「うちは相続税がかかるのか、かかるならいくらぐらいか」——顧問先の社長やその家族から必ず出てくる質問です。正確な相続税申告は財産評価を含む専門業務ですが、概算シミュレーションを見せられるかどうかで、生前対策提案の入口がまったく変わります。
この記事では、相続税の計算構造(法定相続分課税方式)を整理し、財産総額と家族構成を入力すれば概算税額が出るExcelシミュレーションの作り方を解説します。配偶者の税額軽減や小規模宅地等の特例の影響も試算できる形にします。
相続税の計算構造
計算は4段階で進む
- ①課税価格の合計:財産総額 − 債務・葬式費用(+一定の生前贈与加算)
- ②課税遺産総額:課税価格 − 基礎控除(3,000万円 + 600万円 × 法定相続人の数)
- ③相続税の総額:課税遺産総額を法定相続分で取得したものと仮定して各人分の税額を速算表で計算し、合計する
- ④各人の納付税額:相続税の総額を実際の取得割合で按分し、配偶者の税額軽減や2割加算を反映する
「実際に誰がいくら取得したか」に関係なく、いったん法定相続分で仮計算して総額を出すのがこの方式の特徴で、Excel化するときもこの4段階をそのままシートの構造にするのが分かりやすい設計です。
相続税の速算表
| 法定相続分に応ずる取得金額 | 税率 | 控除額 |
|---|---|---|
| 1,000万円以下 | 10% | — |
| 3,000万円以下 | 15% | 50万円 |
| 5,000万円以下 | 20% | 200万円 |
| 1億円以下 | 30% | 700万円 |
| 2億円以下 | 40% | 1,700万円 |
| 3億円以下 | 45% | 2,700万円 |
| 6億円以下 | 50% | 4,200万円 |
| 6億円超 | 55% | 7,200万円 |
Excelシミュレーションの作り方
ステップ1:入力欄(財産と家族構成)
- B2:財産総額(不動産・預貯金・有価証券・生命保険など)
- B3:債務・葬式費用 B4:配偶者の有無(プルダウン) B5:子の数
- B6:小規模宅地等の特例による減額見込み(後述)
ステップ2:基礎控除と課税遺産総額
法定相続人の数:=IF(B4="あり",1,0)+B5
基礎控除:=30000000+6000000*法定相続人の数
課税遺産総額:=MAX(0,B2-B3-B6-基礎控除)
ステップ3:法定相続分で仮計算し総額を出す
配偶者と子2人なら、法定相続分は配偶者1/2・子1/4ずつです。各人の仮取得額に速算表(マスタシート)をVLOOKUPの近似一致で当てます。
配偶者の仮取得額:=課税遺産総額*0.5
子1人あたりの仮取得額:=課税遺産総額*0.5/B5
各人の仮税額:=仮取得額*VLOOKUP(仮取得額,速算表,2)-VLOOKUP(仮取得額,速算表,3)
相続税の総額:=配偶者の仮税額+子の仮税額*B5
ステップ4:配偶者の税額軽減を反映する
配偶者は「1億6,000万円」または「法定相続分」のいずれか大きい金額まで相続税がかかりません。概算段階では「配偶者が法定相続分どおり取得する」と仮定し、相続税の総額のうち配偶者按分をゼロにする簡便な形で十分です。
納付税額の概算(配偶者が法定相続分取得と仮定):
=相続税の総額*(1-配偶者の取得割合)
数値例:財産1億2,000万円・配偶者と子2人
| 項目 | 計算 | 金額 |
|---|---|---|
| 基礎控除 | 3,000万円+600万円×3人 | 4,800万円 |
| 課税遺産総額 | 1億2,000万円−4,800万円 | 7,200万円 |
| 配偶者の仮税額 | 3,600万円×20%−200万円 | 520万円 |
| 子の仮税額(1人) | 1,800万円×15%−50万円 | 220万円 |
| 相続税の総額 | 520万円+220万円×2人 | 960万円 |
| 納付税額の概算 | 配偶者軽減後(1/2取得と仮定) | 480万円 |
さらに自宅敷地に小規模宅地等の特例(居住用330㎡まで80%減額)が使えれば、たとえば評価5,000万円の敷地が1,000万円評価になり、このケースでは相続税がほぼゼロ圏内まで下がります。「特例が使えるかどうかで税額が数百万円変わる」ことを見せられるのが、概算シミュレーションの最大の提案効果です。
実務の注意点・つまずきポイント
- これは概算ツールであり申告計算ではない:土地の評価(路線価・補正率)、非上場株式の評価、名義預金の判定などは専門的な個別評価が必要です。シートには「概算であり、正式な税額は税理士による評価・計算が必要」と明記してください。
- 法定相続人の数え方に注意:養子の算入制限(実子ありなら1人まで)、相続放棄があっても基礎控除の人数には含める、など細かいルールがあります。
- 生命保険・死亡退職金の非課税枠を活用:各500万円×法定相続人の数の非課税枠は対策提案の定番です。入力欄を分けておくと対策効果を見せやすくなります。
- 生前贈与の加算にも注意:相続開始前の一定期間内の贈与は持ち戻されます。贈与戦略は別記事で詳しく扱います。(関連記事:No.60 暦年贈与と相続時精算課税の比較)
- 税率・控除は改正があり得る:速算表・基礎控除はマスタシートに分離し、公開時・使用時に最新であることを確認してください。相続した不動産を売却する場合の税金は譲渡所得の記事も参照を。(関連記事:No.58 不動産譲渡所得の試算)
よくある質問
Q. 配偶者にすべて相続させれば税金はかからないのでは?
一次相続では配偶者の税額軽減でゼロにできても、二次相続(配偶者が亡くなったとき)では配偶者軽減も使えず基礎控除も減るため、トータルの税負担がかえって増えることがあります。シミュレーターに二次相続の試算欄を設けて一次・二次の合計で比較するのが実務の定石です。
Q. 不動産の評価額は固定資産税の通知書の金額でいいですか?
概算段階では、土地は路線価(市場価格の8割程度が目安)、建物は固定資産税評価額で代用するのが一般的です。ただし正式な申告では画地補正等を含む財産評価が必要で、金額が大きく動くことがあります。概算と正式評価は別物と説明しておきましょう。
相続税概算シミュレーターのご案内
家族構成のパターン分岐(配偶者の有無・子の数・親/兄弟姉妹が相続人の場合)、生命保険非課税枠、小規模宅地の減額入力、速算表マスタまで組み込んだ相続税概算Excelシミュレーターをご用意しています。生前対策の初回面談で「まず全体像を見せる」ためのツールとしてお使いください。
まとめ
- 相続税は「法定相続分で仮計算した総額を実際の取得割合で按分する」4段階構造で計算される
- 基礎控除は3,000万円+600万円×法定相続人の数。まずここを超えるかが入口
- Excelなら基礎控除・仮計算・速算表参照・配偶者軽減まで自動化し、面談中に概算を提示できる
- 小規模宅地等の特例の有無で税額が数百万円変わるケースも多く、対策提案の入口になる
- 正式な税額計算には財産評価が必須。概算ツールの位置づけを明確にし、税率等は最新情報を確認する

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