小規模企業共済・iDeCo・倒産防止共済の比較と掛金の決め方|ふるさと納税の上限まで「今期の所得の範囲」で出す【令和8年分】

小規模企業共済・iDeCo・倒産防止共済の節税効果をExcelで比較する

秋から年末にかけて、顧問先から「今年は小規模企業共済をもっと掛けたほうがいい?」「倒産防止共済に入るべき?」「ふるさと納税はいくらまで?」と聞かれることが増えます。小規模企業共済・iDeCo・倒産防止共済(経営セーフティ共済)はどれも「掛金が控除になる」と説明されますが、下がる税目・お金の拘束・出口の課税がそれぞれ違い、さらに掛金を増やすとふるさと納税の上限が下がるという連動もあります。

もう一つの難しさは、提案する時点ではまだ今年の所得が決まっていないことです。年間見込は「このまま行けば」という数字の上の話で、業績はすぐには変えられません。この記事では、3制度の違いを比較したうえで、「今期が今終わった場合の所得」と「このまま推移した場合の所得」の2つを出し、その間で掛金と寄附額を決める方法を、令和8年分の数値で解説します。

目次

小規模企業共済・iDeCo・倒産防止共済の比較表

まず3制度を同じ物差しで並べます。比較のポイントは「どの税が下がるか」と「いつ・どれだけ払えるか」です。

項目小規模企業共済iDeCo倒産防止共済
掛金月1,000円〜70,000円(500円刻み)加入区分ごとに上限(下の表)月5,000円〜200,000円(5,000円刻み)・総額800万円まで
税の扱い全額が所得控除(小規模企業共済等掛金控除)全額が所得控除(同上)個人は必要経費、法人は損金
国保・個人事業税下がらない下がらない下がる(個人事業主の場合)
前納できる(1年以内の前納分は支払った年に控除)できない(年単位拠出は事前の届出が必要)できる(前納期間1年以内なら支出した年・期に算入)
お金の拘束任意解約できるが、20年未満は元本割れ原則60歳まで引き出せない40か月以上なら解約手当金は掛金の全額
受取時の課税退職所得・公的年金等(優遇あり)退職所得・公的年金等(優遇あり)個人は事業所得、法人は益金(優遇なし)
3制度の比較(令和8年分。制度の詳細・最新の限度額は各制度の公式情報で確認してください)

iDeCoは令和8年分と令和9年分で限度額が違う

iDeCoの拠出限度額は2026年12月分の掛金(2027年1月の引落し)から引き上げられます。所得控除は実際に引き落とされた年で判定するため、2026年中に引き落とされる掛金(令和8年分)はすべて改正前の限度額です。

加入区分令和8年分(改正前)令和9年分〜(改正後)
第1号(個人事業主)月68,000円(国民年金基金・付加保険料と合算)月75,000円(同)
第2号・企業年金なし(会社役員など)月23,000円月62,000円
第2号・企業年金あり月20,000円(企業年金の掛金との合算枠あり)月62,000円−企業年金等の掛金相当額
第3号月23,000円月23,000円
iDeCoの拠出限度額(厚生労働省の制度改正資料による。加入要件の細部は公式情報で確認)

決定的な違いは「どの税が下がるか」

3制度はどれも所得税・住民税を下げますが、個人事業主の場合は国民健康保険料と個人事業税への効き方がまったく違います。

  • 小規模企業共済・iDeCo(所得控除):所得税・住民税の計算で所得から差し引かれます。国民健康保険の所得割は「総所得金額等−43万円」で計算するため所得控除は効かず、個人事業税も事業の所得で計算するので下がりません。
  • 倒産防止共済(必要経費・損金):事業所得そのものが減るので、所得税・住民税に加えて国保の所得割と個人事業税まで下がります。ただし解約したときに受け取る解約手当金は、個人は事業所得、法人は益金になります。つまり税の繰延べです。

小規模企業共済・iDeCoは、受取時に退職所得控除・公的年金等控除という優遇枠で課税されるため、入口と出口の税率差が構造的に有利になりやすい制度です。倒産防止共済は、解約する年を退職金の支給年や赤字の年に合わせるなど、出口の設計とセットで考えます(関連記事:倒産防止共済(経営セーフティ共済)の節税効果をExcelでシミュレーションする)。

提案の場面では、この違いを分けて見せるのが誠実です。「当年の所得控除による税負担の減少」と「当年の経費算入による税負担の減少(解約時に課税あり)」を別の行で示すと、顧問先も判断しやすくなります。

掛金は多いほど得ではない:効果が止まる点がある

所得控除は「課税される所得」がゼロになった時点で効果がなくなります。所得税の課税所得がゼロになった後に小規模企業共済やiDeCoを増やしても、所得税は1円も下がりません(住民税は基礎控除が小さいため、もう少し先まで効きます)。ふるさと納税も同じで、上限を超えた分はそのまま自己負担です。

さらに、掛金を増やすと所得が下がり、ふるさと納税の上限も下がります。共済とふるさと納税を別々に計算すると、共済を増やした結果、寄附が上限を超えてしまうことがあります。この2つは必ず同じ計算の中で連動させて出します。

