予算づくりでも資金繰り予測でも、出発点は「来月・来期の売上はいくらか」という売上予測です。ところが実務では「なんとなく前年並み」「営業の勘」で置かれがちで、予測が外れるたびに計画全体が崩れます。実は、過去データがあればExcelの標準機能だけでかなり実用的な予測が作れます。
この記事では、移動平均・季節指数・成長率(トレンド)という3つの基本手法の使い分けと実装、そして予測精度の検証方法を解説します。
基礎知識:3つの手法の使い分け
| 手法 | 向いているケース | 弱点 |
|---|---|---|
| 移動平均 | 変動をならして基調を見たい。月ごとのブレが大きい事業 | トレンドの転換に遅れる |
| 季節指数 | 月による繁閑がはっきりある事業(小売・観光・申告業務等) | 季節性が変化すると狂う |
| 成長率・回帰(トレンド) | 成長中・縮小中で方向性がある事業 | 季節変動を拾えない |
実務の本命は「トレンド×季節指数」の組み合わせです。年間の水準はトレンドで、月への配分は季節指数で、と役割分担させると、単独の手法より安定します。
Excelでの実装手順
ステップ1:データを整える(36か月分が理想)
月別売上を時系列に並べます。季節指数を安定させるには最低24か月、できれば36か月ほしいところです。一時要因(大口スポット・コロナ等の異常月)はメモ列に記録し、必要に応じて補正した系列を別列に作ります。
ステップ2:移動平均で基調を見る
12か月移動平均 =AVERAGE(B2:B13) →下へコピー
12か月移動平均は季節変動が打ち消されるため、事業の基調(上向きか下向きか)が一目で分かる最強の基本線です。実績と移動平均を同じグラフに重ねるだけで、経営会議の議論の質が変わります。
ステップ3:季節指数を計算する
季節指数(1月) =過去3年の1月売上合計/過去3年の総売上×12
月次予測 =年間予測売上/12×季節指数
指数が1.2なら平均月の1.2倍売れる月、0.8なら閑散月です。この指数は予算の月次展開(関連記事:No.177 年度予算の作り方)にもそのまま使えます。
ステップ4:トレンド予測(FORECAST関数)
=FORECAST.LINEAR(予測したい月,既知の売上範囲,既知の月範囲)
または =TREND(既知の売上範囲,既知の月範囲,予測したい月範囲)
直線回帰で将来値を返します。Excel 2016以降ならFORECAST.ETS関数が季節性まで自動で織り込んだ予測を返すため、まずETSで作り、手作りの「トレンド×季節指数」と見比べるのが効率的です。
ステップ5:精度検証(バックテスト)
直近6か月を「答え」として隠し、それ以前のデータだけで予測→実績と比較します。
誤差率 =ABS(予測-実績)/実績
平均誤差率(MAPE) =AVERAGE(誤差率範囲)
手法別のMAPEを比べて、自社データに最も合う手法を選ぶ――この検証プロセスこそが「勘の予測」との決定的な違いです。誤差率10%以内なら月次計画用として十分実用的です。
実務の注意点・つまずきポイント
- 予測は「当てるもの」ではなく「ズレを早く検知する基準線」:予測と実績の乖離が続いたら、事業環境が変わったシグナルとして原因を調べます
- 大口・スポット案件は分けて予測:継続売上とスポット売上を混ぜると精度が落ちます。ベース売上+案件パイプラインの2階建てにします
- 新規事業・新店舗には過去データがない:類似店・市場データからの類推になるため、この手法の対象外です(創業計画は関連記事:No.157 創業融資の数値計画)
- 値上げ・値下げの影響は数量と単価を分けて補正:金額だけの系列では価格改定の影響が混ざります。可能なら数量×単価でデータを持ちます
- 予測の更新は毎月:実績が1か月増えるたびに指数・トレンドを更新するローリング運用にすると、資金繰り予測(関連記事:No.16 資金繰り表の作り方)の精度も上がります
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本記事の設計(データ整形→移動平均→季節指数→トレンド→バックテストによる手法選択)を組み込んだ「売上予測Excel」を用意しています。月別実績を貼り付けるだけで3手法の予測とMAPE比較が自動表示され、最適手法の月次予測が予算・資金繰りシートへ連携できます。
まとめ
- 基本手法は移動平均(基調把握)・季節指数(月配分)・トレンド(方向性)の3つ
- 実務の本命は「トレンド×季節指数」の組み合わせ。FORECAST.ETSとの比較も有効
- 直近6か月のバックテストで手法別の誤差率(MAPE)を検証して選ぶ
- 継続売上とスポット案件は分けて2階建てで予測する
- 予測は毎月ローリング更新し、乖離を早期検知の基準線として使う

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