会社が役員や従業員に社宅を貸すとき、必ず出てくるのが「賃貸料相当額(ちんたいりょうそうとうがく)」という言葉です。
この金額を正しく理解していないと、「社宅にしたつもりが、結局その分が給与として課税されてしまった」という事態になりかねません。逆に、賃貸料相当額の考え方を押さえておけば、会社にとっても役員・従業員にとっても有利な形で社宅制度を運用できます。
この記事では、賃貸料相当額とは何か、どう計算するのか、そして実務でつまずきやすい注意点を、国税庁の基準にそって整理します。
この記事は一般的な考え方を解説するもので、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の処理は顧問税理士等にご確認ください。
賃貸料相当額とは何か
賃貸料相当額とは、ひとことで言えば「会社が役員・従業員から、最低限これだけは家賃として受け取っておくべき」という基準額のことです。
社宅は、本来であれば家賃を払って住む場所を、会社が用意して安く(あるいは無償で)貸す仕組みです。そのため、相場より安く貸した「お得な分」は、給与の一部(現物給与)とみなされて課税される可能性があります。
そこで税務上は、物件ごとに「これだけ家賃を取っていれば、給与課税はしなくてよい」というラインを定めています。これが賃貸料相当額です。
ポイントは2つです。
- 実際に徴収する家賃が賃貸料相当額を下回ると、その差額が給与として課税されうる
- 賃貸料相当額は相場家賃ではなく、固定資産税の課税標準額をもとに計算する(多くの場合、相場よりかなり低くなる)
この「相場よりかなり低い金額で済む」という点が、社宅制度が節税につながると言われる理由です。
賃貸料相当額の計算方法(小規模な住宅の場合)
実務でもっともよく使うのが「小規模な住宅」のケースです。まずはここを押さえれば、社宅の大半はカバーできます。
「小規模な住宅」とは
建物の法定耐用年数によって、次の床面積以下なら「小規模な住宅」に該当します。
- 木造など(法定耐用年数30年以下):床面積 132㎡以下
- 木造以外など(法定耐用年数30年超):床面積 99㎡以下
一般的なワンルーム〜ファミリー向け賃貸の多くは、この範囲に収まります。
計算式
小規模な住宅の賃貸料相当額は、次の①〜③の合計額です。
① 建物の固定資産税の課税標準額 × 0.2%
② 12円 × (建物の総床面積(㎡) ÷ 3.3(㎡))
③ 敷地の固定資産税の課税標準額 × 0.22%
賃貸料相当額 = ① + ② + ③
この計算は役員・従業員のどちらでも、小規模な住宅であれば同じ式を使います。
計算してみる(具体例)
たとえば次の物件で計算してみます。
- 建物の固定資産税の課税標準額:500万円
- 建物の総床面積:60㎡
- 敷地の固定資産税の課税標準額:800万円
① 5,000,000円 × 0.2% = 10,000円
② 12円 × (60㎡ ÷ 3.3) = 12円 × 18.18… ≒ 218円
③ 8,000,000円 × 0.22% = 17,600円
賃貸料相当額 = 10,000 + 218 + 17,600 = 約27,818円/月
仮にこの物件の相場家賃が10万円だったとしても、税務上の基準(賃貸料相当額)は月約2.8万円です。会社がこの金額以上を役員・従業員から徴収していれば、給与課税の問題は生じません。
計算に必要な「固定資産税の課税標準額」は、市区町村が発行する固定資産課税明細書(納税通知書に同封)で確認できます。賃貸物件の場合は、貸主や管理会社に確認が必要なことがあります。
役員と従業員で「いくら徴収すべきか」が違う
賃貸料相当額の計算式は共通でも、実際にいくら徴収すれば課税されないかは役員と従業員で異なります。ここが最大の注意点です。
従業員の場合:賃貸料相当額の50%以上
従業員(使用人)に社宅を貸す場合は、賃貸料相当額の50%以上の家賃を受け取っていれば、給与として課税されません。
先ほどの例(賃貸料相当額 約27,818円)なら、その半分の約13,909円以上を徴収していればOKということになります。
役員の場合:原則として賃貸料相当額の全額
一方、役員に社宅を貸す場合は、賃貸料相当額の全額を徴収する必要があります。従業員のような「50%以上でOK」という扱いは、役員にはありません。
ただし誤解されやすいのですが、役員の小規模住宅では賃貸料相当額そのものが上記の式で低めに算定されるため、「全額徴収」でも実際の負担はそれほど大きくならないことが多いです。「役員は半額でいい」という説明は不正確なので注意してください。
| 計算式 | 課税されない徴収ライン | |
|---|---|---|
| 従業員(小規模住宅) | ①+②+③ | 賃貸料相当額の50%以上 |
| 役員(小規模住宅) | ①+②+③ | 賃貸料相当額の全額 |
小規模な住宅に当てはまらない場合
床面積が基準を超える社宅(小規模でない住宅)や、いわゆる「豪華社宅」は、計算方法が変わります。概要だけ押さえておきましょう。
- 役員・小規模でない住宅(自社所有):おおむね「建物の課税標準額×12%(木造以外は10%)+敷地の課税標準額×6%」を12で割った金額が基準になります。
- 役員・小規模でない住宅(会社が借りて貸す):会社が家主に支払う家賃の50%と、上記計算による金額の、いずれか多い方が賃貸料相当額になります。
- 豪華社宅(床面積240㎡超など、または設備・内装が個人の嗜好を著しく反映するもの):この計算式は使えず、通常支払うべき家賃(時価)が基準になります。
該当しそうな場合は、自己流で処理せず税理士に確認することをおすすめします。
賃貸料相当額でつまずきやすい注意点
最後に、実務でミスが起きやすいポイントをまとめます。
- 無償で貸すと全額が給与課税:家賃を1円も徴収しないと、賃貸料相当額の全額が給与として課税されます。必ず一定額を徴収しましょう。
- 「相場の半額」ではなく「賃貸料相当額の基準」で考える:相場家賃を基準に半額にしても、税務上の賃貸料相当額とは別物です。混同しないようにします。
- 課税標準額は毎年見直される:固定資産税の課税標準額は改定されることがあります。賃貸料相当額も本来は連動するため、定期的な確認が望ましいです。
- 給与天引きの設計:徴収は給与からの天引きで行うのが一般的です。金額の根拠(計算書)を残しておくと、税務調査の際にも説明しやすくなります。
- 個人契約の家賃補助は社宅と別物:従業員が自分で契約した部屋に会社が手当を出す「家賃補助」は、原則として全額が給与課税されます。社宅制度とは扱いが違うので注意してください。
まとめ
- 賃貸料相当額とは、社宅で給与課税されないために「最低限これだけは徴収すべき」という基準額。
- 小規模な住宅なら「①建物の課税標準額×0.2% + ②12円×(床面積÷3.3) + ③敷地の課税標準額×0.22%」で計算する。
- 課税されない徴収ラインは、従業員は賃貸料相当額の50%以上、役員は全額。
- 相場家賃より大幅に低い金額で済むことが多く、これが社宅の節税メリットにつながる。
社宅制度は、計算の考え方さえ押さえれば、小さな会社にとって有効な仕組みです。一方で、課税標準額の確認や役員・従業員の区分など、毎回手作業で計算すると手間もミスも増えがちです。
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参考(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサー No.2600「役員に社宅などを貸したとき」
- 国税庁 タックスアンサー No.2597「使用人に社宅や寮などを貸したとき」
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