「あの補助金、教えてくれれば申請したのに」――顧問先からのこの一言は、税理士事務所にとって最も痛い言葉のひとつです。逆に、「先生のところは補助金の情報をくれる」という評判は、顧問料の価値を大きく引き上げます。問題は、国・都道府県・市区町村・各種財団と情報源が散らばり、公募期間が短く、追い続ける仕組みがないと必ず取りこぼすことです。
この記事では、補助金・助成金の公募スケジュールを一覧管理する台帳と、顧問先の属性と補助金の要件を突き合わせるマッチング表をExcelで作る方法を解説します。月1回・30分の更新運用で、「情報提供できる事務所」の体制を作ります。
基礎知識:追うべき情報源と補助金・助成金の違い
まず用語の整理です。一般に補助金は経産省・自治体系で採択審査があるもの(持続化・ものづくり・IT導入・事業再構築系など)、助成金は厚労省系で要件を満たせば原則受給できるもの(雇用・育成・両立支援系など)を指します。この性質の違いは提案の仕方に直結します。補助金は「計画づくりの支援」、助成金は「要件チェックと就業規則等の整備」が提案の中身になるからです。
定点観測すべき情報源は、中小企業向け支援サイト(ミラサポplus・J-Net21等)、経産省・中小企業庁の公募情報、厚労省の助成金案内、都道府県・市区町村の産業振興ページ、商工会議所の案内あたりが中核です。情報源の一覧そのものを台帳の1シートにして、確認日を記録するのが運用の第一歩です。
Excelで管理台帳を作る手順
ステップ1:補助金マスタを作る
制度1つ1行で、制度名/実施主体/区分(補助金・助成金)/対象者の要件(業種・規模・地域)/補助率・上限額/対象経費の概要/公募期間(開始・締切)/次回公募の見込み/情報URL/確認日の10列で登録します。締切にはアラートを仕込みます。
締切アラート = IF(締切日="","",IF(締切日-TODAY()<0,"終了",IF(締切日-TODAY()<=30,"締切まで"&(締切日-TODAY())&"日","")))
年間で繰り返される制度(持続化補助金の複数回公募、雇用関係助成金の通年受付など)は「次回公募見込み」列に過去の傾向を書いておくと、公募開始前から顧問先に予告できるようになります。これが情報提供の質を分けるポイントです。
ステップ2:顧問先の属性マスタを作る
顧問先ごとに、業種/従業員数/小規模事業者の該当(商業・サービス5人以下、その他20人以下等)/所在地(自治体)/直近の投資・採用・賃上げ・DX化の予定/過去の申請歴を一覧化します。「予定」の列が命で、月次面談で「今後1年の設備投資・採用・販路開拓の予定はありますか」と聞く運用をセットにします(この情報は消費税の届出管理にも効きます:関連記事:No.111 消費税届出書の期限管理)。
ステップ3:マッチング表を作る
縦に顧問先、横に主要な制度を並べ、交点に該当可能性(◎○△×)を入力するマトリクスを作ります。判定を完全自動化する必要はありません。要件の粗い絞り込み(業種・規模・地域)だけCOUNTIFS等で機械化し、最後の◎○判定は人が付けるのが実務的です。◎が付いた組み合わせが、その月の情報提供リストになります。
ステップ4:月次の運用ルーチンを決める
月次30分ルーチン:
1. 情報源リストを巡回し、新規制度をマスタに追加・締切を更新(15分)
2. マッチング表の◎○を見直し(10分)
3. 該当顧問先への案内(面談時の一言・メール1本)をToDo化(5分)
案内の深追いは不要です。「こういう制度が出ています。興味があれば詳しく調べます」の一言で十分に価値があり、申請支援まで行うかは案件ごとに判断すればよいのです。
実務の注意点・つまずきポイント
- 情報の鮮度を明示する:制度内容は頻繁に変わります。顧問先への案内には必ず「確認日」と公式URLを添え、最新の要領の確認を促してください。
- 申請支援の業際に注意:助成金(厚労省系)の申請代行は社会保険労務士の独占業務です。事務所として支援する範囲(情報提供・計画作成支援まで等)を明確にし、必要に応じて社労士・認定支援機関と連携します。
- 採択後の管理まで案内する:採択はゴールではありません。経費管理(関連記事:No.139 持続化補助金の経費管理)と経理処理(関連記事:No.138 補助金の経理処理と管理台帳)の支援までセットで提示すると、事務所の関与価値が最大化します。
- 「補助金ありき」の投資を勧めない:補助金は投資判断の後押しであって目的ではありません。不要な投資を補助率で正当化しない、という姿勢が長期的な信頼を守ります。
- 返礼的な過度な期待の管理:採択には審査があり、落ちることも普通にあります。案内時に採択率の現実を添えて期待値を調整しておくと、関係がこじれません。
補助金・助成金 管理表をご用意しています
この記事の構成(補助金マスタ+締切アラート→顧問先属性マスタ→マッチング表→月次ルーチン)を組み込んだExcel管理表を販売しています。主要制度の登録例つきで、月1回の更新運用にそのまま乗せられます。「情報をくれる事務所」のポジションを仕組みで作りたい税理士事務所・支援機関の方にどうぞ。
まとめ
- 補助金情報の取りこぼしは「追う仕組みがない」ことが原因。台帳+月次30分で解決する
- マスタには次回公募の見込みを書き、公募前から予告できる状態を作る
- 顧問先の「投資・採用・賃上げの予定」を聞く月次ヒアリングがマッチングの命
- 粗い絞り込みは機械化し、最終判定は人が付ける半自動が実務的
- 助成金の申請代行は社労士の独占業務。支援範囲を明確にし連携体制を作る

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