相続対策も遺言書の作成も、生前贈与の計画も――すべての出発点は「いま、何が、どこに、いくらあるか」を一覧にすることです。これが財産目録です。ところが実際に相続が起きると、家族は口座の存在すら知らず、ネット銀行・ネット証券・サブスク契約の解約に何か月も費やすことになります。財産目録は、残される家族への最も実用的な思いやりであり、税理士事務所にとっては相続案件の入口となる基本資料です。
この記事では、財産の棚卸項目の全リスト、評価額の記入ルール、そして毎年更新し続けられるExcel財産目録の作り方を解説します。一度作って終わりではなく、年1回の更新が回る設計にすることが何より重要です。
財産目録に載せる項目の全リスト
漏れなく棚卸しするために、次のカテゴリで洗い出します。プラスの財産だけでなくマイナスの財産(債務)も必ず載せるのが財産目録の鉄則です。
- 不動産:土地・建物(所在地・地番・面積・持分。固定資産税の課税明細書が最良の資料)
- 預貯金:金融機関・支店・口座番号・残高(ネット銀行を忘れずに)
- 有価証券:証券会社・銘柄・数量(ネット証券・NISA口座・持株会も)
- 生命保険:保険会社・証券番号・保険金額・受取人(掛け捨ても契約情報として記載)
- その他の資産:自動車、貴金属・美術品、ゴルフ会員権、貸付金、事業用資産・自社株
- デジタル資産:暗号資産、電子マネー・ポイント、サブスク契約、SNS・メールアカウント(IDの所在と処理方針)
- 債務:住宅ローン・借入金・保証債務(連帯保証は特に重要)
遺言書に添付する財産目録には様式上のルールがある場面もあります(自筆証書遺言に添付する目録はパソコン作成可だが毎葉に署名押印が必要など)。本記事のExcel目録は現状把握と対策検討のための実務資料という位置づけで作成し、遺言に添付する正式版は専門家の確認を経てください。
Excelで財産目録を作る手順
ステップ1:明細シートを8列で作る
カテゴリ(プルダウン)/名称・内容/所在・機関/口座番号等の特定情報/評価額/評価の根拠/名義/備考の8列で全財産を1行ずつ並べます。「特定情報」と「評価の根拠」の列がこの目録の生命線です。金額は多少ズレても構いませんが、財産の存在と所在が特定できれば家族は動けます。
ステップ2:評価額の記入ルールを決める
- 預貯金:直近の残高(更新日基準)
- 上場株式・投信:直近の時価
- 不動産(簡便な概算):建物は固定資産税評価額、土地は路線価ベースまたは固定資産税評価額からの概算。あくまで桁感の把握用と割り切る
- 生命保険:死亡保険金額(解約返戻金額も併記)
- 自社株:「要専門家評価」と明記し、直近決算の純資産額を参考値として記載
小規模宅地等の特例や非上場株式の評価など、正確な相続税評価は専門家の領域です。目録上は概算であることを明記して全体の桁感を掴むのが正しい割り切りです。
ステップ3:サマリーと相続税の当たりを付ける欄を作る
カテゴリ別合計 = SUMIF(カテゴリ列,"不動産",評価額列)
純財産額 = プラスの財産合計 − 債務合計
基礎控除 = 3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数
判定表示 = IF(純財産額>基礎控除,"相続税の試算を推奨","基礎控除内の見込み")
カテゴリ別構成比の円グラフを添えると、「財産の大半が不動産で納税資金が足りない」といった対策の論点が一目で見える資料になります(納税資金の検証は関連記事:No.114 相続税の納税資金シミュレーション)。
ステップ4:年1回の更新が回る仕掛けを作る
更新日/更新者の欄をシート上部に置き、「毎年誕生月に更新する」など更新タイミングを決めて備考に明記します。前年の評価額列を残して当年と並べると、財産の増減も追えます。あわせて、家族に伝えるべき情報(目録の保管場所、緊急連絡先、依頼済みの専門家)を記載した表紙シートを付ければ、エンディングノートの財産編として機能します。
実務の注意点・つまずきポイント
- パスワードは目録に直接書かない:口座番号までは記載しても、暗証番号・パスワードは別管理(貸金庫・パスワード管理サービス等)にし、目録には所在のみ記します。
- ファイル自体の管理:個人情報の塊なので、ファイルにパスワードを設定し、保管場所と開き方を信頼できる家族に伝えておきます。
- 名義預金の整理:家族名義でも実質が本人の財産なら相続財産です。名義と実質が異なるものは備考に経緯を記録しておくと、後の税務判断の重要資料になります。
- 連帯保証は最重要記載事項:目に見えない最大のリスクです。保証している債務は金額・主債務者とともに必ず記載します。
- 相続放棄の判断材料になる:債務超過の可能性がある場合、相続放棄の期限は原則3か月です。債務も含めた正直な目録が家族を守ります。
財産目録テンプレートをご用意しています
この記事の構成(8列明細→評価ルール→サマリーと基礎控除判定→表紙・更新管理)を組み込んだExcelテンプレートを販売しています。カテゴリ別の記入例つきで、埋めていくだけで財産の棚卸しが完了し、基礎控除との比較まで自動表示されます。ご自身の終活の第一歩に、また事務所の相続相談の初回ヒアリングツールとしてお使いください。
相続税額の概算はこちらの記事を(関連記事:No.59 相続税の概算計算)、生前贈与の比較検討はこちらをご覧ください(関連記事:No.60 暦年贈与と精算課税の比較)。
まとめ
- 財産目録は相続対策・遺言・贈与計画すべての出発点。債務も含めて棚卸しする
- 金額の正確さより「存在と所在の特定」が優先。特定情報と評価根拠の列が生命線
- 評価額は概算と割り切り、基礎控除(3,000万円+600万円×人数)との比較で当たりを付ける
- ネット口座・デジタル資産・連帯保証は特に漏れやすい重点項目
- 年1回の更新ルールと表紙シート(保管場所・連絡先)で「使われる目録」にする

コメント