期中に決めるには「2つの所得」を出す

9月や10月の時点で分かっているのは、基準月までの実績だけです。残りの月の予測を足した年間見込は、あくまで「このまま行けば」の数字で、事務所の側から業績を動かすことはできません。そこで、提案の出発点として次の2つを並べます。

所得計算意味
今期が今終わった場合基準月までの実績の所得 − 減価償却費(年額を全額)今この時点で締めたらこの所得になる、という下限の目安
このまま推移した場合実績 + 残りの月の予測 − 減価償却費 − 賞与・棚卸などの期末の調整今のペースが続いた場合の上限の目安
期中の提案で並べる2つの所得

減価償却費は、期の途中でも年額の全額を差し引きます。「今期が今終わったら」という問いに対しては、決算で計上する減価償却費は全額が入るからです。賞与や棚卸の増減は期末に計上する性質のものなので、「このまま推移した場合」の側にだけ入れます。

この2つの所得それぞれで、税率・課税所得・所得控除の余地・ふるさと納税の上限を計算します。2列の間が「業績に応じて顧客が調整する範囲」になります。

記入例で見る範囲の出し方

次の表は、8月までの実績を入れた個人事業主の記入例(青色申告65万円、配偶者控除あり、小規模企業共済月2万円・iDeCo月23,000円に加入中)の数字です。売上・経費は仮定値です。

項目今期が今終わった場合このまま推移した場合
事業所得(掛金反映前・青色控除前)3,730,000円6,212,900円
所得税の課税所得154,000円3,006,000円
所得税の税率5%10%
所得税がゼロになるまでの所得控除の余地約15万円約300万円
ふるさと納税の寄附上限の目安(現状の掛金のまま)20,000円84,000円
記入例の試算(令和8年分。千円未満切捨て。国保・個人事業税は別に計算)

「今期が今終わった場合」では所得控除の余地は約15万円しかなく、小規模企業共済を大きく増やしても所得税はほとんど下がりません。一方「このまま推移した場合」なら余地は約300万円あります。ふるさと納税も20,000円〜84,000円の幅があります。顧客には「最低でもここまでは安全、このまま推移すればここまで」と範囲で示し、今後の受注の見通しに応じて金額を決めてもらうのが、期中の提案として現実的です。

ふるさと納税の上限は「最低〜最高」で出す

ふるさと納税の上限は、住民税の特例控除が「住民税所得割額(調整控除後)の20%」に収まる寄附額です。よく使われる簡易式は次のとおりです。

上限の目安 = 住民税所得割額 × 20% ÷(90% − 所得税の税率 × 1.021)+ 2,000円
※ 1,000円未満切捨て

ただし簡易式は、寄附金控除で所得税の税率の段が変わるケースや、住宅ローン控除がある場合にずれます。精密に出すなら、寄附額の候補を1,000円刻みで並べ、それぞれ「所得税の減少+住民税の基本控除+特例控除」を計算して、自己負担が2,000円に収まる最大の寄附額を探します。記入例の法人役員のケースでは、簡易式の70,000円に対して精密計算では62,000円になりました(掛金を上限まで増やした案)。

もう一つ注意したいのが、住民税は前年の所得で翌年度に課税される点です。令和8年分の所得に対応するのは令和9年度の住民税で、給与所得控除の最低保障額などは翌年度の数値で計算します。また、特例控除額には令和9年の寄附分から193万円の定額上限が設けられます(総務省)。これは寄附額ではなく特例控除額の上限です。

個人事業主は確定申告をするため、ワンストップ特例は使えません。詳しい計算の組み方はふるさと納税の限度額をExcelで正確に計算する方法でも解説しています。

期末までに間に合う打ち手と時期の制約

9月以降に提案する場合、制度ごとに「今年(今期)に効かせられるか」が違います。

  • 小規模企業共済:掛金月額の増額ができ、1年以内の前納分は支払った年の控除になります。前納は支払った月から将来の月分に充当されるので、「月額×12」の固定額ではなく、支払月と対象月で計算します。
  • 倒産防止共済:前納は原則として希望月の5日までに申し出て、27日に引き落とされます(中小機構)。前納期間が1年以内なら支出した年・事業年度の必要経費・損金になります。10月に12か月分を前納すると、10月分〜翌年9月分に充当されます。
  • iDeCo:前納はできません。掛金の変更は年1回で、届出から引落しに反映されるまで時間がかかります。今年度すでに変更していれば、今年の残りの月は変えられません。反映が翌年1月以降になれば、今年分の控除は増えません。
  • ふるさと納税:12月31日までの寄附が今年分です。

Excelで組む手順

ステップ1:月次の実績と予測から2つの所得を出す

実績計      =SUMIF(月番号,"<="&基準月,月次の金額)
予測(月平均)=実績計/基準月
今期が今終わった場合の所得 =実績の所得計 − 減価償却費(年額)
このまま推移した場合の所得 =年間の所得計 − 減価償却費 − 賞与 + 棚卸の増減

