簡易課税と原則課税はどっちが得?2割特例終了後の選び方を計算例で解説
消費税の納税額は、どの課税方式を選ぶかで数十万円変わります。しかも2026年(令和8年)は、多くの事業者にとって2割特例が使える最後の課税期間です。「これまで2割特例で済んでいた顧問先が、来期から何を選ぶべきか」を、いま一斉に洗い替える必要があります。
この記事では、原則課税・簡易課税・2割特例(および令和8年度改正で創設された3割特例)の計算方法と、どれが有利になるかの判断基準を、業種別の計算例つきで整理します。判定を出したあとに引っかかりやすい届出期限と2年縛りについても、実務の順番どおりに書きました。
結論:判定は「実際の仕入率」と「みなし仕入率」の比較で決まる
先に結論から書きます。原則課税と簡易課税のどちらが得かは、次の一行で決まります。
実際の課税仕入率(課税仕入 ÷ 課税売上)が、みなし仕入率より低ければ簡易課税が有利。高ければ原則課税が有利。
理由は単純です。簡易課税は「売上税額 ×(1 − みなし仕入率)」で納税額を出すので、仕入税額をみなし仕入率のぶんだけ持っているものとみなしてくれます。実際の仕入がそれより少なければ、みなしてもらったほうが得になります。
そのうえで、判定は次の順番で考えます。
- 2割特例(または3割特例)が使えるか — 使えるなら、たいていこれが最も安い
- 簡易課税が使えるか — 基準期間の課税売上高が5,000万円以下か
- 使える方式のなかで、実際に金額を並べて比べる
「使えるか」の判定を先にやらないと、比較そのものが意味を持ちません。順番を逆にしないでください。
2026年9月30日で2割特例が終わる|誰がいつ影響を受けるか
2割特例(正式には「小規模事業者に係る税額控除に関する経過措置」)は、納税額を売上税額の20%にできる制度です。インボイス制度をきっかけに免税事業者から課税事業者になった人の負担を和らげるための時限措置でした。
適用できるのは、令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間です。この「日の属する課税期間」という書き方が実務では効いてきます。
個人事業者は令和8年分(2026年分)が最後
個人事業者の課税期間は暦年(1月1日〜12月31日)です。2026年9月30日は「令和8年分」の課税期間のなかにあります。したがって、令和8年分(2027年3月に申告する分)が2割特例を使える最後の年になります。令和9年分(2027年分)では使えません。
法人は2026年9月30日を含む事業年度が最後
法人の場合は事業年度で判定します。たとえば3月決算の法人なら、2026年4月1日〜2027年3月31日の事業年度に2026年9月30日が含まれるため、この事業年度までが対象です。12月決算なら2026年12月期まで、9月決算なら2026年9月期までです。
決算月によって「あと1期使える」「今期で終わり」が分かれるので、顧問先リストを決算月で並べ替えて確認するのが確実です。
令和9年分からは「3割特例」(個人事業者のみ)
令和8年度税制改正で、2割特例の後継として3割特例が創設されました。国税庁の資料では次のように整理されています。
- 対象:個人事業者である適格請求書発行事業者
- 対象期間:令和9年分および令和10年分の消費税申告
- 内容:課税標準額に対する消費税額に7割を乗じた額を控除し、納付税額を売上税額の30%とすることができる
- 手続:確定申告書にその旨を付記する(事前の届出は不要)
- 制限:免税事業者が適格請求書発行事業者となったこと、または課税事業者選択届出書を提出したことにより免税点制度の適用を受けられなくなる課税期間に限る
ここで最も重要なのは、法人は3割特例の対象外という点です。2割特例を使ってきた法人は、今期が終わったら原則課税か簡易課税のどちらかを選ぶしかありません。「特例が延長されたらしい」という話だけが伝わって、法人の顧問先が判断を先送りにしてしまうケースが起きやすいところです。
なお、免税事業者等からの課税仕入れについて仕入税額の一定割合を控除できる経過措置も見直され、控除割合は2026年10月1日から80%が70%に引き下げられます。以後、2028年10月1日から50%、2030年10月1日から30%と段階的に下がり、2031年10月1日以降は控除できなくなります。原則課税を選ぶ顧問先で、免税事業者からの仕入れが多い場合は、この分だけ原則課税の納税額が増えることも見ておく必要があります。
