「簡易課税と原則課税、どちらが得か」——消費税の実務で最も相談が多いテーマのひとつです。判定を誤ると2年間取り返しがつかないうえ、インボイス制度開始後は「2割特例」も絡んで判断が複雑になりました。
この記事では、簡易課税の事業区分の判定ルールを整理したうえで、原則課税・簡易課税(・2割特例)の納税額をExcelで並べて比較する方法を解説します。
簡易課税制度の基本
簡易課税は、実際の仕入税額を集計せず、売上の消費税額 × みなし仕入率で仕入税額控除を計算できる制度です。適用要件は次の2つです。
- 基準期間(前々事業年度)の課税売上高が5,000万円以下
- 適用したい課税期間の開始日の前日までに「簡易課税制度選択届出書」を提出
そして重要な制約として、いったん選択すると2年間は継続適用が必要です。届出の提出期限が「期首の前日」である点も含め、判断は前期のうちに済ませる必要があります。(関連記事:No.111 消費税届出書の期限管理)
事業区分とみなし仕入率
| 事業区分 | みなし仕入率 | 該当する事業の例 |
|---|---|---|
| 第1種 | 90% | 卸売業(他者から仕入れた商品を事業者に販売) |
| 第2種 | 80% | 小売業(他者から仕入れた商品を消費者に販売) |
| 第3種 | 70% | 製造業・建設業・農林漁業など |
| 第4種 | 60% | 飲食店業、事業用資産の売却、加工賃を受ける事業など |
| 第5種 | 50% | サービス業・金融保険業・運輸通信業 |
| 第6種 | 40% | 不動産業(賃貸・仲介・管理) |
間違えやすい判定の例
- 建設業でも材料支給を受ける手間請け工事は第4種(自前で材料を調達すれば第3種)
- 飲食店の出前は第4種、テイクアウト販売は製造小売として第3種になり得る
- 固定資産(営業車など)の売却は業種を問わず第4種
- 小売業でも事業者への販売分は第1種として区分できる
複数の事業を営む場合:75%ルール
複数区分の売上がある場合、原則は区分ごとにみなし仕入率を適用します。ただし、1つの区分の売上が全体の75%以上を占める場合は、その区分のみなし仕入率を全体に適用できる特例があります(2区分で75%以上の場合の特例もあり)。売上を区分管理していないと不利な区分(最低の仕入率)で計算されるため、区分記帳が大前提です。
Excelで有利判定シミュレーションを作る
ステップ1:入力欄を作る
- 課税売上高(税抜)と売上消費税額(事業区分別に入力)
- 課税仕入高と仕入消費税額(原則課税の計算用)
ステップ2:3方式の納税額を並べて計算
原則課税 = 売上税額 - 仕入税額
簡易課税 = 売上税額 - 売上税額×みなし仕入率
2割特例 = 売上税額 × 20%
有利判定 =INDEX({"原則","簡易","2割特例"},MATCH(MIN(3方式),範囲,0))
2割特例は、インボイス登録を機に免税事業者から課税事業者になった事業者向けの経過措置です(適用期限があるため対象期間は最新情報をご確認ください)。対象者は事前届出なしで申告時に選択できるため、比較表に必ず入れておきます。
ステップ3:判定の分かれ目を可視化する
簡易課税が有利になる条件は、実際の原価・経費率(課税仕入ベース)がみなし仕入率を下回ることです。たとえば第5種(サービス業・みなし仕入率50%)なら、課税仕入が売上の50%未満の体質なら簡易課税が有利になります。データテーブル機能で「仕入率を10%刻みに変えたときの納税額表」を作ると、顧問先への説明が一気に分かりやすくなります。
シミュレーションで見落としがちな3つの論点
- 設備投資の予定:大きな設備投資があると原則課税の還付が受けられるケースがある。簡易課税では還付は受けられない
- 2年縛り:今期だけでなく翌期の損益予測も含めた2年トータルで比較する
- 事務負担:簡易課税は仕入の区分経理が不要になり、記帳コスト削減効果も判断材料になる
簡易課税有利判定テンプレートのご案内
事業区分別の入力に対応し、原則課税・簡易課税・2割特例の3方式を自動比較する簡易課税有利判定シミュレーター(Excel)を用意しています。2年分の予測を並べて判定できる設計で、顧問先への提案資料としてそのまま出力できます。
まとめ
- 簡易課税は基準期間の課税売上5,000万円以下+期首前日までの届出が要件、2年継続適用
- 事業区分の判定(特に建設業の手間請け・飲食の業態・固定資産売却)が精度の鍵
- 原則・簡易・2割特例の3方式をExcelで並べて比較し、2年トータルで判定する
- 設備投資予定がある場合は還付の可能性まで含めて検討する

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