棚卸で手が止まるのは、数えたあとです。数量は数えた。でも1個いくらで評価するのか、集計した金額を決算書のどの欄に書くのか、廃棄した分はどう扱うのか。このあたりで毎年同じところを調べ直している方は多いはずです。
この記事では、棚卸表をExcelで作る手順を「列の設計 → 単価の決め方 → 集計と検算 → 決算書への転記」の順に解説します。あわせて、無料でダウンロードできる期末棚卸表のExcelテンプレートを配布しています。実地数量と単価を入れるだけで、期末棚卸高・区分別集計・売上原価まで自動で出ます。
クリックすると Excel ファイル(.xlsx)がそのままダウンロードされます。メールアドレスの登録は不要です。
棚卸表とは|帳簿棚卸と実地棚卸の違い
棚卸表は、決算日時点で手元に残っている在庫の数量と金額を、品目ごとに一覧にした書類です。決算に関して作成した書類として保存義務があり、税務調査でも必ず見られます。
在庫の把握には2つの方法があります。帳簿棚卸は入出庫の記録から理論上の在庫を計算する方法、実地棚卸は実際に数える方法です。決算で使うのは実地棚卸の数量が原則で、帳簿の理論在庫に数量を合わせるのではなく、実際に数えた数量を正として期末棚卸高を計算し直します。差異が出たら、原因を確かめたうえで帳簿のほうを直します。
ただし例外もあります。商品出入帳などで日々の在庫を明らかにし、毎年一定の時期に実地棚卸をしてその正否を確かめている場合は、年末の実地棚卸を省略して帳簿から計算することができます。また多忙で決算日ちょうどに数えられない場合は、前後した日に数えて、決算日現在への調整計算とその方法を記録しておけば差し支えありません(所得税基本通達47-25)。
棚卸表に必要な列と、その理由
ネット上の無料テンプレートは項目が並んだだけの空フォームが大半ですが、決算まで持っていくには次の列が要ります。
| 列 | 入れるもの | なぜ必要か |
|---|---|---|
| 区分 | 商品/製品/半製品/原材料/仕掛品/貯蔵品 | 決算書と貸借対照表で書く欄が分かれる。評価方法の選定単位でもある |
| 品名・規格 | 種類・品質・型の別 | 同じ品名でも仕入時期・ロット・型が違えば単価が違う。まとめると単価が出せない |
| 保管場所 | 自社倉庫/外注先/委託先など | 預け在庫の計上漏れを防ぐ。置き場所は所有権に関係しない |
| 単位 | 個・本・kg・m など | 数量の取り違えを防ぐ。小数の数量もありうる |
| 実地数量 | 実際に数えた数量 | これが正。理論在庫ではない |
| 単価 | 評価方法で決めた1個あたりの取得価額 | 付随費用を含めた金額にする(後述) |
| 金額 | 実地数量×単価 | 期末棚卸高の構成要素 |
| 摘要 | 評価損・滞留・非課税など | 後で見返したときに根拠がたどれる |
行を分ける基準は「種類・品質・型の別」です。同じ商品名でも、仕入時期で単価が違うもの、規格やロットが違うものは別の行にします。ここをまとめてしまうと、あとで単価を決められなくなります。
単価をいくらにするか|評価方法で金額はここまで変わる
棚卸で最初につまずくのが単価です。評価方法は税務署への届出で選びますが、届出をしていない場合の法定評価方法は「最終仕入原価法による原価法」です(個人:所得税法施行令102条1項/法人:法人税法施行令31条1項)。中小企業の実務ではこれが圧倒的に多くなります。
同じ在庫でも、方法によって金額が変わる
次の在庫で比べてみます。期首に100個@1,000円、当期の仕入が3回、決算日の実地数量は210個とします。
| 取得 | 数量 | 単価 | 取得価額 |
|---|---|---|---|
| 期首在庫 | 100個 | 1,000円 | 100,000円 |
| 4月仕入 | 200個 | 1,050円 | 210,000円 |
| 9月仕入 | 150個 | 1,100円 | 165,000円 |
| 2月仕入 | 180個 | 1,150円 | 207,000円 |
| 評価方法 | 単価の決め方 | 期末棚卸高(210個) |
|---|---|---|
| 最終仕入原価法 | 決算日に最も近い時に取得したものの単価=1,150円 | 241,500円 |
| 総平均法 | (期首+当期取得の取得価額総額)÷総数量=682,000円÷630個=1,082.54円 | 227,333円 |