3つの課税方式の計算方法
原則課税(本則課税・一般課税)
納税額 = 売上にかかる消費税 - 実際の課税仕入にかかる消費税
実額で計算する、本来の方法です。仕入や経費の一つひとつについて課税・非課税・不課税を区分し、インボイスを保存する必要があります。手間はかかりますが、実態どおりの金額になり、仕入税額が売上税額を上回れば還付を受けられます。
簡易課税とみなし仕入率
納税額 = 売上にかかる消費税 × (1 - みなし仕入率)
仕入の実額を一切使わず、業種ごとに決められたみなし仕入率で計算します。基準期間(個人事業者は前々年、法人は原則として前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下の課税期間で、かつ事前に「消費税簡易課税制度選択届出書」を提出している場合に使えます。
みなし仕入率は事業区分ごとに次のとおりです。
| 事業区分 | みなし仕入率 | 主な業種 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業(購入した商品の性質・形状を変えずに事業者へ販売) |
| 第2種 | 80% | 小売業、飲食料品の譲渡に係る農林漁業 |
| 第3種 | 70% | 建設業、製造業、鉱業、電気・ガス・水道業、農林漁業(飲食料品を除く) |
| 第4種 | 60% | 飲食店業など、第1種〜第3種・第5種・第6種以外の事業 |
| 第5種 | 50% | 運輸通信業、金融・保険業、サービス業(飲食店業を除く) |
| 第6種 | 40% | 不動産業 |
売上を事業区分ごとに分けて、それぞれの売上税額に「1 − みなし仕入率」を掛けて合計します。全部まとめて一つの率を掛けるわけではありません。
2割特例・3割特例
2割特例:納税額 = 売上にかかる消費税 × 20%
3割特例:納税額 = 売上にかかる消費税 × 30%
どちらも売上だけで計算でき、事業区分も仕入の集計も不要です。事前の届出も要らず、確定申告書に適用を受ける旨を記載するだけで使えます。届出が不要ということは、申告のときに数字を見てから選べるということでもあります。ここが簡易課税との決定的な違いです。
有利判定の考え方|分岐点は「みなし仕入率」
原則課税と簡易課税の分岐点を、式で確かめておきます。
- 簡易課税の納税額 = 売上税額 ×(1 − みなし仕入率)
- 原則課税の納税額 = 売上税額 − 仕入税額
この2つが等しくなるのは、仕入税額 = 売上税額 × みなし仕入率のときです。売上と仕入の税率が同じであれば、これは「課税仕入 = 課税売上 × みなし仕入率」と言い換えられます。
つまり冒頭の結論のとおり、実際の課税仕入率がみなし仕入率を下回れば簡易課税が有利です。第5種のサービス業なら、課税仕入が課税売上の50%を下回っていれば簡易課税が有利になります。
ここを間違えると判定が逆になる
分子に入れるのは「消費税の対象になる仕入・経費」だけです。次のものは課税仕入に入りません。
- 人件費(給与・賞与)— 不課税
- 社会保険料、支払利息、保険料 — 非課税・不課税
- 土地の購入・賃借料 — 非課税
- 減価償却費 — 費用計上の年ではなく、資産を取得した年に課税仕入として計上します
損益計算書の「売上原価+販管費」をそのまま分子に置くと、人件費の分だけ仕入率が過大になり、本当は簡易課税が有利なのに原則課税と判定してしまいます。人件費比率の高いサービス業ほど、この間違いが起きやすいところです。
業種別の計算例3つ
以下はすべて税抜金額、税率は標準税率10%のみで計算しています。
例1 サービス業(第5種)— 簡易課税が有利
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 課税売上(税抜) | 800万円 |
| 課税仕入(税抜) | 150万円 |
- 売上税額:800万 × 10% = 80万円
- 原則課税:80万 − 15万 = 65万円
- 簡易課税(第5種50%):80万 × 50% = 40万円
簡易課税が25万円有利です。実際の仕入率は150 ÷ 800 = 18.75%で、みなし仕入率50%を大きく下回っています。人件費と外注費が中心で、課税仕入が少ない業態では簡易課税が有利になりやすい典型です。
