会社を作ってまず悩むのが「自分の役員報酬をいくらにすればいいのか」です。
多すぎれば社会保険料と所得税が重くなり、少なすぎれば法人に利益が残って法人税がかかるうえ、自分の生活も回りません。一人会社の場合は調整役が自分だけなので、なおさら基準が欲しくなります。この記事では、役員報酬の決め方を、判断の軸と具体例で整理します。
本記事は一般的な解説であり、個別の税務判断を保証するものではありません。実際の金額設定は顧問税理士等にご確認ください。
まず押さえる大前提:役員報酬は「期首に決めて1年固定」
役員報酬は、従業員の給与のように毎月自由に変えられません。損金(経費)にするには、原則として次のルールを満たす「定期同額給与」にする必要があります。
- 事業年度開始から3か月以内に金額を決める
- その事業年度は毎月同額を支給する(期中の増額・減額は原則できない)
期の途中で「利益が出そうだから報酬を増やす」といった調整をすると、増額分が損金にならないなどの不利益が生じます。つまり役員報酬は、期首に1年分を見通して決めるのが基本です。だからこそ、決め方の基準が重要になります。
役員報酬を決める3つの軸
① 法人に残す利益(法人税)とのバランス
役員報酬を上げれば会社の利益は減り、法人税は軽くなります。逆に報酬を下げれば会社に利益が残り、法人税がかかります。
ただし「報酬を上げれば得」とは限りません。報酬を受け取った個人側で、所得税・住民税・社会保険料がかかるからです。会社と個人を合わせた負担の合計で考える必要があります。
② 社会保険料の負担
一人会社でも、役員報酬を支払う以上、社会保険(健康保険・厚生年金)への加入が原則必要です。保険料は報酬月額をもとに計算され、会社と本人で折半します。
令和8年度(2026年度)のおおよその料率は次のとおりです(本人負担分)。
| 項目 | 料率の目安(本人負担) |
|---|---|
| 健康保険(協会けんぽ) | 約4.95%(全国平均9.9%の折半。都道府県で変動) |
| 介護保険(40〜64歳) | 0.81%(全国一律1.62%の折半) |
| 厚生年金 | 9.15%(18.3%の折半) |
会社負担分もほぼ同額かかるため、会社+本人で報酬の約30%が社会保険料として出ていくイメージです(標準報酬月額には上限があり、高額部分は頭打ちになります)。報酬を上げると、この社会保険料も比例して増えます。
③ 生活費と資金繰り
役員報酬は、自分の生活費の原資です。生活に必要な手取りから逆算することも、現実的な決め方です。同時に、報酬を高くしすぎると会社の資金繰りが苦しくなります。会社に最低限の運転資金を残せる金額であることも条件です。
具体例:報酬を変えると負担はどう動くか
会社の利益(役員報酬を引く前)が年600万円出る一人会社を例に、報酬の高低で全体像を比べます(数値は説明用の概算で、料率・控除は令和8年度ベースの目安です)。
パターンA:役員報酬を年120万円(月10万円)と低めにする
- 会社に残る利益が大きく、その分法人税がかかる。
- 個人の所得税・住民税・社会保険料は小さい。
- ただし手取りが少なく、生活費が不足しがち。
パターンB:役員報酬を年480万円(月40万円)と高めにする
- 会社の利益はほぼ消え、法人税は小さくなる。
- 個人側で所得税・住民税・社会保険料がしっかりかかる。
- 社会保険料(会社+本人)だけで年間100万円超になることも。
パターンC:間をとって年360万円(月30万円)
- 法人にも個人にも極端な負担が偏らない。
- 多くの一人会社で「まずここから検討」されやすいゾーン。
ポイントは、Aが必ず得・Bが必ず損とは言えないことです。法人税率、社会保険料、所得税の累進、将来の年金額(厚生年金は報酬が高いほど将来の受給も増える)まで含めて、トータルで比較する必要があります。
役員報酬を決める手順
1. 年間の利益見込みを立てる
役員報酬を引く前のおおよその利益(または売上と経費の見込み)を出します。ここが出発点です。
2. 必要な生活費(手取り)を出す
毎月いくらあれば生活が回るかを把握します。報酬の下限の目安になります。
3. 報酬を何パターンか置いて比較する
「月20万・30万・40万」など複数の金額で、法人税+所得税+住民税+社会保険料の合計を試算し、手取りと会社に残る現金を見比べます。1つの正解を探すより、数パターン並べて比較するのが現実的です。
4. 期首に決めて1年固定する
比較のうえで決めた金額を、期首から毎月同額で支給します。賞与的に多く払いたい場合は、別途「事前確定届出給与」の届出が必要です(届出どおりに支給しないと損金にできません)。
よくある失敗
- 期の途中で報酬を増減する → 定期同額給与から外れ、損金にできない部分が出る。
- 社会保険料を見落として高く設定する → 想定外の保険料で資金繰りが悪化。
- 手取りだけで決めて法人税を考えない → 報酬を絞りすぎて会社に利益が残り、法人税が重くなる。
- 数字を試算せず感覚で決める → トータル負担が見えないまま、損な水準で1年固定してしまう。
まとめ
- 役員報酬は期首に決めて1年固定(定期同額給与)が原則。
- 決め方の軸は、①法人税とのバランス ②社会保険料 ③生活費・資金繰りの3つ。
- 「上げれば得・下げれば得」ではなく、会社+個人のトータル負担で比較する。
- 複数パターンを試算して、手取りと会社に残る現金を見比べてから決める。
報酬の高低でトータル負担と手取りがどう動くかは、毎回手計算すると大変です。金額を入力すれば社会保険料・税・手取りまで一度に出る仕組みにしておくと、期首の意思決定がぐっと楽になります。
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参考(一次情報)
- 国税庁 タックスアンサー No.5211「役員に対する給与(平成29年4月1日以後支給決議分)」
- 国税庁 タックスアンサー No.1410「給与所得控除」
- 全国健康保険協会(協会けんぽ)令和8年度 保険料額表
- 日本年金機構 厚生年金保険の保険料
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