「子ども名義の口座にコツコツ貯めてきた」「専業主婦の妻名義の口座に生活費の残りを移してきた」――良かれと思って続けてきたこの習慣、相続税調査で最も指摘されやすい名義預金の典型例です。名義預金とは、口座の名義人と実質的な所有者が異なる預金のこと。名義が家族でも実質が被相続人の財産と判定されれば、申告漏れの相続財産として追徴課税の対象になります。
この記事では、名義預金と判定される要素を整理し、「贈与としてきちんと成立させる」ための証拠の残し方をチェックリスト化する方法を解説します。ポイントはシンプルで、名義を変えることではなく、贈与を法律的に成立させて記録を残すことです。
基礎知識:名義預金はどこで判定されるか
税務調査で名義預金かどうかを判定する主な要素は次のとおりです。名義そのものではなく、実質で判定されることがすべての出発点です。
- 原資は誰が出したか:入金の原資が被相続人の収入・預金なら名義預金を疑われる第一要素
- 管理・支配は誰がしていたか:通帳・印鑑・キャッシュカードを被相続人が保管し、名義人が自由に使えなかった場合は実質被相続人の財産
- 贈与の合意があったか:贈与は「あげます」「もらいます」の双方の意思表示で成立する契約。名義人が口座の存在すら知らなければ贈与は成立していない
- 利益を誰が受けていたか:利息の受取り、解約時の資金の行き先など
「毎年110万円以下だから申告不要で、何の記録もない」というケースが最も危険です。申告不要なのは贈与が成立している場合の話で、贈与自体が否定されれば全額が相続財産になります。調査では過去10年分程度の預金移動が照会されることもあり、記録がなければ反証は困難です。
贈与を成立させる4点セット
名義預金と言われないための対策は、次の4点セットに集約されます。
- ① 贈与契約書を作る:贈与のたびに日付・金額・当事者を記載し双方が署名押印。未成年者への贈与は親権者が代わって受諾できるが、その旨を明記
- ② 振込で渡す:現金手渡しではなく口座間振込にして、客観的な資金移動の記録を残す
- ③ 受贈者が管理する:通帳・印鑑・カードは受贈者(名義人)が保管し、実際に使える状態にする。印鑑は贈与者と別のものを使う
- ④ 必要に応じて贈与税申告:基礎控除を超える贈与はもちろん申告。あえて110万円超(例:111万円)を贈与して申告記録を残す実務もあるが、申告があっても実質が伴わなければ否定され得る点に注意
Excelチェックリスト・記録表の作り方
ステップ1:既存口座の棚卸しシートを作る
家族名義の口座を、名義人/金融機関/残高/原資(誰の資金か)/通帳・印鑑の保管者/名義人は口座を知っているか/贈与の記録の有無の7列で棚卸しします。この表で「原資=本人以外」かつ「管理=本人以外」かつ「記録なし」の口座が、名義預金リスクの高い口座として自動判定されるようIF式を組みます。
リスク判定 = IF(AND(原資="名義人以外",管理者="名義人以外",記録="なし"),"高リスク:要対応",IF(記録="なし","要記録整備","低リスク"))
ステップ2:リスク口座の対応方針を決める
高リスク口座は、①実態に合わせて贈与者の財産として扱い直す(財産目録に載せる)、②今後きちんと贈与として成立させ直す、のどちらかを選び、対応方針と実施日を記録します。過去に遡って贈与契約書を作る「バックデート」は絶対に行わないでください。事実と異なる書類はより重い問題(仮装隠蔽)になります。過去分は正直に整理し、これからの分を正しく積み上げるのが唯一の正解です。
ステップ3:今後の贈与のチェックリストを作る
贈与1回ごとに、契約書作成/双方署名/振込実行/受贈者管理の確認/申告要否判定/申告実施の6項目をチェックする実行リストを作ります。この記録の蓄積が、将来の調査での最強の反証資料になります。継続的な記録管理は贈与記録台帳(関連記事:No.118 生前贈与の記録台帳)に引き継ぐ設計にすると運用が続きます。
実務の注意点・つまずきポイント
- 「定期贈与」の指摘への備え:毎年同額・同日の機械的な贈与は、当初から総額を贈与する約束だったと見られるリスクが指摘されます。都度の契約書で「その年ごとの贈与」であることを明確にします。
- 持ち戻し期間に注意:相続開始前の一定期間(改正により順次7年へ延長)の相続人への贈与は、贈与が成立していても相続財産に加算されます。贈与の成立と持ち戻しは別の論点です。
- 専業主婦のへそくり口座:生活費の余りは原則として夫の財産のままです。妻名義口座に移しただけでは贈与になりません。夫婦間でも記録が必要です。
- 教育資金の都度贈与は非課税:扶養義務者間の通常の生活費・教育費の都度払いはそもそも贈与税の対象外。何でも契約書が要るわけではなく、財産形成目的の資金移動と区別します。
- 判定に不安がある場合:過去の経緯が複雑なケースの整理は専門家の領域です。相続前に整理できれば選択肢が多く、調査で指摘されてからでは遅い、という時間軸を意識してください。
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贈与の継続的な記録管理はこちらの記事を(関連記事:No.118 生前贈与の記録台帳)、暦年贈与と精算課税の選択はこちらをご覧ください(関連記事:No.60 暦年贈与と精算課税の比較)。
まとめ
- 名義預金は名義ではなく実質(原資・管理支配・贈与の合意)で判定される
- 贈与成立の4点セットは契約書・振込・受贈者管理・必要に応じた申告
- 記録のない毎年110万円の資金移動が最も危険。贈与自体が否定されれば全額相続財産
- 過去分のバックデートは厳禁。正直に整理し、これからを正しく積み上げる
- 贈与の成立と7年持ち戻しは別論点。両方を台帳で管理する

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