例2 建設業(第3種)— 原則課税が有利
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 課税売上(税抜) | 3,000万円 |
| 課税仕入(材料・外注、税抜) | 2,400万円 |
- 売上税額:3,000万 × 10% = 300万円
- 原則課税:300万 − 240万 = 60万円
- 簡易課税(第3種70%):300万 × 30% = 90万円
原則課税が30万円有利です。実際の仕入率は80%で、みなし仕入率70%を上回っています。材料費と外注費の比率が高い建設業では、簡易課税にすると損をするケースが珍しくありません。「建設業は第3種で70%だから簡易課税が得」と決め打ちするのは危険です。
例3 元免税の個人事業者 — 年ごとに答えが変わる
インボイス登録により課税事業者になった個人事業者(第5種、基準期間の課税売上高は1,000万円以下)を想定します。
| 項目 | 金額 |
|---|---|
| 課税売上(税抜) | 600万円 |
| 課税仕入(税抜) | 100万円 |
- 売上税額:600万 × 10% = 60万円
- 原則課税:60万 − 10万 = 50万円
- 簡易課税(第5種50%):60万 × 50% = 30万円
- 2割特例:60万 × 20% = 12万円
- 3割特例:60万 × 30% = 18万円
年ごとに最も安い方式は次のように動きます。
| 課税期間 | 最も安い方式 | 納税額 |
|---|---|---|
| 令和8年分(2026年) | 2割特例 | 12万円 |
| 令和9年分(2027年) | 3割特例 | 18万円 |
| 令和10年分(2028年) | 3割特例 | 18万円 |
| 令和11年分(2029年)以降 | 簡易課税 | 30万円 |
同じ事業者でも、年によって答えが変わります。しかも令和11年分から簡易課税に移るには届出が必要です。この事業者が法人だった場合は令和9年分に相当する期からいきなり簡易課税(30万円)になるため、負担の上がり方はもっと急になります。
判定結果だけで決めてはいけない6つの落とし穴
1. 簡易課税の届出は「事前」— 決算を見てからは選べない
消費税簡易課税制度選択届出書は、適用を受けようとする課税期間の初日の前日までに提出する必要があります。個人事業者が令和9年分から簡易課税にしたいなら、令和8年12月31日までです。
つまり簡易課税は「来期どうなるか」の予測で決めるしかありません。ここが2割特例(申告時に選べる)と根本的に違うところで、有利判定を年内に済ませておく必要がある理由でもあります。
2. 2年間は戻れない
簡易課税を選ぶと、事業を廃止した場合を除き、選択届出書の効力が生じる課税期間の初日から2年を経過する日の属する課税期間の初日以後でなければ不適用届出書を出せません。翌期に大きな設備投資を予定しているなら、その年に原則課税へ戻れない可能性を先に確認してください。
3. 簡易課税では還付が出ない
簡易課税の納税額は「売上税額 ×(1 − みなし仕入率)」なので、必ず0円以上になります。多額の設備投資をして仕入税額が売上税額を上回っても、還付は受けられません。店舗の新設、機械の購入、車両の入替え、大規模修繕を予定している期は、原則課税が有利になりやすい代表例です。中古設備や中古車を取得する場合は、課税方式だけでなく、中古資産の耐用年数の計算方法もあわせて確認してください。
4. 事業区分をしていないと、一番低いみなし仕入率になる
2種類以上の事業を営んでいるのに売上を事業区分ごとに区分していない場合、その区分していない部分については適用される事業区分のうち最も低いみなし仕入率が使われます。卸売(90%)と小売(80%)を兼業していて区分していなければ、すべて80%で計算されることになります。帳簿の区分ができているかを、判定の前に確認してください。
5. 複数事業の75%特例で答えが変わることがある
2種類以上の事業を営む場合、特定の1事業の課税売上高が全体の75%以上を占めるときは、その事業のみなし仕入率を全体に適用できます。3種類以上を営んでいて特定の2事業で75%以上を占める場合にも、別の計算方法が認められています。原則の按分計算で「原則課税が有利」と出ても、この特例を使うと逆転することがあります。