| 先入先出法 | 新しい取得から順に充当。180個@1,150円+30個@1,100円 | 240,000円 |
同じ在庫でも1万4千円ほど差が出ます。期末棚卸高が変われば売上原価が同額だけ逆に動き、そのまま利益に響きます。どの方法を採っているかを必ず確認してから単価を入れてください。
低価法は誰でも使えるわけではない
原価法で出した金額と期末時価のうち低いほうを採る低価法について、個人事業主は青色申告者に限られます(所得税法施行令99条1項)。白色申告は原価法のみです。法人にはこの制限はありません(法人税法施行令28条1項2号)。個人と法人で条文の書きぶりが違うので、まとめて覚えないほうが安全です。
届出と変更は手続きが別
- 届出:新たに事業を開始した年分等の確定申告期限まで(個人:所令100条2項/法人:設立第1期等の確定申告書の提出期限まで・法令29条2項)
- 変更:届出ではなく事前の承認申請。個人は採用しようとする年の3月15日まで(所令101条2項)、法人は新事業年度開始の日の前日まで(法令30条2項)
「翌期から総平均法に変えたい」という相談は、期末を過ぎてからでは間に合いません。ここは毎年の決算打合せで確認しておく項目です。
単価に何を含めるか|付随費用の扱い
取得価額は購入代価だけではありません。引取運賃・荷役費・運送保険料・購入手数料・関税など、購入のために要した費用を含めます(所得税法施行令103条/法人税法施行令32条)。「最終仕入原価法だから最後の仕入単価をそのまま入れる」とすると、送料や関税が漏れて単価が小さく出ます。
一方、次のものは取得価額に入れないことができます。
- 買入事務費・検収や選別の費用、販売所から販売所への移管費、特別の時期に販売するための長期保管費:これらの合計が購入代価のおおむね3%以内であれば算入しないことができます(法人税基本通達5-1-1。個人は所得税基本通達47-15が同趣旨)。引取運賃・購入手数料・関税はこの3%の対象ではありません。法令上そのまま算入します
- 不動産取得税・固定資産税・登録免許税・借入金の利子など(法基通5-1-1の2)
自分で製造したものは、原材料費・労務費・経費を合計して数量で割ります。
Excelでの作り方|数式と検算
ステップ1:金額を自動計算する
手で入れるのは実地数量と単価だけにします。空欄で0やエラーを出さないよう、必ずガードを入れます。
金額 =IF(OR(実地数量="",単価=""),"",ROUND(実地数量*単価,0))
期末棚卸高 =SUM(金額列)
ステップ2:区分別に集計して検算する
区分ごとにSUMIFで集計し、その合計が明細の合計と一致するかを見ます。一見あたりまえの検算に思えますが、これは「区分を選び忘れた行」を確実に見つけます。区分が空欄の行はSUMIFに拾われないので、差額としてあらわれるからです。
区分別 =SUMIF(区分列,"商品",金額列)
検算 =IF(ROUND(明細合計-区分別合計,0)=0,"検算OK","要確認 差額 "&TEXT(明細合計-区分別合計,"#,##0")&" 円")
ステップ3:入力チェック列を印刷範囲の外に置く
品名・区分・数量・単価の入力漏れ、マイナスの数量などを行ごとに知らせる列を作ります。この列を印刷範囲から外しておくのがポイントです。画面では警告が出て、印刷すると余計な列のないきれいな様式になります。
=IF(AND(品名="",区分="",数量="",単価=""),"",
IF(品名="","品名が未入力です",
IF(区分="","区分が未選択です",
IF(数量="","実地数量が未入力です",
IF(単価="","単価が未入力です","")))))
ステップ4:売上原価まで出す
売上原価 = 期首棚卸高 + 当期仕入高(製造原価) − 期末棚卸高
前期の期末棚卸高と今期の期首棚卸高は必ず一致させてください。ここがズレたまま提出されている例は非常に多く、税務調査でも指摘されやすい箇所です。
決算書のどの欄に書くか
| 申告の種類 | 書く欄 |
|---|---|
| 個人・青色申告決算書(一般用)1ページ | ②期首商品(製品)棚卸高/③仕入金額(製品製造原価)/⑤期末商品(製品)棚卸高 |
| 同・原価計算をする場合のみ | 4ページ「製造原価の計算」(原材料・仕掛品) |
| 個人・収支内訳書(一般用) | ⑤期首/⑥仕入金額/⑧期末 |
| 個人・貸借対照表 | 「棚卸資産」欄(65万円控除には記入が必要) |
