賃上げ促進税制の控除額をExcelで計算する方法【適用判定から別表まで】

賃上げ促進税制の控除額をExcelで計算する方法【適用判定から別表まで】

【2026年7月19日更新】令和8年度税制改正(教育訓練費上乗せ措置の廃止等)に伴い、適用事業年度による制度分岐の解説を追記しました。

賃上げ促進税制は、いまやほぼすべての顧問先で適用検討が必要な税額控除になりました。ところが実務では、「雇用者給与等支給額」の集計範囲の判断、前期比増加率の判定、教育訓練費や両立支援などの上乗せ要件の管理と、確認事項が多岐にわたります。決算直前に慌てて集計して適用漏れ・要件誤りを起こすのが典型的な失敗パターンです。

この記事では、賃上げ促進税制(中小企業向け)の適用判定から控除額計算までをExcelで自動化する計算シートの作り方を解説します。期中から給与データを流し込んでおけば、決算前に「あといくら賃上げすれば要件を満たすか」の逆算までできる設計です。なお、本税制は適用期限・要件の改正が頻繁な制度です。控除率・要件は執筆時点の制度を前提とした例であり、適用の際は必ず最新の法令・国税庁資料をご確認ください

目次

賃上げ促進税制の基礎知識(中小企業向け)

中小企業向けの賃上げ促進税制は、おおまかに次の構造です。

  • 基本要件:雇用者給与等支給額が前期比+1.5%以上 → 増加額の15%を税額控除
  • 上乗せ①:前期比+2.5%以上 → 控除率上乗せ
  • 上乗せ②:教育訓練費の増加要件を満たす → さらに上乗せ(令和8年3月31日までに開始する事業年度まで。令和8年度改正で廃止
  • 上乗せ③:くるみん・えるぼし等の両立支援認定 → さらに上乗せ
  • 控除限度:法人税額の20%まで。中小企業は控除しきれない額の繰越控除制度あり(繰越期間・要件は要確認)

計算の土台になる「雇用者給与等支給額」は、国内雇用者に対する給与・賞与の合計で、役員とその特殊関係者(親族など)への支給は除きます。ここの集計範囲の誤りが最も多いミスです。また、出向者の負担金や補助金(雇用調整助成金等)の控除など、調整項目にも注意が必要です。

適用事業年度による制度分岐に注意(令和8年度改正)

令和8年度税制改正により、適用事業年度の開始日で制度内容が分岐します。①令和6年4月1日〜令和8年3月31日に開始する事業年度(個人は令和7年・令和8年分)は従来制度で、教育訓練費の上乗せ措置もここまで。②令和8年4月1日以後に開始する事業年度(個人は令和9年分以後)は改正後の制度となり、全企業向けの枠と教育訓練費上乗せは廃止、中堅企業向け(従業員2,000人以下)・中小企業向けの体系に再編されています。Excelの計算シートには「事業年度開始日」を入力させ、適用制度と控除率マスタを自動で切り替える分岐を組み込んでください。控除率・要件の詳細は経産省「賃上げ促進税制」ページおよび最新のガイドブックで確認します。

Excelで計算シートを作る手順

ステップ1:従業員別の給与集計シートを作る

従業員名/区分(一般・役員・役員の親族・出向者)/月別支給額/賞与/年間合計の表を、当期・前期の2枚(または2ブロック)作ります。区分列を設けることで、対象外の役員・親族分を自動で除外できます。

雇用者給与等支給額 = SUMIF(区分範囲,"一般",年間合計範囲)

給与ソフトから月次データを貼り付ける運用にしておくと、期中でも常に最新の累計が見えます。

ステップ2:増加率の判定を自動化する

増加率 = (当期支給額-前期支給額)/前期支給額
判定 = IF(増加率>=2.5%,"上乗せ要件クリア",IF(増加率>=1.5%,"基本要件クリア","適用外"))

判定セルは条件付き書式で色分けし、決算3か月前・1か月前のチェックポイントで確認する運用にします。「あと○円の賃上げ(決算賞与)で1.5%に届く」という逆算セルを置くと、決算対策の提案がその場でできます。

必要追加支給額 = MAX(0, 前期支給額*1.015-当期支給額見込)

ステップ3:教育訓練費・上乗せ要件の管理表を作る

教育訓練費(外部研修費・講師謝金・教材費など対象範囲に注意)を、日付/内容/対象者/金額で記録する明細表を作り、当期・前期の合計と増加率を自動計算します。両立支援の認定状況はチェックボックス形式の管理欄にし、認定の取得日と適用事業年度の関係をメモできるようにしておきます。

ステップ4:控除額の計算と繰越管理

控除対象額 = (当期支給額-前期支給額) × 適用控除率
控除限度額 = 法人税額 × 20%
当期控除額 = MIN(控除対象額, 控除限度額)
繰越額 = 控除対象額 − 当期控除額

繰越控除がある場合は、発生事業年度/繰越額/各期の使用額/残高を管理する繰越台帳シートを追加します。繰越控除の適用にはその期にも賃上げ要件がある点など細かい条件があるため、台帳に要件確認のチェック列を設けておくと安全です。計算結果は法人税申告書の別表(給与等の支給額が増加した場合の法人税額の特別控除に関する明細書)への転記元として使います。

実務の注意点・つまずきポイント

  • 役員の親族の除外漏れ:家族経営の会社で最も起きやすいミス。従業員マスタの区分列で構造的に防ぎます。
  • 補助金・助成金の調整:雇用関係の助成金は支給額から控除する場合があります。対象の判定は最新の取扱いをご確認ください。
  • 前期が短い・設立初年度のケース:比較対象の調整計算が必要です。イレギュラー年度は個別に検討します。
  • 決算賞与での駆け込み達成:未払計上する場合は損金算入の要件(通知・支払期限等)を満たすことが前提です。
  • 赤字でも記録は残す:中小企業の繰越控除は、赤字年度に発生した控除枠を将来使える可能性がある制度です。適用可否にかかわらず毎期集計しておくことが将来の節税になります。

賃上げ税制計算シートをご用意しています

この記事の構成(従業員別集計→増加率判定と逆算→上乗せ要件管理→控除額計算・繰越台帳)を組み込んだExcel計算シートを販売しています。給与データを貼り付けるだけで判定と控除見込額が自動表示され、決算対策の提案資料としても、別表作成の下準備としても使えます。全顧問先分を横断管理したい事務所向けの一覧シート付きです。

人件費の適正水準の分析はこちらの記事を(関連記事:No.87 労働分配率と人件費の分析)、給与集計の元データづくりはこちらをご覧ください(関連記事:No.25 給与計算Excel)。

まとめ

  • 賃上げ促進税制は増加率判定・上乗せ要件・控除限度・繰越と管理項目が多く、Excel管理が有効
  • 集計の最多ミスは役員・親族分の除外漏れ。従業員マスタの区分列で防ぐ
  • 「あといくらで要件達成か」の逆算セルが決算対策提案の武器になる
  • 繰越控除は台帳管理が必須。赤字年度も毎期集計を続ける
  • 控除率・要件は改正が頻繁。適用時は必ず最新の法令・国税庁資料で確認する
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