6. 基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた期は、自動的に原則課税
簡易課税を選択していても、基準期間の課税売上高が5,000万円を超えた課税期間は簡易課税を使えず、原則課税で計算します。このとき届出そのものは失効しません。翌々期に基準期間の課税売上高が5,000万円以下に戻れば、届出を出し直さなくても簡易課税に戻ります。「去年は原則課税だったから今年も原則課税」と思い込むと計算方法を誤ります。
届出のスケジュール|いつまでに何を出すか
| やりたいこと | 出す書類 | 期限 |
|---|---|---|
| 翌期から簡易課税にしたい | 消費税簡易課税制度選択届出書 | 適用を受けようとする課税期間の初日の前日まで |
| 簡易課税をやめたい | 消費税簡易課税制度選択不適用届出書 | やめようとする課税期間の初日の前日まで(2年経過後でないと提出できない) |
| 2割特例を使いたい | 届出不要 | 確定申告書にその旨を記載 |
| 3割特例を使いたい | 届出不要 | 確定申告書にその旨を付記 |
2割特例・3割特例のあとに簡易課税へ移るときだけ、期限が緩い
通常の「初日の前日まで」には例外があります。2割特例・3割特例の適用を受けた課税期間の翌課税期間に係る確定申告期限までに簡易課税制度選択届出書を提出すれば、その翌課税期間から簡易課税を適用できます。
たとえば令和10年分に3割特例を使った個人事業者が令和11年分から簡易課税にしたい場合、令和10年中ではなく令和11年分の確定申告期限(令和12年3月31日)までに届出を出せば間に合います。つまり令和11年の数字を見てから簡易課税を選べるということです。この救済を知らずに「年内に決めなければ」と慌てる必要はありません。
ただしこれは特例を適用していた場合の話です。原則課税から簡易課税へ通常どおり移る場合は、あくまで事前届出です。
まとめ
- 原則課税と簡易課税の分岐点は、実際の課税仕入率とみなし仕入率の比較。人件費を分子に入れないこと
- 2割特例は令和5年10月1日から令和8年9月30日までの日の属する各課税期間まで。個人事業者は令和8年分、法人は2026年9月30日を含む事業年度が最後
- 令和9年分・令和10年分は3割特例が使えるが、個人事業者に限られる。法人は今期で特例が終わる
- 判定は「使えるか」→「金額で比べる」の順。使えない方式を比較対象に入れない
- 届出は事前・2年縛り・還付なしの3点で、判定結果がそのまま結論にならないことがある
2026年後半は、すべての顧問先について来期の課税方式を決め直すタイミングです。決算月ごとに期限が違うため、リストを作って一件ずつ潰していくのが結局いちばん早い方法になります。
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この記事の判定を毎回電卓でやると、1件あたり30分から1時間かかります。事業区分別の売上を入力すると、原則課税・簡易課税・2割特例の納税額を同時に計算し、適用できる方式のなかで最も安いものと、次点との差額を自動で判定するExcelシートを用意しました。
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- 価格:2,800円(税込)
3割特例について: 商品の現行版は、原則課税・簡易課税・2割特例の3方式を計算対象としており、3割特例には対応していません。令和9年分・令和10年分の個人事業者については、3割特例の適用可否と納税額を別途確認してください。
※ 本シートは概算の比較ツールです。端数処理は簡略化しており、複数事業区分の75%特例には対応していません。最終的な納税額は必ず申告書でご確認ください。
参考(一次情報)
- 国税庁 No.6505 簡易課税制度
- 国税庁 No.6509 簡易課税制度の事業区分
- 国税庁 2割特例(インボイス発行事業者となる小規模事業者に対する負担軽減措置)の概要
- 国税庁 インボイスQ&A 問117「2割特例や3割特例を適用した課税期間後の簡易課税制度の選択」
- 国税庁 令和8年度税制改正関係「3割特例の創設」
本記事は2026年9月1日時点の制度に基づいています。税制改正により取扱いが変わる場合があります。個別の判断は顧問税理士にご相談ください。