| 法人 | 貸借対照表の商品及び製品/仕掛品/原材料及び貯蔵品、損益計算書の期首・期末商品棚卸高、および勘定科目内訳明細書「棚卸資産の内訳書」 |
欄番号は令和7年分の様式によります。様式は年分によって変わることがあるので、提出前に最新の様式でご確認ください。
原価計算をしていない場合、仕入・外注費は③(収支内訳書は⑥)にまとめます。経費欄に入れてしまうと、在庫があるのに全額その年の経費になり、期末棚卸高と対応しなくなります。
法人はこの先に「棚卸資産の内訳書」がある
棚卸表の解説記事はたいてい期末棚卸高を出すところで終わりますが、法人の場合はもう一段あります。法人税の確定申告書に添付する勘定科目内訳明細書のうち、「棚卸資産(商品又は製品、半製品、仕掛品、原材料、貯蔵品)の内訳書」です。
様式の欄は科目/品目/数量/単価/期末現在高/摘要の6つと「計」行だけで、単位を書く欄はありません。棚卸表に単位の列を持っていても、内訳書には載せられないということです。また、記載口数が100口を超える場合は、期末現在高の多額なものから100口のみの記載でも差し支えないという注記があります(金額の下限による省略の規定はありません)。
つまり棚卸表の段階で「科目・品目・数量・単価・金額」を内訳書と同じ粒度で持っておくと、決算の最後がそのまま転記で済みます。逆に品名と数量だけの表を作っていると、申告のときにもう一度作り直すことになります。内訳書の欄の意味と、棚卸表から内訳書をつくる手順は棚卸管理台帳|棚卸資産の内訳書がそのまま出るExcelで詳しく書いています。勘定科目内訳明細書の全体像は勘定科目内訳明細書の作成をExcelで効率化する方法をご覧ください。
実務の注意点・つまずきポイント
- 置き場所は関係ありません。倉庫会社や委託先に預けたままで、まだ売れていない在庫は自社の棚卸資産です。逆に買取契約で相手に引き渡し済みのものは含めません。まだ手元に届いていない未着品でも、所有権が移っているものは含めます。預かっているだけの他人の物は除きます
- 貯蔵品を忘れない。未使用の切手・収入印紙・梱包材・包装資材は「消耗品で貯蔵中のもの」として棚卸の対象です(所得税法施行令3条6号)。ただし包装材料・事務用消耗品など、毎年おおむね一定数量を取得し経常的に消費しているものは、取得時に必要経費とする処理を継続していればその処理が認められます(所得税基本通達37-30の3)。通常の年に比べて特に増えていない消耗品は棚卸を省略しても差し支えありません。切手・収入印紙はこれらの例示に含まれていないので、期末残高が多額なら棚卸してください
- 廃棄した分に「棚卸減耗損」を別立てしない。廃棄・紛失した分は期末棚卸高に含めないことで、売上原価の式を通じて自動的に経費になります。期末棚卸から除いたうえでさらに棚卸減耗損を計上すると二重計上です。青色申告決算書(一般用)に棚卸減耗損の印字欄はありません(空欄の科目欄に自分で書くことは可能)。廃棄の事実は日付・品名・数量・単価・理由を記録し、写真や処分証明書とあわせて保存します
- 評価損の要件は厳格です。災害による著しい損傷、著しい陳腐化、これらに準ずる特別の事実(破損・型崩れ・棚ざらし・品質変化など)がある場合に、他と区別して決算日時点の処分可能価額で評価できます(個人:所令104条・所基通47-22〜/法人:法令68条1項1号・法基通9-1-4〜)。単なる値下がり(物価変動・過剰生産・建値の変更)は該当しません。「売れないから評価損」は通りません
- 税込・税抜は決算書の経理方式とそろえる。税込経理の場合と免税事業者の場合は、消費税等相当額を含めた金額で棚卸しします。免税から課税へ切り替わる期は、棚卸資産に係る消費税額の調整も必要です(免税⇔課税切替時の棚卸資産の消費税調整をExcelで計算する)
- 副産物・作業くず・仕損じ品で著しく少額なものは、1円以上の備忘価額で評価できます
- 保存期間。棚卸表は決算に関して作成した書類です。個人事業主は青色申告で原則7年(請求書・見積書・納品書などは5年)、白色申告でも棚卸表は5年。法人は確定申告書の提出期限の翌日から7年(青色欠損金が生じた事業年度などは10年)。実地棚卸のときのメモなどの原始記録も一緒に残してください
よくある質問
Q. 棚卸表に決まった様式はありますか?
棚卸表そのものに法定の様式はありません。ただし、法人が申告書に添付する「棚卸資産の内訳書」には国税庁の様式があります。棚卸表を内訳書と同じ列で作っておくと、最後の転記が楽になります。
