを使って、まず1時間だけ手を動かしてみてください。

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