【2026年7月19日更新】租税条約に関する届出書の電子提出(e-Tax対応)に関する注記を追加しました。
海外の会社にソフトウェアのライセンス料を払う、海外在住のデザイナーに業務を発注する、海外株主に配当を出す――こうした非居住者・外国法人への支払には、国内の源泉徴収とはまったく別の体系が適用されます。「支払時に源泉すべきだったのに、していなかった」が発覚するのはたいてい税務調査のとき。源泉義務は支払側にあるため、追徴は自社(グロスアップ計算)に降りかかります。
この記事では、国内源泉所得の主な区分と税率、租税条約による軽減・免除の届出管理をExcel台帳化する方法を解説します。国際源泉は判断の難しい領域なので、台帳は「支払前に立ち止まる仕組み」として設計し、個別判断は必ず条文・条約・専門家で確認する前提です。
基礎知識:3ステップの判定構造
ステップ①:国内源泉所得に当たるか
非居住者等への支払で源泉徴収が問題になる主な国内源泉所得は次のとおりです(税率は代表例。復興特別所得税込みの率で徴収します)。
- 使用料(ロイヤルティ):工業所有権・著作権の使用料、ソフトウェアのライセンス料等 → 20.42%
- 人的役務の報酬:国内で行う役務提供の対価(芸能人・専門家等) → 20.42%
- 給与・報酬:非居住者への国内勤務分給与 → 20.42%
- 配当 → 20.42%(上場株式等は別率)
- 利子 → 15.315%
- 不動産の賃借料:国内不動産の賃料 → 20.42%、不動産の譲渡対価 → 10.21%(個人が自己居住用に買う場合等の例外あり)
「国内源泉かどうか」の判定(使用地主義・債務者主義など)は所得区分ごとにルールが異なり、ここが最初の難所です。完全に国外で完結する役務への支払など、そもそも源泉不要のケースもあります。
ステップ②:租税条約で軽減・免除されるか
相手の居住地国と日本の租税条約により、税率の軽減(例:使用料10%等)や免税となる場合があります。ただし条約の適用は自動ではなく、支払日の前日までに「租税条約に関する届出書」を支払者経由で税務署へ提出することが原則です(特典条項のある条約では付表・居住者証明が必要な場合も)。届出が間に合わなければ国内法の税率で徴収し、後から還付請求する流れになります。なお、租税条約に関する届出書は支払者(源泉徴収義務者)経由でのe-Taxによる電子提出にも対応しています。書面より提出の記録管理がしやすいため、台帳の「提出状況」列にe-Tax受付番号を記録する運用がおすすめです(対応範囲・手続きは国税庁サイトで最新を確認)。
ステップ③:納付期限と手続き
徴収した源泉税は原則支払月の翌月10日までに納付します(非居住者分は納期特例の対象外の所得区分が多い点に注意)。支払調書の提出義務も別途あります。
Excelで管理台帳を作る手順
ステップ1:支払先マスタを作る
支払先/個人・法人の別/居住地国/条約の有無・該当条項/届出書の提出状況・提出日/居住者証明の有無/適用税率の7列で登録します。「この支払先は届出済みか」が一目で分かることが、支払のたびに調べ直す非効率と、届出漏れの両方をなくします。
ステップ2:支払明細と源泉計算を組む
支払1件1行:支払日/支払先/所得区分(プルダウン)/支払額(グロス)/適用税率(マスタ参照)
源泉税額 = ROUNDDOWN(支払額 × 適用税率, 0)
手取額 = 支払額 − 源泉税額
納付期限 = DATE(YEAR(支払日), MONTH(支払日)+1, 10)
警告 = IF(AND(条約適用="予定", 届出提出日=""), "届出未提出!国内法税率で徴収", "")
この警告が台帳の心臓部です。届出が出ていないのに条約税率で計算する誤りを、支払前に機械的に止めます。「手取○○ドルで」の契約(グロスアップ)の場合の逆算式(支払総額=手取額÷(1−税率))も組み込んでおくと便利です。
ステップ3:納付・調書の期限管理を付ける
月別の納付予定額集計と、納付書の作成・納付済みチェック、年明けの支払調書作成対象の抽出(年間支払の集計)までを1つの流れにします。外貨建ての支払は円換算(支払日のレート)の記録列も設けます(関連記事:No.153 外貨建取引の換算と為替差損益)。
実務の注意点・つまずきポイント
- 「海外への支払=源泉」ではなく「区分判定が先」:単純な物品の輸入代金は源泉不要です。逆にソフトウェア関連は「使用料か事業所得か」の判定が最難関で、契約内容(複製権の許諾か、製品の購入か)で結論が変わります。
- 契約前に源泉の話をする:契約後に「20.42%引きます」と言うと必ず揉めます。グロスアップの要否・届出への協力(相手のサイン・居住者証明)を契約条件に含めるのが実務の知恵です。
- デジタルサービスの少額支払も対象になり得る:海外のクラウドサービス・ストックフォト等の利用料に使用料該当性が問題になるケースがあります。定常的な海外SaaS支払は一度棚卸しを。
- 納付漏れのペナルティは支払者負担:不納付加算税・延滞税は源泉義務者(自社)に課されます。台帳の納付チェックを月次業務に組み込んでください。
- 本記事は概要です:所得区分・条約の適用判定は事案ごとの検討が不可欠です。高額・継続的な支払は必ず国際税務に明るい専門家へ相談してください。税率・手続きは最新の法令・条約でご確認ください。
国際源泉管理台帳をご用意しています
この記事の構成(支払先マスタ→源泉計算+届出警告→納付・調書の期限管理)を組み込んだExcel台帳を販売しています。支払前の立ち止まりチェックと届出状況の一元管理で、「知らずに払ってしまった」を仕組みで防ぎます。海外取引のある顧問先を持つ事務所の管理標準としてもお使いいただけます。
国内の源泉徴収の基本はこちらの記事を(関連記事:No.6 源泉所得税の計算)、海外取引の消費税はこちらをご覧ください(関連記事:No.152 輸出免税とリバースチャージ)。
まとめ
- 非居住者・外国法人への支払は「国内源泉所得か→条約適用か→納付期限」の3段判定
- 条約の軽減・免除は支払前日までの届出書提出が原則。自動適用ではない
- 台帳の心臓部は「届出未提出なのに条約税率」を止める警告
- 源泉漏れの追徴は支払者負担。契約前に源泉・グロスアップの合意を取る
- 所得区分の判定は最難関。高額案件は必ず専門家と最新の条約で確認する

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