Q. 決算日以外の日に数えてもいいですか?
差し支えありません。ただし、数えた日と決算日の間の仕入・売上を加減算して決算日現在の数量に直し、その計算方法を記録として残しておく必要があります。
Q. 単価は税抜と税込のどちらで書きますか?
決算書の経理方式に合わせます。税抜経理なら税抜、税込経理なら税込です。免税事業者は消費税等相当額を含めた金額になります。棚卸表のどこかに「本表の金額は税抜/税込」と明記しておくと、翌期以降の取り違えを防げます。
Q. 評価方法を届け出ていない場合はどうなりますか?
最終仕入原価法による原価法で評価します(個人:所令102条1項/法人:法令31条1項)。決算日に最も近い時に取得したものの1単位あたり取得価額を単価として使います。
Q. 理論在庫との差異はどこまで追うべきですか?
金額基準(例:1品目5万円以上)と率基準(例:±5%以上)を決めて、それを超えた品目だけ再カウント・原因調査するのが実務的です。差異の原因が自家消費や贈与なら、収入計上への振替が必要になる場合があります。放置すると原価の膨張として否認されるリスクがあります。
Q. 数量の数え漏れは、どのくらい利益に響きますか?
1対1で直撃します。期末棚卸高を100万円少なく計上すれば売上原価が100万円増え、利益が100万円減ります。逆に二重カウントすれば利益が過大になり、払わなくてよい税金を払うことになります。入力チェックと検算を先に作っておくのは、この両方への保険です。
無料テンプレート|期末棚卸表(Excel)
この記事の内容をそのまま形にした期末棚卸表のExcelテンプレートを無料で配布しています。3シート(棚卸表/記入例/使い方)、明細50行、マクロなし。Excel 2016以降のほか、LibreOffice・Googleスプレッドシートでも動きます。
- 区分・品名・保管場所・単位・実地数量・単価の6つを入れると、金額と期末棚卸高が自動
- 商品/製品/半製品/原材料/仕掛品/貯蔵品の区分別集計と検算(区分の入れ忘れを自動で発見)
- 期首棚卸高と当期仕入高を入れると売上原価が出る
- 青色申告決算書・収支内訳書・貸借対照表のどの欄に転記するかを表の中に表示
- 入力チェック列つき。この列は印刷範囲に入れていないので、印刷するときれいな様式になります
毎期つづけて管理する/法人で内訳書まで作るなら
無料版は「当期末の1回分」をつくる明細書です。次のどれかに当てはまる場合は、棚卸管理台帳(法人向け)のほうが手数が減ります。
- 勘定科目内訳明細書の「棚卸資産の内訳書」を毎期手打ちしている(金額の多い順に自動で並び替わり、100口ルールの切替もできます)
- 単価を毎回電卓で出している(仕入を並べるだけで最終仕入原価法・総平均法・先入先出法の単価が出ます)
- 前期の期末と今期の期首がズレる(5期分がつながります)
- 製造業で、売上原価に入れる範囲に毎回迷う(商品・製品系/原材料・仕掛品/貯蔵品を分けて出します)
| 無料版(この記事の配布物) | 棚卸管理台帳 | |
|---|---|---|
| 管理する単位 | 当期末の1回分 | 5期分・継続管理 |
| 品目数 | 50行 | 200件 |
| 単価 | 手入力 | 取得記録から自動(3方式を切替) |
| 期首 | 手入力 | 前期の期末から自動でつながる |
| 棚卸資産の内訳書 | なし | 様式どおりに出力・100口ルール対応 |
| 決算書への転記 | 転記先の案内 | BS・PLの金額を自動表示 |
| 価格 | 無料 | 4,800円(買い切り) |
まとめ
- 行は「種類・品質・型の別」で分ける。まとめると単価が決められなくなる
- 単価は評価方法で決まる。届出がなければ最終仕入原価法。同じ在庫でも方法によって金額は数%変わる
- 単価には引取運賃・購入手数料・関税などの付随費用を含める。3%基準の対象はこれらではなく、買入事務費・移管費・長期保管費
- 区分別集計と明細合計の一致を検算に使うと、区分の選び忘れが自動で見つかる
- 廃棄分は期末棚卸高から除くことで売上原価に入る。棚卸減耗損を別立てすると二重計上
- 前期の期末棚卸高=今期の期首棚卸高を必ず確認する
- 法人は棚卸表の先に「棚卸資産の内訳書」がある。棚卸表を内訳書と同じ粒度で作っておくと最後が楽になる
次に読む:棚卸管理台帳|勘定科目内訳明細書「棚卸資産の内訳書」がそのまま出るExcel/勘定科目内訳明細書の作成をExcelで効率化する方法