倒産防止共済の掛金は、ほかの経費と混ぜずに別の行に入れます。所得の見込みからは除いておき、プランごとの掛金を後から差し引くと二重計上を防げます。

ステップ2:掛金を月別の支払スケジュールにする

各月の支払 =IF(月<=基準月, 0,               ← 支払済みは別に集計
            IF(月=前納月, 月額×前納月数,
            IF(前納で充当済みの月, 0, 月額)))
倒産防止は「総額800万円−払込累計」で打ち止め、解約から2年以内の月は算入0

ステップ3:税額とふるさと納税の上限を2つの所得で計算する

基礎控除・所得税の速算表・給与所得控除・住民税の率は、年分で切り替わる前提値として別シートにまとめます。令和8・9年分の所得税の基礎控除は、合計所得金額489万円以下で104万円、489万円超655万円以下で67万円、655万円超2,350万円以下で62万円です(財務省 令和8年度税制改正の大綱)。改正があってもその表だけ直せば全体に反映される形にしておくと、翌年も使えます。

所得税の課税所得 =ROUNDDOWN(MAX(0,合計所得−所得控除),-3)
所得税の余地     =MAX(0,合計所得−所得控除)      ← これを超える所得控除は所得税に効かない
ふるさと上限     =寄附額の候補のうち、自己負担<=2,000円の最大値(1,000円単位)

実務の注意点

  • 倒産防止共済の2年ルール:令和6年10月1日以後に解約し、解約の日から2年を経過する日までに再加入して支払った掛金は、必要経費・損金になりません(中小機構)。
  • 倒産防止共済の総額800万円:払込累計が上限に近い場合、前納しても枠を超えた分は払えません。
  • 小規模企業共済の加入資格:常時使用する従業員数の上限は業種で違います(商業・サービス業は5人以下、宿泊業・娯楽業や製造業などは20人以下)。
  • 元本割れ・掛け捨て:小規模企業共済・倒産防止共済は12か月未満の解約で掛け捨て、倒産防止共済は40か月未満の解約で元本割れします。
  • 法人と役員は期間も財布も別:倒産防止共済は法人の事業年度、小規模企業共済・iDeCo・ふるさと納税は役員個人の暦年です。合計して見せるときは「一体で見た参考値」と明記します。
  • 国保は所得割だけ動く:均等割・平等割は変わりません。賦課限度額に達している区分は、所得が下がっても保険料は変わりません。

ここでの整理は一般的な考え方です。年齢・事業の見通し・資金繰りによって最適な組み合わせは変わります。具体的な判断は税理士等の専門家にご相談ください。

よくある質問

小規模企業共済とiDeCoは併用できますか?

併用できます。どちらも小規模企業共済等掛金控除として全額が所得控除になります。ただし合計の控除が所得税の課税所得を超えると効果は止まるため、「所得税がゼロになるまでの余地」の範囲で配分します。

共済の掛金を増やすとふるさと納税の上限は下がりますか?

下がります。所得控除や必要経費が増えると住民税の所得割が減り、特例控除の上限(所得割の20%)も小さくなるためです。共済を決めてからふるさと納税の上限を計算し直してください。

年末に倒産防止共済を前納すれば、その年の経費にできますか?

前納期間が1年以内であれば、支出した年(法人は事業年度)の必要経費・損金になります。前納の申出は原則として希望月の5日までです。解約時には解約手当金が事業所得・益金になるため、出口の計画とあわせて判断します。

9月の時点で、年間見込だけで提案してはいけませんか?

年間見込は「このまま推移すれば」の数字で、実際にそうなる保証はありません。年間見込だけで掛金や寄附額を決めると、業績が下振れしたときに所得控除が余ったり、寄附が上限を超えたりします。「今期が今終わった場合」とあわせて範囲で示すほうが安全です。

節税共済 掛金最適化シートのご案内

ここまでの計算を1つのExcelにまとめた節税共済 掛金最適化シートを用意しています。月次の実績を入れるだけで「今期が今終わった場合」と「このまま推移した場合」の所得を出し、小規模企業共済・iDeCo・倒産防止共済の3プランの支払スケジュール、税・国保(所得割)・個人事業税の減少、ふるさと納税の寄附上限(最低〜最高)をA4 1枚の提案書にまとめます。個人事業主と、法人+役員の両方に対応しています。

まとめ

  • 小規模企業共済・iDeCoは所得控除(税負担の軽減)、倒産防止共済は必要経費・損金(課税の繰延べ)。個人事業主では国保・個人事業税への効き方が違う
  • 所得控除は所得税の課税所得がゼロになった点で効果が止まる。掛金を増やすとふるさと納税の上限も下がる
  • 期中の提案は「今期が今終わった場合(減価償却費は全額)」と「このまま推移した場合」の2つの所得を出し、その範囲で決める
  • ふるさと納税は寄附額を試算して自己負担2,000円以内の最大額を出し、「最低〜最高」で示す
  • 前納・掛金変更・倒産防止の2年ルールなど、期末までに間に合うかを制度ごとに確認する
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